宝探し
『タカラバコ』
汚い字でそう書かれたお菓子の空き缶の蓋をそーっと開けると、皺くちゃの紙が2枚入っているだけだった―…
「失踪宣告の申し立てが確定したそうだ」
電話を切った父が俺にそう言った。
俺のじーちゃんは10年近く前に突然失踪した。
じーちゃん子だった俺は、じーちゃんが失踪する前日まで一緒に遊んでいたというのに…。
あれはまだ俺が小学生の頃、その当時"宝探しごっこ"が流行っていた。
それは、お菓子の空き缶に違うお菓子を詰め、家の何処かに隠して見つけるというもの。
ただ、探すだけではつまらないだろうと、じーちゃんはいつも暗号を作ってくれて、俺が謎解きをする。
それが俺達のスタイルだった。
「1番の宝は、お前だよ」
それがじーちゃんの口癖だったのに、まさか宝物の"俺"を置いていってしまうとは―…
その電話以降、相続の手続き等で忙しく、一段落した頃に父から2枚のメモを見せられた。
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これをお前に頼みたい。
そーっと広げて確認して、
ちゃんと見ろよ。
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チョウセンスルオオキナユメニ。
タビダツノハアス。
オキニイリノココオモイデニシテ
ステレオモッテユメヲツカム。
オオキクナルタメニオトコノツヨサオマエモツケロ。
オレノタカラバコオマエニユズル。
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「じーちゃんの残してった手帳から出てきたんだが、お前何か知らないか?
じーちゃんとよく遊んでいたじゃないか」
俺は2枚目のメモを見て、すぐにあの空き缶のことだと気が付き、父と一緒に部屋を探して出てきたのが、冒頭のあれだ。
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二人の子供の目に映る
ずっと変わらぬ瞬きが
真の姿を指し示す
四面楚歌からの逃げ道は
闇夜を追いやる輝きの
役目を終えて眠る先
照らすは一筋の光なり
瞬き消えるその時は
新たな姿が顔を出す
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┏━┳━┳━┓
┃①┃②┃③┃
┣━╋━╋━┫
┃④┃⑤┃⑥┃
┣━╋━╋━┫
┃⑦┃⑧┃⑨┃
┗━┻━┻━┛
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「…また2枚のメモだな。お前の話から察すると、これはお前と遊ぶために事前にじーちゃんが用意していたものだろうな」
父はそう言うと、別の部屋の整理をしてくると部屋を出ていった。
…何かが引っ掛かる。
暗号なのは一目瞭然なのだが、昔は漢字も使わずに、もっと簡単なものだった気がするんだが…。
嫌な胸騒ぎと共に、遠くからあの口癖が聞こえた気がした―…
【解説】
《暗号について》
まず、キーワードは祖父の口癖だった
『1番の宝は、お前だよ』
のお前という言葉。
つまり、おの前に注目するのです。
そして、全てカタカナで書かれている文章の中のオの前の文字を拾い出してみると、
チョウセンスルオオキナユメニ。
タビダツノハアス。
オキニイリノココオモイデニシテ
ステレオモッテユメヲツカム。
オオキクナルタメニオトコノツヨサオマエモツケロ。
オレノタカラバコオマエニユズル。
↓
ル ス コ レ ム ニ サ ロ コ
上記の9文字が現れます。
しかし、これだけではまだ文章にならないですので、ここで『タカラバコ』から出てきたメモの9文字の部分に抜き出した順にはめていくと下記のようになります。
┏━┳━┳━┓
┃ル┃ス┃コ┃
┣━╋━╋━┫
┃レ┃ム┃ニ┃
┣━╋━╋━┫
┃サ┃ロ┃コ┃
┗━┻━┻━┛
これでもまだ文章にならないので、次に『タカラバコ』の中の1枚目の暗号を解く必要があります。
まず最初の3行の
【二人の子供の目に映る
ずっと変わらぬ瞬きが
真の姿を指し示す】
についてですが、
"二人の子供"とは、2文字の"コ"のこと。
"ずっと変わらぬ瞬き"とは、ほぼ一年中見える位置が変わらない北極星のこと。
"目に映る"ということは、それが見える=向いているということ。
つまり、『2文字の"コ"が北極星がある方向=北を向いている』ということを意味します。
このことを先程の表に当て嵌めると、地図などでは北は上側になりますので、表を反時計周りに90度回転させると下記のようになります。
N ▲
┏━┳━┳━┓
┃コ┃ニ┃コ┃
┣━╋━╋━┫
┃ス┃ム┃ロ┃
┣━╋━╋━┫
┃ル┃レ┃サ┃
┗━┻━┻━┛
これが"真の姿"となります。
次に真ん中の4行
【四面楚歌からの逃げ道は
闇夜を追いやる輝きの
役目を終えて眠る先
照らすは一筋の光なり】
についてですが、
"四面楚歌"とは周りが全て敵=囲われているということ指し、真ん中にある"ム"のことを指します。
"闇夜を追いやる輝き"は太陽のこと。
"役目を終えて眠る先"は太陽が沈む方角=西。
上記のことを踏まえると、
『"ム"の位置からの逃げ道は、西の方角へ進んでから"一筋"で照らされる="ム"から西(左)へ進んだあと一筆書きの要領で進む』ということを意味します。
これを表に当て嵌めて順番に読むと、
ム ス コ ニ コ ロ サ レ ル
になります。
しかし、暗号文にはまだ残っていますので、まだ他にもあるということになります。
最後の2行
【瞬き消えるその時は
新たな姿が顔を出す】
についてですが、
最初の3行の中の"目に映る"=見える(向いている)ことを意味していたので、"消える"のは、映っていない=見えていない(向いていない)ということを意味します。
つまり、北極星が見えない方角=南を向かせてみると、
S ▲
┏━┳━┳━┓
┃サ┃レ┃ル┃
┣━╋━╋━┫
┃ロ┃ム┃ス┃
┣━╋━╋━┫
┃コ┃ニ┃コ┃
┗━┻━┻━┛
上記の表で、先程の『ムスコニコロサレル』になるように線を引いてみると…
ある数字が見えてきませんか?
┏━┳━┳━┓
┃→┃→┃→┃
┣━╋━╋━┫
┃↑┃→┃↓┃
┣━╋━╋━┫
┃↑┃←┃←┃
┗━┻━┻━┛
…そう、『6』です。
手帳のメモの1枚目の6文字目に注目してみて下さい。
見えてくるはずです、たった一言『に げ ろ』と…。
《話の全貌》
父と祖父は不仲でした。
そして、父は祖父の遺産を狙っていた…。
しかし、祖父はそんな父の目論見に気付いていた。
勿論、自分が居なくなった後に相続人を減らすために"俺"にも危害が及ぶだろうことも…。
そこで、息子(父)の計画を失敗させるように、失踪宣告の申し立てをするであろう7年後の"俺"に向けて、暗号にメッセージを秘めました。
意味怖要素としては、そこまでして手に入れたいと思う父の『お金への執着』と、息子(父)の目論見を知っていながらリスクを冒してまで、息子(父)の計画を破談させ、悔しがらせたいという祖父の『憎しみの念』 の両者のそれぞれの想いをこの話に込めました。
少しでも、楽しんで頂けていれば幸いです。
長文・乱文ではありましたが、ここまでのご清覧ありがとうございましたm(__)m