〜大学生、水無瀬七海の日常〜
いったい、いつからだろうか?私が人を信じなくなったのは…
そう、それは、あの夏の日。あの子と出会ってからに他ならない。
今も夢に見るあの子のことを、私は一生忘れることは出来ないだろう。
私の名前は水無瀬七海。現在20の大学生だ。水が無いのに海とは、両親はどのような気持ちでこの名前にしたのかと、昔は自己紹介でよく喋ったものだ。
結論から言えば、ただ両親が好きだったアイドルの名前で、そのアイドルがきっかけで知り合った、ただそれだけの話だ。
この大して面白くもない話を、あの頃はなんで嬉々として語っていたのか、今となっては全く理解が出来ない。
「ある意味黒歴史だよなあ…」
そうボソッと呟き、ハッとして周りを見回したが、私の言葉に気付いた者はいない。
それもそのはず。現在午後7時をまわろうか、という大学の図書館。さっきの言葉に気付く人どころか、人影さえ一切見えない。
「何してるんだか…」
と、今度は心の中で呟き、何気なく手に取って、ただぼんやり見ていただけの小説を借りるために、貸出カウンターへと歩を進める。
今日の司書は岡さんだった。
40代前半くらいの、気さくでいい人だ。まあ、ただの一学生と司書なので、特に他に接点がある訳ではないが、同僚からひろみさん、と呼ばれているのもあって、勝手に某キャラクターを想像して、大海と書くのかな、そしたら海仲間だ、などと思って親近感を感じているだけである。
ま、本当の漢字は聞かないけど。
大海といえば、「井の中の蛙、大海を知らず。ただ空の青さを知る。」ってことわざがあったよな…と、もうすっかり青さを失った空を見上げて、正門へと向かって歩き出した。