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身を刺す冷気に目を開く。
窓からは白い雪の吐息と、赤褐色に濁った明かり。昨日と同じか、それ以上に薄ぼんやりとしているのに、それらは確固とした意思を持って、私と女を詰った。彼女は寝台に横になったまま、腹に手を振り下ろす。
女は僅かの羞恥と後悔、そして嫌悪を含んだ表情を浮かべた。
毒では駄目だったようだ。彼女はボロボロの机の上に身を縮こませる小瓶を睨みつけた。
しかしながら、五体満足というわけでもないようである。女の足はピクリとも動かない。小瓶の中身は彼女の下半身から動きを奪ってしまった。永遠に。
毛布を押しやって、立ち上がろうとしたところで彼女もそれに気付いた。
憎々しげな顔で何度も両足を叩く。動かない足からは痛覚も失われているようだ。暫くして、どうにもならないとわかったのか乱暴に寝台から這い出た。脚だけではなく全身に異常をきたしているらしく、這い出る動きすらぎこちない。
「…………」
風雪で軋む小屋の中を器用に這って進む。暖炉の前で女は動きを止めた。暖炉の火は随分と前に消えてしまっていたが、それを気にする素振りはない。小屋の中は凍えそうな程冷え込んでいたが、それすら彼女の気に留まることではないようだ。暖炉から窓に見える風景、そして擦れた床へと視線を移して、何か別のことを思案している。
「……!?」
何が彼女の気を惹いたのかはわからない。むくり、と緩慢な動きで女は顔を上げる。
「――!!――!」
きっと身を劈くような叫び声を上げているのだろう。声は音にはならなかったが、その顔は女の内心を切実に表していた。暖炉と壁を濡らしながら彼女は倒れ伏した。
「――そんな具合だ。彼女はここ数日、もしかするともっと前からそれを繰り返している」
私は山小屋で見たことをレナートに報告する。
「他に目立ったことは?」
「小屋の中は血で酷いことになっていたぞ。暖炉の前は特に。血液は時間の経過で大分変色していたが……身体の方は朽ちて肉も残っていなかった。おそらく――」
私の言葉に、彼は嘆息する。見れば眉が少しばかり顰められている。
「そうか……アレの仕業だとしたら厄介なことになるな」
「どうする?戻るか?」
風も強くなってきている。ブリザードに襲われるのは時間の問題だろう。
「――いや、私は一度実物を見ておきたい。お前は戻って依頼人に報告を。それと威力の高い武器を持ってきてくれ」
私は視線で頷き、地面を蹴った。切るような冷気と白い視界を振り払って空を飛ぶ。