12. 磯崎さんは警察に向いてない?
病院での生活が一ヶ月を過ぎようとしていた。
矢は、背中から肺までと、左肩を穿き、四ヶ月以上の入院が必要と言われていたが、驚異的な回復力で、後二週間程で退院できる目処がついた。
医者も看護師さんも驚いていたけど、それ以上に、大きい怪我が無いとはいえ、全身を投石で打ち付けられた夏海が入院二泊で退院していったのが衝撃的過ぎて、俺の事はそれ程の話題にはならなかった。だって、夏海ときたら、青痣すらもなくなっていたのだから。
『若いって凄いねぇ』
この一言で片付いたのは、行幸だ。
ちなみに、夏海は退院の日に病室に来てくれて、『怖いね……』と、俯きながら言って帰っていった。
それから見舞いに来ていない。
馬鹿弟の皐月も、夏海の退院と同時に病室に来なくなった。どうも、夏海のボディーガードを気取っているらしい。夏海にも、刑事さんが警護に付いているハズなのに……。
まぁ、夏海には、メールで刑事が警護についている事を伝えているので、力を使って変な事はしていないと思う。
それで、毎日来るのが弥生。
個室から大部屋に移動してからも、毎日来るので、部屋の爺様連中から『奥様』認定されている。
実際、親よりも来てるからね。
学校帰りに病室に寄って、見舞い時間ギリギリの八時まで病室で過ごし、見舞に来た仕事帰りの俺の母親と車で帰るのがルーティンになっている。
病院で新しい出会いもあった。
一人は、警察から警護で来てくれている磯崎さん。
三十前の明るい雰囲気の男性。ちなみに、磯崎さんも能力を持っている。
【望みし我家】という力。『我家』と付いているので、根岸に近い力かと思ったら、一瞬で家に帰れるという瞬間移動系。何でも、刑事達の中では、一番多い力らしい。なんとなく、刑事という職業の大変さを物語る力だな、なんて思ってしまった。
もう一人が、フラさん。
二十代そこそこの男性で、名前は教えてもらっていない。ここの入院患者らしいけど、ふらっと来ては、ふらっと帰るから、フラさんと呼んでいる。
学校終わりの弥生が来るまで、大抵は磯崎さんとフラさんの三人で過ごしている。
「──でな、俺の異能力も大概なもんだけど、先輩でな、もっと大概な異能力をもった人がいるんだよ」
「え、どんな能力なんです?」
「聞きたいか?」
「当然!」
「俺と同じ瞬間移動系なんだけどな──プッ、クスクス」
「笑ってないで、教えてくださいよ」
「クスクス──それがな、温泉に行ってしまうんだよ」
「温泉ですか?」
「そう、温泉。初めて署内で異能力を使った時にな、その先輩が消えてしまって大騒ぎになったんだよ。携帯は繋がらないし、家に電話しても奥さんが帰ってきていないっていうしさ──」
どうなったと思う?という、勿体ぶった瞳が笑ってる。
「──電話がかかってきたんだよ。箱根の警察から」
「へっ?」
「服のまま温泉の中に──プッ──瞬間移動。ププッ──携帯水没。プププッ──靴のまんま。温泉側からしたら目一杯不審者だろ──プハハ──通報されて、捕まってんの」
笑い過ぎでしょ磯崎さん。
「どしたの?大笑いして」
フラさん登場。
「あっ、これ差し入れ」
一口羊羹。コンビニのレジ横にたまに置かれてる奴。うわぁ、これ買う人いたんだ。って、フラさんの差し入れチョイスは少し古い。この前は最中だったし、黒飴の時もあった。んっ、逆に新しい?
「うわっ、これ美味。小倉最強!」
磯崎さんは食いついている。
「それで、何で笑ってたんだ?」
「いや、磯崎さんの知り合いの変な能力について」
「そうそう、温泉に飛んでっちゃう人がいるんですよ」
「温泉か~。いいな」
「退院したらフラさんも行きましょうよ。三人で」
「えっ、嫁ちゃん呼ばないの?」
磯崎さんは、弥生を嫁ちゃんと呼ぶ。何回も嫁じゃないと、言ってんだけど…………。
「退院したらか……」
フラさんは、退院の話で少し暗くなる。俺たちは、フラさんの病室も病状も知らない。引き締まった身体に不似合いな、着古された縞々の寝巻きが病院生活の長さを知らしめてくる。
「それよりも、退院までに桐山くんの能力を何とかしないとな。警察のデータの中に同じような能力は無かったんだよね」
フラさんは、強引に話題を変えた。
フラさんの前では、能力の事はオープンになってしまっている。俺と磯崎さんが警察職員の能力について軽く話しているのも、フラさんの影響。
出合って、少し話をしただけで俺の能力の粗方を言い当ててしまった。
『だってさ、桐山くんの治りの速さは、絶対に能力を得た人のモノだからね。そして、警察とは思えないくらいに口の軽い磯崎くんの話からすると、亜生物って奴等は、投石、弓矢っていう遠距離攻撃をしたんだろ。そして、死体の中には、斬られたモノがあったと。でも、桐山くんは武器を持っていない──つまりは、桐山くんには、近距離の攻撃手段があって、遠距離の攻撃ができない──ナイフか剣か?手刀が凄いか?だよね。そこで、手を見せて。フムフム──豆の感じから、何かを握って戦う事に慣れてきている──よって、剣を呼び出したか、創造したかだね』
う〜ん、何て推理力。
警察真っ青。ほら、磯崎さんが白くなってる。
と、言うことで、俺の能力は丸裸になってしまった訳だ。
磯崎さんも、警察内部には俺の能力を漏らさないと約束してくれた。フラさんも、その方が良いって言ってくれたし、磯崎さんも、第三者にペラペラと情報を流したなんて知られたら大変だろうしね。でも、磯崎さんだから、知らないところでペラペラ話すんだろうなぁ。
「ところでさ、二人は能力、警察風に言うと異能力を得ることになった時の事、覚えてる?」
「空から羽根が降った次の日かな。夜に何か得体の知れない物が降ってきて、事件や事故がめっちゃ増えたんだよ。それで、徹夜でさ、徹夜明けの当日も朝からバタバタで、二徹か〜って、思った時に異能力を得たんだよな」
突然の質問に、軽く答え始める磯崎さん。
やっぱり、警察には向かない気がする。
「その時の事を詳しく」
「ああ、もう嫌だ〜〜〜!って、机に突っ伏した時に声がしたんだ。声がしたってよりも、頭の中に直接聞こえたんだよ」
「何て聞こえたんですか?」
「『何を願う』『何を欲する』って聞こえた」
「それで、何と答えましたか?」
「『何を願う』で、家に帰りたいって応えた。『何を欲する』で、寝たいって応えた」
「それで?」
「それで、また声がして、【望みし我家】って言葉が浮かんだ」
「良く覚えていますね」
「ああ、何か覚えてんだよね。このやり取りは、忘れれないって方が正しいかな」
「それで、すぐに能力を使ったのですか?」
「ああ、すぐに使った。というより、発動してた」
まるで、警察と取り調べられている人が逆になってるような会話が続く。
やっぱり、磯崎さん警察向いてない気がする。
それよりも、フラさんが凄いのか?
「イヤ〜、気が付いたら家に居てさ。ビックリ!でも、電話したらさ、俺以外にも急に消えた奴等がいてさ、皆、家に帰ってた」
【昊ノ燈】と申します。
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