第3章 波紋
第3章 波紋
一体、この俺は、どうなったんだ?
一応、妹のななみに、再度、聞いてみよう。
「お兄ちゃん、この前の話、色々と考えてたんやけど、あれは、単なる「狐憑き」の話とは訳が違うと思うの」
「と、言うと?」
「信じるか、信じないかは別として、「狐憑き」は狐の魂が乗り移るとされている。
医学的には、憑依生精神病とも言う。
でも、この前のように、お兄ちゃんがあれだけの動きができたのが事実だとすれば、単なる魂の憑依現象だけじゃ無いわ」
「どう言う事だ。馬鹿な兄にも理解出来るように説明してくれ」
「この前の防犯カメラでの映像で、お兄ちゃんは、三人目のチンピラに対し、明らかにハイ・キックの構えを見せていた。で、相手はびびって逃げた。これは、分かるわね」
「うん」
「でも、ハイ・キックは、よほど練習しないと出来ないのよ。お兄ちゃん、運動音痴だし、この前の横蹴りも満足に出来ななかったのよ。ホントに、そのワザを使おうとすれば、筋肉・筋・股関節が真っ先に怪我をするわよ……」
「そりゃ、そうだ」
「と、すれば、単なる魂の憑依では無くて、ブルース・リーそのものが乗り移ったのでは?」
「それは、どう言う事だ」
「簡単に言えば、異次元からの転生、つまり、どこか別の次元から、ブルース・リーが転生してきたとしか考えられないのよ」
「ななみ、大丈夫か?そんな訳の分からない事言って」
「学年トップ、県内模試でも何本かの指に入る妹が、そんな事を本気で言っていたら、頭のネジが外れたと思われても仕方が無いぞ」
「だったら、この雑誌を読んでみてよ」
それは、有名な科学雑誌らしかったが、特集として、「異次元世界の存在について」を、特集していたのだ。俺には、異次元の存在など理解できなかったが、ななみは、既に、相対性理論の簡単な基本書も読んでいたのである。
知識だけでは、妹には、勝てないのだ。残念な話だが……。
さて、この話は、ここで、終わる筈だった。
しかし、あのコンビニ店長が、俺の高校に、凄い武道の達人がいると吹聴した事で、思わぬ、事態に発展していくのである。
それは、一学年上の番長グループだった。
普段は、他校とのもめ事などの解決や、仲裁に入ったりして、番長グループとは言え、下級生らからも一目置かれている存在だった。
しかし、ここで、ボタンの掛け違いが起こる。
それは、何の取り柄も無いこの俺が、高校を代表するような美少女の橋本詩織ちゃんと付き合っていた事だった。ホントは、この番長も詩織ちゃんに気があったらしい。
しかし、見るからに散り柄の無い私だったらこそ、番長も気の毒に思ってか、今まで見逃してくれていたらしい。
が、この俺が、不思議な武術の達人だと言う噂が広がるにつれて、番長の青木勇とそのグループが、密かに、動きだした。
番長の青木勇は、柔道二段の猛者で、身長は、180センチ以上もある。なお、青木四天王と言われるやはりケンカ自慢の取り巻きがいる。総勢5人だ。
ただ、この青木勇は、この前のチンピラよりは少しマシなのは、この俺に、誰から聞いたか知らないが、メールを送って来て、一対一で、つまりタイマンで、どちらが強いかを決めようと言ってきた事だ。
で、自分が勝ったら、自分もホントは気がある、橋本詩織ちゃんに告白すると言うのである。
俺は、既に、彼女を両親に紹介しているし、特に、母親はもう彼女にぞっこんで、こんないい子は他にいない、絶対に逃すなとハッパをかけてくる。
この俺の母親の言い方を、よーく聞いてみれば、子供さえできなければやってしまいなさいと言っているかのようだ。妹のななみも、詩織ちゃんの美しさに驚いていて、もう自分も義理の妹気取りだ。家族全員の応援があって、どうして、引き下がる事ができようか……。
ただ、いくら、ユーチューブを見ようが、有料動画配信を見ようが、妹のななみから各種のワザを習おうが、若い時から柔道を練習してきた青木勇に、勝てる気がしないのだ。
そう言えば、恋人の詩織ちゃんの兄貴は、大学で空手部の主将をしていると言う。ここは、恥を忍んで、詩織ちゃんの兄に一時帰宅してもらって、何か、必殺ワザを習うしかないであろう……。
そこで、詩織ちゃんに、青木勇との、一対一の対決の話をすると、じゃ、1週間だけ兄に頼んで、特訓を受ける事になった。ただ、詩織ちゃん自身は、この前のコンビニ店での、俺の動きを見ているだけに、ほとんど、心配していなかったが……。