ご挨拶
先輩と後輩のコンビが繰り広げる摩訶不思議ワールドにご案内いたします。
場所 彼女のお宅
先輩 ツッコミ
後輩 ボケ
先輩 「はい、どうもー! お笑いコンビ、『おもしろ先輩後輩』の先輩です」
後輩「惜しくも前回のゲラコンの決勝戦で優勝を逃しました、おもしろくない先輩おもしろい後輩の後輩です」
先輩「いや、僕ら決勝なんて行ってないからね。というか、予選敗退でネタのメール、審査員の鼻紙にされたからね」
後輩「あ……鼻紙ってティッシュですよ。先輩、時代錯誤の単語は止めてくださいね。お客さん引いちゃいますよ」
先輩「そこかよっ! とりあえず、仕切り直してネタやっていきましょか。頼むから、台本通りやってくれよ」
後輩「あのぅ、先輩? 僕、最初から先輩の考えたクッソつまらない台本通りやってますが?」
先輩「そ、そこ言っちゃダメだから! コホン! では、コント『ご挨拶』」
先輩「はじめまして! 私、雪子さんとお付き合いさせていただいてます、加藤と申します」
後輩「はい、私が変なおっさんです」
先輩「ちょまっ!? いきなりアドリブかよっ! 台本通りやれって!」
後輩「先輩の台本面白くないんですもん。読んでて途中から眠くなったので最後まで覚えてません」
先輩「ったく、本番でこれかよ。いいか? 彼女との結婚を認めてもらう為に彼女の父親に挨拶に来たってシチュエーションだから。じゃあ、俺が父親役やるから、少しずつ思い出しながらやれよ」
後輩「ういっす」
先輩「私が雪子の父だ。君の事は雪子から聞いている。だが、結婚は許さん」
後輩「どうしても駄目ですか?」
先輩「どうしても……と言いたいところだが、君がどれぐらい雪子の事を想っているかで、認めんこともない」
後輩「それはもう。では聞いてください。僕が雪子さんと初めてお会いしたのは、とある一室でした」
先輩「一室? まさか、ホテ……」
後輩「そこで彼女は注射器を持った髭面の男に襲われていたんです」
先輩「なんと!」
後輩「僕は嫌がる彼女を男から奪い返し……」
先輩「君は恩人だ! ありがとう!」
後輩「打ちました」
先輩「は?」
後輩「ブスリと」
先輩「110番だ」
後輩「ちょ、ちょっと待ってください! え、ええと……そうだ、こんな話もあります」
先輩「……言ってみろ」
後輩「次に彼女に会ったのは縁日でした。縁日だけに縁にちなんで……なぁんてね!」
先輩「110番……」
後輩「いや、待ってください! 僕はたこ焼きを食べながら歩いていたのですが、偶然に彼女が友達と散歩していたんです」
先輩「それで?」
後輩「彼女の友達はかき氷を食べてました。色からしてイチゴですね。そして、彼女は友達の隣でフランクフルトの串をべろんべろんとなめ回していたのです」
先輩「フランクフルト……べろんべろん……」
後輩「ワイルドな肉食系の彼女に僕のハートは高鳴りました。あぁ、僕もべろんべろんされたいなと……」
先輩「ええと、もしもし警察の方ですか?」
後輩「いや、違う……と言い切れませんが、驚く事に彼女は友達を振り切って僕に向かって駆けてくるじゃありませんか!」
先輩「うちのが!? 君に!?」
後輩「彼女は僕にじゃれつき、なんと僕の唇にディープなべろんべろんをしたのです!」
先輩「あぁ、私は娘の育て方を間違ってしまったのか」
スマホが鳴る。
後輩「あ、ちょっとすみません。電話が……はい、もしもし……あ、先生! 急患? 二丁目の田中さん家のタマちゃんの予防接種? わかりました、すぐに向かいます。あ、はい。今、彼女の飼い主のお父さんと話してまして。えぇ、あの時の……はは、だって先生注射器震えてましたから。注射が苦手でよく獣医になれたもんですよ。あ、すみません。今から行きますんで。失礼します」
先輩「……まさか、彼女って家の秋田犬のハナコのことかいっ! 連れてけ、連れてけ」
後輩「認めて下さるんですね。おーい、雪子! 了解もらったぞ」
父親の元を立ち去る後輩。
先輩「あ……れ? おーい! ハナコじゃなかったの? あ、彼女ってのは最初からハナコの事で……友達ってのが雪子……あ、あはは! 勘違い、勘違い! こら、娘を返せー!」
後輩、ひょっこり戻ってくる。
後輩「なんて、コントはどうでしょう?」
先輩「いい加減にせい!」
二人「失礼しましたー!」
でも、犬も大事な家族の一員だよね?