13. フラさんは推理を推察という
「今度は、桐山くんの番」
ベッド脇の椅子に座ったフラさんが要求している。
正に取り調べをしている刑事のようで、窓際に立つ磯崎さんが霞んでいる。
「俺が力を得たのは、羽根が降った日から一週間程経ってから……。あの日も、近所の子と夜のランニングに行っていたんだ」
「一緒に被害にあった如月夏海さんだね!」
いきなり磯崎さんが、固有名詞を挟んできた。
視線をやると、フラさんを見下ろすようにドヤ顔してる。
ああ、ちょっと情報があるんだよって所を見せて、刑事ぶりたいんだな。小さい……。小さいよ、身体は大きいのに、小さい。
「続けて」
対するフラさんは、渋い。ベテラン刑事の顔だ。
「あっはい。そこで、根岸を見て」
「ちょちょちょちょっと待って!根岸って、根岸渡?一家皆殺しの重要参考人の根岸渡か!」
磯崎さん、警察の人間としては正しい反応かもしれないけど、ほら、フラさんが睨んでる。
磯崎さんを無視して話を続ける。
「それで、追ってたら、ゴブリンに現れて……」
「追ってって…………根岸渡は殺人犯だぞ…………」
溜息をつく磯崎さんをスルー。
だって、フラさんの目が怖いんだよ。
異様な迫力があるよな、フラさんって。
つい、敬語になってしまう。
「現れてどうしたんだい?」
「夏海。如月夏海。妹みたいな存在で……。一緒に走ってたその子が襲われそうになって……」
「能力が覚醒したんだね」
「はい。願いは、『討つ力!』。欲したのは、『武器』です」
「能力名は?」
「【百一の利剣】刀が現れます」
「なるほど。それで、ゴブリンを撃退したんだね」
「はい」
ちょっと間、黙っていた磯崎さんが訳知り顔で言ってくる。
「なるほど〜。それで、ゴブリンにまた襲われることがないように、ランニングコースを変えてたんだね。でも、災難だったよね、変えたコースでもゴブリンに襲われるなんて」
「いや、違うでしょう。桐山くんはゴブリンを避けていたのではなく、ゴブリンを狩っていたのでしょう」
フラさんは、確信めいた瞳だ。
俺は頷く事しかできなかった。
「えっ、嘘だろ。高校生だよ。ゴブリンを狩るなんて…………」
「狩っていたよね」
戸惑う磯崎さんに決め付けるフラさん。
俺は覚悟を決めて。
「はい、狩ってました……」
「やっぱり」
「でも、どうして?」
なぜ、『やっぱり』なんだろうか。何故、フラさんは、俺がゴブリン狩りをしていたことが判るのか?
「桐山くんは好戦的だから」
『好戦的だから』、その言葉の意味が解らなかった。何をもって、フラさんは俺を好戦的と決めるのか。
「あ、解っていない顔してるね。おい、警察屋さん、お前も解らないの?」
キョトンとしている磯崎さんに、『どういうこったい』と両手の平を肩辺りで上に向けるジェスチャーをするフラさん。ちょっとジェスチャーが古い……。
「普通さ、妹分が襲われてたら、願うのは、『守る力』だよ。百歩譲っても『戦う力』。でも、桐山くんは『討つ力』を望んだ。殺すという好戦的な意思が丸わかりだよ」
言葉が出ない。
「更に言うとさ、初めに襲われた後に警察に言えばよかったんだよ。それが一般的。でも、そうしなかった。楽しかったんでしょ、力を使うのが」
グウの音も出ないって、こういう事。
雰囲気の振り幅が大き過ぎて恐い。絶対にフラさんの方が好戦的だよ。
空気を変えたのは磯崎さん。
「はい、質問です」
「どうぞ、磯崎くん」
「『うつ』だったら、拳銃とかが出るんじゃないですか?何故刃物?」
「実に警察屋さんっぽい発想ですね~。でも、おそらく『撃つ』ではなく『討つ』なんじゃないのかな?そっちの線で推論してるけど」
「『撃つ』と『討つ』……」
「スマホあるんでしょ。調べてごらん」
「────おお!」
「違いが理解できましたか?」
俺も確認してみたら、『討つ』には、攻撃する、攻め滅ぼす、征伐する、傷付け殺すという意味があった。考えていた以上に物騒な言葉であるが、あの時に望んだのは、この『討つ』であったことは、間違いない。
「まあ、それ以前に、『力』を望む時点で、好戦的なんですけどね……」
そんな事を言いながら、フラさんは、フラッと病室から出ていった。
フラさんが急に出ていくのは、いつもの事。
暫くすると、またフラッと現れる。
「なぁ、根岸渡を見たってのは本当?」
ソワソワしながら聞いてくる磯崎さんに、首肯で応える。
「これは警察に言っても良い?」
「駄目とは言えないですよね」
「ありがとう!で、どこで見た?」
「根岸の家の前」
「えっ、家」
感じからして、警察も根岸が帰ってくることを見越して、家の周りを監視していたのだろうか?
