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83.F級の僕は、アリアと共に、西の塔に向かう


5月21日 木曜日5



王宮内の“見学”を終えた僕とアリアは、昼前には僕の部屋まで戻ってきた。

昼食は、ノエル様が僕等をご招待して下さる、との事で、アリアは着替える為、自分の部屋へと帰って行った。

僕は、部屋の中で一人になると、ベッドに寝転がった。


エレンのお陰で、何ヶ所か“怪しそうな場所”の目星はついた。

東の離れにある大きな建物、南の騎士団本部がある建物、王宮の西の塔……

これらは、いずれもレティアさんが、さりげなく案内のコースから外そうとした場所でもあった。

東の離れにある大きな建物は、入り口まで案内してもらったが、政務を司る役所が多数入っている、との事で、内部の見学は不可能であった。

南の騎士団本部がある建物は、あのイシリオンが団長を務める光樹守護騎士団の本部が置かれており、やはり、内部の見学は不可能であった。

王宮の西の塔は、アールヴ王室の秘蔵する魔導書や宝物等が収められている、との事で、やはり内部の見学は不可能であった。


直感的には、王宮の西の塔が一番怪しい感じだ。

魔導書や宝物の保管場所なら、他の場所と比べて、配置されている人も少ないのでは?

ならば、仮にノエミちゃんを“閉じ込め”ても、あまり目立たないのでは?


そんな事を考えていると、扉がノックされた。


―――コンコン


「はい」


扉を開けると、そこには、アリアと一緒に、レティアさんが立っていた。

レティアさんは、僕に一礼した。


「ご昼食のお時間でございます」


レティアさんに案内されて向かった先は、僕の良く知る場所だった。

通路の突き当り、一際立派な扉の部屋。

扉の両脇には、銀色の甲冑を身に纏った衛兵が、2名、直立不動で立っている。

昨日、僕が、ノエミちゃんへの伝言を頼んだ女官が、“殿下”と呼びかけて、中に入って行ったあの部屋だ。

レティアさんは、部屋の前で一礼した後、扉を叩いた。


―――コンコン


「殿下、タカシ様とアリア様をお連れしました」


ややあって、扉が中から開けられた。

部屋の中は、落ち着いた上品な雰囲気であった。

中で僕等を笑顔で迎えてくれたのは、やはりノエル様であった。


「ようこそお越しいただきました。今日は天気も良いので、テラスでお昼を頂きましょう」


ノエル様は、上機嫌で、僕等をテラスの方に案内してくれた。

中庭に張り出したテラスには、白く大きなテーブルが置かれていた。

そこには、既に先客が席について僕等を待っていた。


エルフの女性、ドワーフの男性、獣人の男性、それにヒューマン、つまり人間の女性の4人。

午前中、ノエル様から紹介された、僕の“パーティーメンバー候補”達だ。


ノエル様は、僕が彼等とパーティーを組む事を望んでいた。

もしかしたら、この昼食会も、僕と彼等の親睦を深めさせるのが狙いかもしれない。


僕がそんな事を考えていると、彼等の内の一人、マイヤさんが立ち上がり、僕に笑顔を向けて来た。


「勇者様、どうぞこちらへ」


マイヤさんは、自分の隣の席を僕に勧めてきた。

僕は、進められるままに、その席に着いた。

僕に並んで、アリアも席に着いた。

全員が着席するのを見計らったように、料理が運ばれてきた。


料理はとても美味しかった。

同席した4人の冒険者の内、隣に座ったマイヤさんが、一番積極的に僕に話しかけて来た。

マイヤさんは、25歳にして、レベル78に到達している冒険者だった。

彼女は、代々神官の家系に生まれ、幼い頃より、水属性の魔法と癒しの術に()けていたらしい。

その突出した能力から、地元では聖女ともてはやされ、そんな扱いが嫌で、冒険者になったのだという。

そして、今の仲間達と出会い、神樹の最上層を目指し、今に至るという事だった。


彼女の口振りからは、今の仲間達に対して、強い想い入れがある様子が(うかが)えた。

僕は、気になる事を聞いてみた。


「マイヤさん達って、今、第81層の探索中なんですよね? 僕は、まだレベル63です。もしご一緒させて頂いても、しばらくは皆さんのお役には立てないと思うのですが、その点に関しては、どう思われますか?」

「勇者様」


僕等の話を聞いていたらしいノエル様が、口を開いた。


「この者達は、勇者様と一緒に神樹を昇る事を大変名誉と感じております。それに、そんなにご自身を卑下なさらずとも、勇者様なれば、レベルの上でも、直に彼等に追い付く事でしょう」


マイヤさんも、ノエル様に同調するように語り掛けて来た。


「殿下のおっしゃる通りです。我ら一同、勇者様とご一緒させて頂く事は、ただただ、名誉と感じております」


なんだろう?

