副会長VS俺
「うむ…やはり会長と副会長では知名度が全然違うのだな…。ためになったぞ」
手をパンパンとはたきながら副会長は先ほど蹴りを入れた男子共を見下ろしていた。
しばらくしてこちらに気づいたようだ。にらみつけながらこちらに近づいてくる。
…殺されるのか? その時何故かそう思った。いや、多分殺されるのだろう。
――――――――逃げなくては!
俺はそこから猛ダッシュした。なんか先生が廊下は走っちゃだめですよー。とか言ってた気がするけれどそれどころではない。命には代えられない。
「まてぇぇぇぇ! 何故逃げるのだぁぁぁぁぁ!」
副会長が追いついてきた。勿論全力で走っている。よく考えてみるとこの副会長は一応女だ。しかし、さっきの蹴りといい今のダッシュといい女にしては―――――はしたない? いや、違う。こいつを女と見るのは自殺行為だろう。たぶんそこらの男に比べりゃ強い。
とか何とか考えているうちに背中に痛みが走った。そして地面が目の前に。
――――――蹴られたのか。
こいつの武器は多分蹴りだ。そのことは分かっていたのに蹴られる可能性を考えていなかった自分がとても馬鹿らしく思えた。
「ふふん。追いついたな」
偉そうに腕組みしながらこちらを見下ろす――――いや見下す副会長。
どうやら俺はこれで死ぬらしい。そう思うと何故か今まで見下してきたクラスの奴らが何故かすごい愛しく思えた。何故なのかは一生わからないだろう。
「さて…。私はただ質問をしようと思っただけなのに逃げるなんてなー。罪は重いぞー」
すっごいうれしそうな顔で足を思いっきり後ろへ伸ばす副会長。
そして、正座をして頭を下げている姿勢の俺。いわゆる土下座だ。
しかし副会長は止める気は無いようだ。
足が前へ伸びる――――。その時!
「やめんか!」
なんと中田先生だ。
「…兄上」
副会長はあっけに取られた顔をして先生を見ていた。
ん? …兄上?
とりあえず何に突っ込めばいいのやら。とりあえず兄妹だってことはまあベタな展開としていいだろう。ただ兄上とは幾等なんでも古いだろう。
「すまんな。妹が」
中田先生ははにかんだ笑顔でこちらを見る。
たしか中田先生は二十七程度だった気がする。で、俺が十六(高校ニ年生)で多分副会長は十七または十八(高校三年生)だと思うから…十歳差かよ…。
たしかによく見れば似てるかもしれない。
「兄上。謝ることはない! もともとこいつが悪いのだ」
そういうと俺に向かって指をさした。…親からしつけられなかったのか?
「こら。人を指差したらだめだろ」
いましつけられているようだ。
「ところで質問って何ですか?」
敬語を使うつもりは無かったのに使ってしまった。よくあることだ。
「私のことを知っているか?」
ちょっと照れた様子でつぶやいた。どうやらさっきの男子共の言葉に結構傷ついているようだ。
一瞬どうするか悩んだ。仕返しするなら今だろう。こいつは兄貴の前では比較的大人しいようだ。だからたとえ俺が知らないといっても蹴りをするのはためらわれるだろう。しかし、こいつの性格を俺は完全に理解しているわけではない。もしかしたら蹴られるかもしれない。…ここは安全にいくか。
「…副会長」
そういうと副会長は頭に手をあてた。
「その副がよけいなのだー!」
先ほど自ら副会長と名乗っていたのを俺は忘れていない。
「何故だ! 何故なのだ! どうして私はあのエスパーに勝てないのだ?」
エスパー? それって超能力者のことだよな。
ちょっと頭がこんがらがってきたので適当にまとめる。
・会長=エスパー(何かの比喩?)
・副会長は会長に勝てない。
・副会長=中田妹
・副会長は知名度が低い。
・副会長の武器=蹴り
…なんだこのどうでもいい話は…。
「エスパーを倒すためには何が必要だと思うか」
急にそんなことを訊いてきやがった。
「…悪タイプ」
ポケモ○を思い出してしまったじゃないか。
「は?」
変な奴を見る目で見てきやがった。畜生。
「まあ、エスパーだとかスーパーだとかは措いておいて…」
中田先生が話しに割り込んできた。
「彼は新しく生徒会に入りたいようだよ」
そういえばそうだった。でも入りたくはない。
副会長は少し驚いたようにこちらを見た。そして「…兄上が勧めたのであれば…いやしかし…」だとかぶつぶつ呟いている。
まあ。どうやらこのあたりからもう後戻りはできなくなっていたんじゃないかな。