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81.F級の僕は、ともに神樹を登る“仲間候補”を紹介される


5月21日 木曜日3



僕が魔法陣の中央に立つと、ノエル様が(かたわら)(ひざまず)いた。


「私が、光の巫女の代役を務めさせて頂きます。儀式が進めば、創世神イシュタル様が語り掛けてこられるはずです。勇者様は、ただお心をお静かに、創世神イシュタル様のお言葉に耳を傾けて下さい」


そう話すと、ノエル様は、何かを歌うように詠唱し始めた。

魔法陣全体が、淡く発光し始めた。

僕は、目を(つぶ)り、じっと耳を澄ませてみた。

…………

……


何も聞こえてこない?


ふと目を開けると、傍らで、ノエル様が両手を地面に付き、荒い息を吐いていた。


「ノエル様?」

「そんな……なぜ、私では届かないのですか?」


ノエル様は、僕の声が聞こえないのか、呆然とした様子で呟いた。

僕は、ノエル様の(かたわら)にしゃがみ込んだ。


「ノエル様!」


ノエル様は、ハッとしたように顔を上げた。

彼女の顔には、悔しさと寂しさが入り混じったような、表現しがたい表情が浮かんでいるように見えた。

彼女は、僕の手を借りながら立ち上がった。


「申し訳ございません、勇者様。お恥ずかしい姿を見せてしまいました」

「そんな事は無いんですが……」


状況から考えて、“神様のお言葉を聞く儀式”は、上手くいかなかったようだ。

それにしても、ノエル様は、どうして光の巫女の代役を自ら買って出たのだろう?

光の巫女たるノエミちゃんが、本当に体調を崩しているなら、彼女の本復を待って“神様の言葉を聞く儀式”を執り行っても良さそうな物なのに。


僕は、改めてノエル様にたずねてみた。


「少しお聞きしてみたいのですが……神様のお言葉無しで神樹って登っちゃいけないとかありますか?」


ノエル様は、やや驚いたような顔をした。


「そのような決まりはございません。ですが、500年前、伝説の勇者様は、神樹の間にて創世神イシュタル様のお言葉を聞き、神樹を“昇られ”ました。此度(こたび)も先例に(なら)うべきかと」


ノエル様の言葉は、僕にとっては意外であった。

もしかして、この“儀式”には、『先例に(なら)う』以外に、余り意味は無い?


「では、とりあえず、今のうちに、神樹を出来るだけ登っておいて、後からタイミング見て、この儀式を行えば良いのではないでしょうか? その時には、ノエミちゃんも元気になってるかもしれません。それに、どの道、僕のレベルから考えて、今日明日、神樹第110層に到達できる、とはとても思えないですし」


ノエル様は、しばらくじっと考えた後、ふっと肩の力を抜いた。


「分かりました。それまでには、私も必ず……!」


必ず?

何だろう?


僕が心の中に生じた(かす)かな疑問を聞きそびれている間に、ノエル様が、僕に話しかけてきた。


「勇者様、お願いがあるのですが」

「どういったお話でしょうか?」

「昨日、まだ勇者としての心構えが出来て無いので、(おおやけ)にタカシ様が勇者である、と宣言して欲しくない、と(おっしゃ)っていましたね?」


僕は(うなず)いた。

その気持ちは、今この瞬間も変わらない。


「ですが、一部の方々には、タカシ様の事を勇者として、ご紹介させて頂けないでしょうか? 実は、勇者様にお引き合わせしたい者達がいるのです」

「どういった方々ですか?」

「ともに第110層を目指して頂くに足る力量を持つ者達です」


つまり、僕に、その人達とパーティーを組んで欲しい、という事だろうか?

どうしよう?