「いや〜、巡回の強化はしてたんだけどね。正直、二十四時間の張込みは、できていなかったんだよ。それに、張込みしてたら亜生物の襲撃とかあったりしてさ」
能力について言っても良いんだろうか?
これにより、夏海の能力が警察に知られて、マークされたりはしないんだろうか?
「で、その根岸って子の能力は、ゴブリンに関係するもの?それとも、隠れる系?」
フラさんが帰ってきた。
真希ちゃんの巡回時間だからさ、ちょっと帰ってたと、言いながら、話を続ける。
「いや、ゴブリンと根岸って子が関係あるのは想像できるけど、それで警察の網を掻い潜り続けれるものかなって、思ってさ」
「違うと思う」
俺は、自分の知り得る根岸の能力についてと、ゴブリンを自分の子供と言っていた事を伝えた。
「これについても、警察に言っても良い?」
「人死に関係する事だし、警察に伝えておくべきだろう」
フラさんが俺の代わりに答える。
フラさんが帰ってきた途端、話の仕切りはフラさんになる。それが、嫌味なくできるのは、凄いと思う。
「それで、話を戻すよ。推察すると──」
能力の話に戻った。
フラさんは、能力は能力名よりも『願い』と『欲するモノ』の方も重要なのではないかと言う。確かに、『能力名』は、どんな能力かを示すものであるが、それを導いた『願い』と『欲するモノ』の関連性を考えるのも重要なのじゃないかと言うのだ。
「ちなみに、磯崎くんの【望みし我家】だけど、効果だけをみると、テレポーテーションだよね。超能力の大道だし、能力としては、大きいと思うんだ。でも、自由度が低いよね。家限定でしょう。『家に帰りたい』と『寝たい』では、そうなってしまうんだろうね。能力名だけでは解らない事が見えてくるんじゃないかな」
「「なるほど!」」
「じゃあ次に、『願い』の為に、何を『欲する』かと捉えてみよう。桐山くんの場合、これがピッタリくる。『討つ力』の為の『武器』。目的がはっきりしてるよね」
この『願』と『欲』の関連性も能力に影響を与えるのではないかと、フラさんは言う。
確かに、能力について調べようにも、言葉以外に手掛りがないのが実情。もっと言葉を丁寧に見つめ直してみるしかない。
それにしても、フラさんは何者なんだろうか?
つい、見つめてしまう。
「そんなに見つめるなよ。照れるし、奥さんに誤解されるぞ」
「えっ」
「ほら、もう来る頃だろ」
【昊ノ燈】と申します。
読んでいただき、ありがとうございます。
もし、この小説を応援したいと思っていただけたなら、ブクマを宜しくお願い致します。
面白いと思われた方
[★★★★★]で、評価くださると幸いです。
面白くないと思われた方
[★☆☆☆☆]と、一つ星で教えて下さい。
ご意見を持たれた方も、遠慮なくお伝え下さい。
良いも悪いも作者のモチベーションとなります。
これからも、宜しくお願い致しますお願い。