本音では語って貰えていない何かがあるような気がしてならない。

考え過ぎだろうか?



昼食会は、1時間ほどで終了した。

ノエル様の提案で、僕は2時間後、マイヤさん達4人の冒険者達と神樹内部のダンジョンに“初挑戦”する事になった。

僕とアリアは、レティアさんの案内で、一旦、部屋に戻る事になった。

戻る途中で、僕はアリアに話しかけた。


「そう言えば、アリアの部屋って、どの辺なの?」

「一つ下の階だよ」

「遊びに行ってみたいな」

「いいよ。今から来る?」


僕等の会話を聞いていたレティアさんがにっこり微笑んだ。


「では、アリア様の部屋にご案内しますね」



アリアの部屋は、彼女の言葉通り、僕の部屋の半分位の広さだった。


「私は、外でお待ちしておりますので、お戻りになる際は、お知らせ下さい」


レティアさんが、一礼して部屋を出て行くと、アリアが、僕にたずねてきた。


「で、怪しそうな場所、見つかった?」


僕は、右手の人差し指を立てて口に当てながら、エレンに念話で呼びかけた。


『エレン、聞こえる?』

『聞こえる』

『この部屋って、僕の部屋みたいに見張られてる?』


しばらくエレンが何かを考えているのが伝わってきた。

やがて、彼女の返事が返ってきた。


『見張られていない』

『じゃあ、会話も聞かれてない?』

『聞かれてない』

『ありがとう。また後で話しかけてもいいかな?』

『別にいつでも構わない』


僕は、エレンとの念話を終了すると、改めてアリアに話しかけた。


「どうやら、この部屋は大丈夫みたいだ。それで……」


僕は、午前中の“見学”の結果、僕自身が得た感触を彼女に説明した。


「……だから、西の塔が怪しいと思うんだよね」

「じゃあ、どうやって忍び込む?」

「とりあえず、僕が今から一人で自分の部屋に戻るフリして、人目に付かない所まで移動してから、【隠密】発動して、調べて来るよ」

「私は?」

「アリアは、この部屋で待っててくれないかな?」


僕の言葉を聞いたアリアは、少し寂しそうな顔になった。


「そうだよね。私は、やっぱり、役には立たないよね……」


しかし、アリアは、身を隠すスキルを持っていない。

西の塔に、【隠密】状態の僕と一緒に忍び込む事は……


「そうだ、アリア! いい方法があるよ」


僕は、インベントリを呼び出した。

そして、昨晩、ターリ・ナハを地下牢から連れ出す時使用したあの袋を取り出した。

アリアは、不思議そうな顔になった。


「いい方法って、その袋?」

「うん。実は、僕の【隠密】スキル、手に持った物も【隠密】状態になるんだ。だから、アリアにこの袋の中に入って貰って、僕がそれを抱えれば、アリアも一緒に西の塔に忍び込めると思うよ」


僕の言葉を聞いたアリアの顔がぱっと輝いた。


「じゃあ、私もノエミに会える!?」

「うん、西の塔のどこかに閉じ込められてたら、の話だけど」



僕等は、少し打ち合わせをした後、二人でアリアの部屋を出た。

廊下には、レティアさんが一人立っていた。


「お戻りになられますか?」

「はい。ですが、案内は結構です。ちょっと二人で散歩がてら、僕の部屋まで戻ろうかと」


レティアさんは、意外とあっさり、僕の提案を受け入れてくれた。


「分かりました。お気を付けてお戻り下さい」

「お気遣い、ありがとうございます」


僕とアリアは、レティアさんに別れを告げ、廊下を歩き出した。

そして、周囲に人影が無い所まで来てから、僕は、再びエレンに心の中で呼びかけた。


『エレン、いいかな?』

『何?』

『今からノエミちゃんを探しに行こうと思ってね。ちょっと聞いてみたいんだけど、今の状態で、エレンは、王宮内を巡回してる精霊が僕等に近付いてきたら、分かる?』

『分かる』

『じゃあさ、そういう場合は、教えて貰ってもいいかな?』

『分かった』


僕はインベントリを呼び出し、ヴェノムの小剣、エレンの衣、エレンのバンダナ、そして神樹の雫と月の雫を各5本ずつ取り出した。

装備を変更した僕は、【隠密】スキルを発動した。



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