1. 羽根が降った後の世界
久しぶりの新作です!
頑張っていきますので、応援宜しくお願い致します。
── その日、空から
数多の羽根が舞い降ちた ──
『──犯人は捕まっておりません。目撃情報を──』
22時のテレビから流れてくる音が、朝見たテレビのニュースを繰り返している。
警察官を襲って拳銃が奪われた事件。襲われた警官は、喉を裂かれて死亡。目撃者もいない。
最近、こんなニュースが多い。
最近?
いや分かってる。
あの日からだ…………。
空から羽根が降ってきた日。
「ちょっと走ってくる」
テレビを見ながらスマホを弄る弟に告げると、家を出る。
いってらっしゃーい、気をつけてなーと、気の抜けた返事が聞こえた。
桐山睦月、大岐成高校普通科の二年。運動はできるが、文芸部所属の男子。身長178センチ、体重65キロ、AB型。成績は、上の下から中の上を行ったり来たり。比較的イケメンとは思うが、彼女はいない。理由は別にあるが、文芸部に所属しているところに理由の大半……。それが俺。以上、説明終わり。
いつからか日課になった、ランニング。
同行者を迎えに行く。
「遅〜い。睦兄」
少し行った家の前で同行者を発見。
俺を『睦兄』と呼ぶのは、如月夏海。弟の同級生で、俺とも幼馴染の中学三年生。
ショートカットの活発なイメージの女の子。ちなみに俺と夏海、二人共ジャージ姿で、一見するとランニング大好きな兄妹といったところ。
「ゴメンね、睦月くん。いつも付き合わせちゃって。特にほら、最近、危ないでしょう」
玄関先、夏海の後ろから声をかけてきたのは、夏海の母親。
そもそも、俺は早朝ランニングをしていたが、中学で陸上部に入った夏海が、一緒に走ると言い出した。でも、朝に弱い夏海が起きれず、それでも走りたいと言うし、なんやかんやで二人で夜に走ることになってしまった。もう二年以上になる。
「どうせ一人でも走ってますし──」
「もう、そんなのいいから。母ちゃん行ってきます」
言葉を途中で遮られたから、頭をちょっと下げて、走り始める。
公園を抜けて、中学校の裏手に回る。
「今日も出るかな?」
「探せるか?」
ちょっとワクワク気味の夏海に、探すように言う。
そう、ここ三日、ちゃんと走っていない。別のところに目的がある。
中学校の裏手、人気のない事を確認した夏海は、猫化の動物のように靭やかに身体を縮め、伸び上がる勢いのまま、裏手から中学校の屋上へと跳び上がる。
まるで、アメリカンコミックの猫女ばりの動き。
繊月が薄く微笑む夜。
屋上の角に立った夏海が、瞳を閉じ、歌い始める。
賛美歌のような、聴いた事のない異国のリズムが静かに拡がっていく。
アルトからソプラノ。
そして、もっと高く。
小さく微かになっていく歌声が、ゆっくりと空間に染み込んでいく。
── ギ‥‥ギギ‥‥‥
ギャギャ‥‥ギ‥‥
ギャ‥‥ギャギャギャ
「見つけた!」
夏海の声に、俺は走り出す。
虚空に差し出した右手に、黒塗りの曲刀が現れる。
路地の隅、暗がりに曲刀を薙ぐ。
── ギシャ!
一匹。
続けて、もう一振り。
── ギシャ!
二匹目。
二匹目の陰から三匹目が、背後から四匹目が飛び出してくる。
俺は、無手の左手に現れた短刀を上空に投げると、躊躇わず三匹目を斬った。
四匹目は、落下しながら上空で短刀を掴んだ夏海が、そのままの勢いで首をはねていた。
「今日は四匹だけかな?」
「そうみたいだな。別の所にいるのか?増やす数に限界があるのか……?」
「わかんないね。でも、根岸はいなかった」
「ああ、隠れてんだろ」
「どこに隠れてるんだろね」
絶対に見つけてやる。俺は、手を握りしめた。
現れた二振りの刀は、消えていた。
羽根が降ってきた日、俺達のように力を得た人がいる。心が変わってしまった人がいる。
その日、世界で同時にそれが起こった。
日本では夜。
舞い降りた羽根は、季節外れの雪のように消えていった。
ネットには、昼夜を問わず、数多の白い羽根が天から舞い落ちる様が上げられている。
羽根に触れた人達は、その身に何かを宿した。
公表する者もいたが、多くは沈黙している。
人に知られたくない力。
人に知られると困る力。
隠しておきたい欲望。
晒してしまいたい欲望。
羽根の力を得た二人。
俺と夏海は、お互いに返り血が付いていないか確認して、家路についた。
◇◇
「もう、殺ったら殺りっぱなしなんだから、あの二人は……」
目の前には、四体の小鬼の死体。漫画で言うところのゴブリンだろうか。赤黒い血が、中学校裏の路地をデコレートしている。
「おねがい」
少女の言葉に呼応するのは黒い影。
影は動いた。
【昊ノ燈です】
お読みいただきありがとうございます。
頑張ってまいります!