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 魔族と人間とが闘い始めて幾星霜。人間が優勢だった状況は、魔族の策によって覆る。今や大陸にあった国のほとんどは侵略者によって崩れ去ったが、未だ抵抗を続ける人間たちがいた。 

 実際のところ、この世界は魔族の手にあると言っていいのだが、それでもなお闘い続ける理由は様々で、分けるなら義を胸に武器をとる者(真人間)ただ反抗したい者(レジスタンス)、無関心な者、といった所だろうか。これらに該当しない者たちもいるが、そういう者たちは大抵狂っている奴らである。

 だが、こんな状況で抵抗し続けるという選択をとる時点で皆狂人と言ってよいのかもしれない。

 戦争のせいで世界が深刻なダメージを負っても、そのせいで妙なものが現れだしても、人間が魔族との争いをやめる様子はなかった。ただ、私たちが食いつないでいけるのはそんな彼らのお陰なので、余り悪くは言えないのであるが。



「――おそらくアレの仕業であると推測されます」

「そうか、ご苦労。引き続き調査を。可能であれば対処も任せたい」

 依頼人は簡潔に答える。

 私は喉元まで出かかった抗議を飲み込む。()()()()()()、と言うが、この人間がそんな甘いはずもない。対処出来なければお前たちには直ちに餌になってもらうとその眼が語っている。

「……かしこまりました。最善を尽くさせていただきます」

「うむ」彼はさして満足した様子もなく頷いた。

 

 半ば要塞と化している王城から出る。今も、胸はモヤモヤしたままだった。別に今回に限ったことではないのだが、こうも露骨に駒としか見られていないことを実感すると腹が立ってくる。実際、駒でしかないので反論も出来ない。同じく駒扱いされているレナートは――彼と一緒だというのは大変業腹であるが――そのことに対して何も思っていない。彼とこの屈辱を分かち合いたいとか、そんなことはないのだが(絶対に!)、一人で飲み込むには些か大変な感情なのであった。


「相変わらず無理難題を吹っ掛けられてるみたいだな」


 声をかけてきたのは煤けたコートを羽織る、薄笑いを浮かべた髭面の男だ。見覚えのある顔だったが、名前はわからない。

「いくらなんでも嫌われ過ぎじゃあないか?」

「……お察しの通り。それで、その嫌われ者に何の用が?」

 おそらく私を笑いに来たのであろう。苛立ちを押さえ、淡々と返す。男は愛想のない返答に軽く舌打ちをした。

「別に……伝言を届けに来ただけさ」

 伝言、という言葉に首をかしげる。

「ミス・ブライトからだ」

 一体誰から、という私の疑念に彼は答えた。

「ブライト教授か……」

「”第2魔術加工室にある武器は持って行っていい”とさ」

 私は憂鬱な気持ちになって、頭を抱える。第二魔術加工室に置いてある武器は基本的にブライト教授の私物だが、彼女の私物といえば爆発を起こすことで有名である。彼女の武器を使用した者が爆発四散したのは記憶に新しい。


「死ななきゃいいが」

 来た時と同様、薄笑いを浮かべて男は去っていった。おそらく嫌味で言ったものなのだろうが、ブライト教授の名に気をとられている私には届かなかった。


「持っていきたくはないが……後が面倒だろうしな……」

 おそらく、持って行かなかった理由を聞かれるだろう。彼女の切れのある瞳で問われるのも、その問いに答えるのも、きっと胃腸を締め上げられるような心地になるだろう。

 どうして厄介事は連続して起きるのだろうかと、私の頭は重くなるばかりであった。

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