一人目は異常
「懐かしいな……あれから十年経ったのか……」
小学生低学年の時に離れた土地に帰ってきた。
理由は父親の転勤のためだ。
あの頃の記憶を呼び起こす。
しかし、街並みはずいぶんと変わってしまっていた。
とりあえず思い出の場所にでも行ってみるか……
そう思いながら歩き出そうと一歩踏み出した時に、後ろから声が聞こえてきた。
「一人目の通行人はっけーん!」
馬鹿っぽい、もとい元気に満ち溢れた声だ。
声のする方を振り向くと、綺麗な金髪のツインテールを振り乱しながら走ってくる小柄な少女がみえた。
「私、人を探してるんだけど、りゅ何とかってやつ知らないか?」
「それだけじゃわからないかな。他に情報は?」
「うーん……それしか知らない!」
いきなり何なんだこの金髪は?
その情報量でよく人探ししようと思えたな!
その行動力を褒め称えたいくらいだ!
「人探し頑張ってくださいね! さようなら!」
いろいろと面倒なので、すぐさまこの場を離れることを決心した。
踵を返した瞬間、肩に手を置かれた。
「人探し手伝ってくれるよな? お前が心優しいやつだって私は知ってるから……」
「お前は俺の何を知ってるんだよ!」
初対面の人間から、こんな言葉をかけられることは後にも先にもないだろう。
いきなりおかしな奴に絡まれたな……
「こんな鋭いツッコミは久しぶりだ……」
ん? この動揺した顔どっかでみたことある気が……
そうだ! 思い出した!
「お前もしかして陽葵か? 観月陽葵!」
陽葵は昔よく遊んでいた同い年の女の子。
この動揺した時の馬鹿面が印象的すぎて普段の顔がなかなか思い出せなかった。
「なんで私の名前知ってんだ?」
「俺だよ俺! 藍崎龍斗! 覚えてないか?」
「藍崎龍斗? 誰だっけな……」
陽葵は本気で覚えてないようだった。
仲の良かった幼馴染に忘れられてるって結構ショックだな……
「ほら、探し人のりゅ何とかって龍斗でも当てはまるし、俺じゃないか?」
うーんと唸りながら考え込む陽葵。
少し時間が経ち、何かを思い出したのか手を打った。
「おぉ! 久しぶりだな劉邦、元気にしてたか?」
「お前絶対覚えてないだろ! 俺は前漢の初代皇帝じゃない!」
さっき名前を教えたばっかりだぞ!
こいつの頭は本当に大丈夫なのか?
「冗談、冗談。 熱くなんなって龍猛」
「いやいや、本気で言ってるだろ! 俺は真言八祖像でもない!」
なぜこんな高校生になってしまったんだ……
歳をとることの残酷さに頭を抱えた。
「まぁ気にすんなって、自分が変人だからって責める事ないぞー」
「変人は俺じゃなくてお前なんだよ!」
なぜ慰められているのかさっぱり理解できない!
この金髪は本当になんなんだよ……
仕返しというわけではないが少しからかってやろう。
「まぁ俺のことはいい。陽葵は全然変わってないな」
そうか?と陽葵は首を傾げる。
「何というか……ちんちくりんだな!」
「乙女にそんなこと言ったら駄目だろー。お前の腸を物理的に煮え繰り返してやろうかー?」
少し攻撃的な発言をしたが全く意に介していないようだ。
その証拠にニヤニヤしながらこちらを見ている。
っていうか陽葵の発言の方が怖いんだけど!
「煮え繰り返る腸は相手のじゃなくて自分のだからな! 物理的にっていうのも間違ってるから!」
「それは知ってるんだけどさ、ほら、あれじゃん?」
陽葵はもったいぶって少し俯く。
俺は話の続きを促すように何?と問いかけた。
「私の腸って可愛いから可哀想じゃん?」
「ナニソレ、キモチワルイ」
あまりの気持ち悪さに気持ち悪い反応を返してしまった。
可愛い腸……想像して吐き気を催した。
「おっ、こんな時間じゃん! じゃあ私帰るわ、またなー」
「えっ? 急すぎ!」
そう言って陽葵はまた駆け出して行ってしまった。
初めに再会した幼馴染があんな風に成長しているのをみてしまうと……
正直、他の幼馴染に会うのも怖くなってきた。
「いやいや、あいつが特殊なだけだ!」
そう言い聞かせ、周辺の散策を再開するのだった。