井戸端会議
春風が吹き抜け、仄かな桜の香りが鼻孔をくすぐる。
暖かい陽光が降り注ぐ中、四人の少女たちが思い出話?に花を咲かせていた。
「ねぇ、皆は龍君のこと覚えてる?」
一人の少女が三人に向かって問いかける。
その質問に各々が反応を示し、一人が声を発した。
「あぁ、龍ね! モチロンオボエテル」
金髪の少女は胸を張って答える。
しかし、声が震えていたので周りは覚えていないことを悟ったようだった。
「陽葵、その反応は絶対覚えてないですよね」
黒髪の少女は刺すような目線を金髪の少女に送る。
「えっ? 何で私が悪いみたいになってんの?」
陽葵と呼ばれた少女はわざとらしく大きなリアクションをとった。
納得がいかないという様子だ。
「小さい頃とはいえ、幼馴染なんだから覚えてないなんて可哀想じゃない?」
そう言って赤い髪の少女は嘆息する。
「じゃあ楓はどれだけ覚えてるんだよ?」
頬を膨らませながら不満顔で陽葵は訊ねた。
「藍崎龍斗。十年前くらいだけどよく遊んでたじゃん」
本当に覚えてないの? と問いかけるような優しい口調だ。
どこか呆れているようにもみえる。
「さっぱりだな! 記憶の片隅にもない!」
陽葵は高らかと宣言し、あからさまに開き直ってみせた。
「そんなこと言われたら龍君泣いちゃうわよ……」
薄いピンク色をした髪の少女が泣き真似をしながら陽葵を見る。
「美桜姉はそう言うけど、案外向こうも覚えてないって」
「覚えてないイカ並の脳みそは陽葵だけだと思いますよ」
黒髪の少女は蔑むように毒づいた。
「イカってどれくらいの知能があるの?」
興味を持ったようで楓が食いつく。
「目はとても良いんですけど、得られた情報を処理できないらしいですよ!」
黒髪の少女は誇らしげに説明する。
「柊佳は物知りだね」
楓はえらいえらいと柊佳の頭を撫でる。
「それ記憶力以前の問題じゃないかしら?」
美桜は首を傾げた。
が、まぁいいかと呟き前を向く。
「おお?やるのか?私は容赦しないぞ?」
馬鹿にされた陽葵がファイティングポーズを取る。
しかし、あまりにも格好がついてないため非常に滑稽だった。
「そうですよね、すみません……イカじゃなくとも生命に失礼ですよね! 側溝のヘドロくらいじゃないと似ても似つかないですよね!」
本当に申し訳ないと言った様子で柊佳は謝っている。
ただ、どこからどうみても煽りでしかない。
「柊佳の家の排水溝を全て詰まらせてやるから覚えてろよー」
ニヤニヤとしながら陽葵は言った。
ここまで言われても全く意に介していないようだ。
「その嫌がらせは陰湿だね……」
「ヘドロはそれくらいしかできないんでしょうね」
心底嫌そうに楓は顔をしかめる。
続いて柊佳はヘドロだししょうがないと謎の理解を示していた。
「なぜ、ヘドロという前提で話が進んでるのかしら?」
美桜は首を傾げた。
が、どうでもいいかと呟き前を向く。
「そのりゅ何とかは今日帰ってきてるんだよな?」
だいぶ逸れていたが陽葵は大筋に話を戻した。
「そう聞いてるわよ。後、龍くんね」
美桜は質問に答えながらも名前を正した。
おそらく意味をなさないと薄々感じながらだが……
「どう変わってるのかな?少し楽しみ」
「そうですね、早く会いたいです!」
楓と柊佳は久しぶりの再会が待ち遠しいらしく、はしゃいでいるようにみえる。
「じゃあ、ちょっと探してくる」
言うが早いか陽葵は駆け出していた。
あっという間に背中が小さくなる。
「もう行っちゃったわね」
やれやれと美桜はため息をつく。
「陽葵は動いてないと死んじゃうから」
「もしかしてマグロなんですか?」
「もしかしたらカツオかも」
「いやいやイワシかもしれないですよ!」
楓と柊佳はテンポよく会話を進めて行く。
何故こんなに魚の生態に詳しいのか不思議でしかない。
「エラが動かせない回遊魚なら何でもいいんじゃないかしら?」
美桜は首を傾げた。
が、この際なんでもいいかと呟き前を向くのだった。