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勘違いは怒りの源

 散策をしていた俺は懐かしい公園の前へとやってきていた。

 昔、ここで簡易的なサッカーとか虫取りとかよくしてたな……


 思い出はいつでも綺麗なもので眩しく感じられる。

 あの頃は悩みなんてなくて、その日その日を懸命に過ごしていた。


「もしかして、龍斗?」


 声がした方を向くと、赤髪をポニーテールで綺麗に結んだ少女が歩いてきていた。

 スラーっと伸びる体型はまるでモデルのようで綺麗な顔と合わさり、えも言われぬ美しさがある。

 こんな知り合い記憶にないんだけどな……


「そうだけど、どうして俺の名前を?」


「私のこと覚えてない? 昔よく遊んだじゃん」


 言われてみれば、岸和田楓きしわだかえでという幼馴染によく似ている。

 しかし、楓は虫網を振り回しながら、半袖半パンで走り回る元気な男の子だったはずだ。

 よく虫が入った状態の網を頭から被せられたな……

 俺の記憶にないだけで楓に妹さんがいたのかもしれない!


「もしかしてだけど楓の妹さんかな? あんまり記憶がなくてごめん……」


「えっ?」


 目の前の少女は酷く驚いているようだった。

 俺は何かを間違えてしまったようだ……

 そもそも楓とは関係なかったのかもしれない。


「ごめん! 全くの勘違いだったみたい!」


「勘違いは勘違いなんだけど、私が岸和田楓……」


 ん? 話が噛み合わないな……

 楓は男のはずなんだけど。


 いや、待てよ……

 確かに格好はボーイッシュだったけど顔立ちは女の子っぽかった。

 もしかして俺が今まで勘違いしていただけなんじゃないか?


「楓って女の子だったの!」


「……」


 楓は笑顔のまま無言だった。

 勿論、これは嬉しいからとか楽しいからとかではない。

 非常に不快であり、怒りが頂点に達しているということであろう。


「か、楓さん、目が……怖いんですけど……」


「二度と私に面を見せないで、ミジン……いえ、生ゴミ」


 淡々と言い放つと楓はそのまま立ち去ってしまった。

 俺は弁明をできないままその場で立ち尽くすほかなかった。






美桜みお姉……俺、早々に失敗しちゃったよ……」


 家に戻った俺はあまりにも大きな後悔とショックから幼馴染の美桜姉に電話をかけていた。

 美桜姉は俺の一つ上で皆のお姉さんのような存在だ。

 親同士も仲が良く、今でも連絡を取り合う関係である。


「それは龍君が悪いわよね。あんなに可愛い子に男の子だなんて……」


 呆れたわと言わんばかりにため息をつく。

 俺だけに非があるのか?と考えてみたが一方的に勘違いしていただけなので、全面的に俺が悪い……


「正直、幼馴染どころか人間としても失格よ! 腹を切って詫びた方がいいわ!」


「流石に腹を切るのは……だってほら、あれじゃん?」


 美桜姉は何よ?と心底面倒くさそうに問いかけてくる。

 陽葵感謝するぜ! この言葉を使う時が来るとは!


「その、ほら、俺のお腹可愛いからさ、可哀想じゃん?」


「ナニソレ、キモチワルイ」


 電話の向こうからゴエッゴエッと蛙の鳴き声のようなえづきが聞こえる。

 それによって俺も吐き気を催し、部屋には仄かに酸っぱい香りが漂う。


 これに関して、あいつは悪くはないが俺は陽葵を許さない。

 そう心に誓った。


「ともかく、このままじゃお互い気まずいでしょ? すぐに謝りなさいよ」


「それができたら苦労はしないよ! 美桜姉が仲介してくれよ!」


 電話の相手は一番の年長者ではあるが、超弩級ちょうどきゅうの面倒くさがりである。

 こういったたぐいの相談をしても解決しないだろうが、わらにもすがる思いで頼み込んだ。


「えー嫌よ、自分でなんとかしなさい。男の子でしょ!」


 この問題に関して性別は何一つ関係ないと思うのだが……

 面倒すぎてそもそも考えることを放棄してしまっているようだ。


「神様、仏様、美桜様! 頼れるのはあなただけなんです! 救ってください……」


 やけくそになった俺は恥も外聞もなく頭を下げる。

 まぁ、頭を下げても電話だから相手には伝わらないけどね……


「明日なら話を聞くわ、それじゃ!」


 こちらに二の次を言わせる隙もなく電話を切られてしまった。

 どうやらこの世には神様も仏様も美桜様も存在しないようだ……


「これからの学校生活どうしたらいいんだよ……」


 明日は始業式であり、俺はこれから彼女たちと同じ学校に通うことになっている。

 楓とできれば陽葵と同じクラスにはならないようにと願いながら眠りにつくのであった。

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