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業火に焼かれたロストマン  作者: 六波羅朱雀
5/5

無音の破滅音

たまにしか書かないけど、他の長編がありますのでお暇でしたらぜひそちらも読んでみてください。


目が覚めても、再度眠ろうとは思えなかった。アパートを出て、夕暮れ時というには暮れすぎた日の元を歩き始める。もうすっかり夜だ。特に何か用があるわけではなかったけれど、何か動いていなくちゃ前回の人生の記憶が抜けない気がして、歩き続けた。


誰もいない路地裏近く。

花の咲かない枯れた公園の近く。

酔っ払いのお姉さん方がうろついている大通り。

運転がひどく下手な、恐らくこれも酔っ払いが飲酒運転をしているであろう車に轢かれかけたりもした。

それでも、死んでいない。


「まーじでやり直したんだな、おれ」


こうして戻ってみると、何かやりたい事が頭に浮かぶわけでもなかった。タイムリープ物の漫画では、主人公は何をしていたか。ああ、そうだ、一度目の人生では出会わなかった奴に会ったり、魔法だとか超常的な力を手に入れたり、悪魔と契約してみたり……。これが全部フラグってやつになって、何もかも現実にならないだろうか。そんなバカみたいなことを思って背後を見てみても、何もいない。悪魔も天使も、神も仏も。いや、前世ではもう死んでいるんだから、こうしてやり直しているおれはある意味仏か。ははは……バカみたいだ。


その時、誰もいないはずの背後から足音がした気がした。振り返ってみれば、何もいない。勘違いだろうか。いや待て、あそこの電柱、何かいる。猫? 否、野良猫はこの辺りにはいないはずだ。だってこの辺はゴミがないから。誰も近づかないくらい人がいない、おれみたいに何も考えずに歩く奴くらいしか通らない道だから。


なら、あの電柱にいるのは?


思い出せ、この頃、突然背後から不良や犯罪者集団に奇襲をかけられることを当時のおれはしただろうか。


………いや、ない、と、思う。まだあの夢の事件が起きる前のはずだし。


なら気のせいか。うん、そういうことにしておこう。電柱に隠れられるくらいだから相手はせいぜい二人だろう。それくらいならば撒けるし、最悪のパターンでも倒せる。


「ほっとけ、どうせスラム街追い出されたガキかなんかだ」


治安の悪いこの地域ではそういった奴も少なくない。親を知らないだとか、親が捕まっただとか。そうしてオッサンに引き取られて犯罪手伝わされて、失敗すると追い出される。まあ、売られるよか追い出される方がマシってやつだ。


そうしてまた前を見て歩き出す。けれどもやっぱり、どす黒い気配がする気がした。これはただの勘ってやつで、おれの勘なんて女の勘には負けるくらいのもんだけれど、でも二度目の人生始まるくらいには長く生きている。あんまりバカには出来ない勘だ。


なるべく早く大通りに出た方がいい気がして、おれは走り出した。すると、背後の何かも速度を速めていく。ああしまった、想像以上に相手が速いらしい。足音からそれが分かる。無理をして速くしていて長距離は苦手、なぁんてタイプだと長距離タイプのおれは助かるんだが……そう上手く話はいかないか。


「仕方ない、うろ覚えの街だけど、撒いてみるか」


かつての記憶を頼って、がむしゃらに走り出した哀れなおれなのだった。


タイムリープ後に初めて出会うアクシデントが、魔法でも悪魔でもなんでもない、ストーカーだとは。とほほ。


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