僕にとっての、神樹第110層を目指す“パーティーメンバー”は、既に心の中で決まっている。

ノエミちゃん、エレン、そして、もしかするとアリアも。

しかし、ここで王女様であるノエル様の提案を明確に拒絶するのもなんだか気が引ける。

本当にその人達とパーティーを組むかどうかはともかく、会うだけあってみよう。


「分かりました」


僕の返事を聞いたノエル様は、安堵の表情を浮かべているように見えた。



神樹の間を出た僕達は、外で待っていた女官達と合流した。

そして僕は、昨日、ノエル様に謁見したあの大広間へと案内された。

そこには、昨日とは打って変わり、数人の人影しかなかった。

彼等は、僕と共に現れたノエル様に気が付くと、一斉に片膝をつき、(こうべ)を垂れた。

ノエル様が、彼等に話しかけた。


「よく来てくれました。楽になさい」


ノエル様の声に応じるように、彼等は立ち上がった。

イシリオン、ガラクさん、そして僕の知らない4人の男女。

4人の男女は、いずれも冒険者然とした格好をしていた。

彼等が、ノエル様の言う『第110層を目指して頂くに足る力量をお持ちの方々』であろうか?


ノエル様が、再び口を開いた。


「皆さんにご紹介しましょう。異世界よりこの地に降臨された勇者、タカシ様です」


ノエル様の言葉を受けて、皆の視線が僕に向けられた。

ノエル様は、僕の知らない4人の男女を指し示しながら、僕に話しかけた。


「この4人こそ、第80層のゲートキーパー、バアルを打倒し、第81層への道を開いた者達です」


やはり、ノエル様が紹介したい人達は、この4人の冒険者達で間違いなさそうであった。

彼等は、それぞれ自己紹介してくれた。


一人目は、手に美しい装飾を施された杖を持ち、癖のある赤毛を背中まで垂らした、美しいエルフの女性。


「私の名前はメティス。全属性の魔法を使用できる魔導士です」


メティスと名乗ったそのエルフの女性は、表情を変えずに、僕に軽く頭を下げてきた。


二人目は、背中に戦斧を背負い、古傷だらけの2mを超える巨体を誇るドワーフ。


「俺の名前はガルベル。さしでファイアードラゴンを(ほふ)った事もあるぜ?」


ガルベルと名乗ったドワーフの男性は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


三人目は、背中に弓を背負い、全身しなやかなネコ科の猛獣を思わせる雰囲気の獣人の男性。


「わしの名前は、ネイ・カーン。夜目が利くから、漆黒の闇の中でも、正確に目標を射抜けるぞ」


ネイ・カーンと名乗った獣人の男性は、人懐っこそうな笑顔を向けて来た。


最後の一人は、白を基調としたローブを身に纏ったヒューマンの女性。


「マイヤと申します。神官として、皆様を癒しの術でお支えしております」


マイヤと名乗ったヒューマンの女性は、おっとりとした笑顔のまま、深々とお辞儀をしてきた。


彼等が自己紹介を終えると、ノエル様が、再び僕に話しかけてきた。


「勇者様、いかがでしょう? 彼等なれば、必ずや勇者様のお力になれるものと確信しております」


僕は、すぐには返答できなかった。

今、初めて会ったばかりの冒険者達。

しかも、第81層の探索を行えるという事は、レベルも僕より(はる)かに高いはず。

彼等は、本当に納得済みでここにいるのであろうか?


僕は、彼等に話しかけた。


「改めて自己紹介させて下さい。僕の名前はタカシ。ルーメルの冒険者です」


軽く頭を下げた後、言葉を続けた。


「皆さんは、その……僕と一緒に神樹を登るという事について、どう感じてらっしゃいますか?」


僕の問い掛けに、マイヤさんが口を開いた。


「勇者様のお手伝いをさせて頂けるのは、望外の喜び。私達一同、あなた様とともに神樹を昇り、創世神様にお会いする事を望んでおります」


他の三人にも視線を向けてみたが、彼等からは特に何の反応も無かった。

ノエル様が口を開いた。


「勇者様もお疲れでしょう。一度お部屋に戻られて、午後から早速、この者達と神樹に昇られてはいかがでしょう?」

「分かりました。そうさせて下さい」


4人と僕は、初対面。

パーティーを組むかどうか以前に、“相性”の問題もあるはずだ。

一緒に行動してみれば、その(あた)りも分かるに違いない。


どうやら、これで朝の“行事”は、全て終了となったようだ。

4人の冒険者との“顔合わせ”が終わった後、僕はノエル様と女官達に案内されて、自分の部屋へと戻って来た。



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