表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/694

71.F級の僕は、王女様の訪問を受ける


5月20日 水曜日7



僕等が案内された建物は、その外観同様、内部も意匠を凝らした上品な調度品が配されていた。

入り口から続く天井の高い回廊を抜けると、突き当りに大きな扉が見えて来た。

扉の両脇には、先程中庭で見かけたのと同じ銀色の甲冑に身を固めた衛兵が、直立不動の姿勢で立っていた。

僕等が近付くと、自然に扉が開き、その先には、大広間が広がっていた。

歩み入ったその大広間には、大勢の人々が集まっていた。

そして、一番奥、一際高くなっている壇上に、ノエミちゃん同様、白いベールで顔を隠した人物が椅子に腰かけているのが見えた。


もしかして、あの人が、ノエミちゃんの双子のお姉さんかな?


そのまま大広間の中央まで進んだところで、イシリオンとガラクさん、エルザさん達が、立ち止まり、片膝をついた。

僕とアリアも慌てて彼等の真似をした。

ノエミちゃんだけは、そのままの姿勢で、口を開いた。


「お姉さま、ただいま、戻って参りました」


壮麗な衣装を身に纏い、ベールを頭から被った壇上の人物は、ノエミちゃんの言葉を聞くと、立ちあがり、こちらに歩み寄ってきた。


「ノエミ、心配しましたよ」


ノエミちゃんと同じ声で、その人物は、ノエミちゃんに語り掛けて来た。


「ご心配をおかけしました。ですが、こちらにいらっしゃるタカシ様とアリアさんのお陰で、命を繋ぎました。」

「タカシ……様?」

「はい。タカシ様については、皆様に喜ばしいご報告がございます」


僕の心臓が跳ね上がった。


まさか、こんな大勢の前で、異世界から勇者が降臨しました!

なんて、宣言しちゃう気なんじゃ!?


心の準備も何も出来ていなかった僕は、思わずノエミちゃんに声を掛けた。


「ちょ、ちょっとノエミちゃん!?」


とたんに、傍で片膝をつき、頭を垂れていたイシリオンが、物凄い形相(ぎょうそう)で僕の方を振り返った。


「貴様、聖下様に対し、今何と?」

「お止めなさい!」


ノエミちゃんのお姉さん――ノエル様――が、イシリオンを制してくれた。

ノエル様は、ちらっと僕の方に顔を向けた後、少し声を(ひそ)めてノエミちゃんに語り掛けた。


「そちらの方々のご活躍含めて、後で話を聞きましょう」


そして、周囲に侍るメイド姿の女官達に声を掛けた。


「お客人をお部屋にご案内して差し上げるのです」


女官の一人が、僕の前でスカートの裾を持ち上げながら一礼した。


「タカシ様、お部屋にご案内します。こちらへお越し下さい」


僕は、彼女に(うなが)されるままに立ち上がった。

チラッとアリアの方に視線を向けてみると、アリアの前でも、女官が一人、お辞儀をしていた。

一瞬、アリアやノエミちゃんに声を掛けようとして……

その場の雰囲気に流されてしまった僕は、結局、女官に案内されるがままに、ついて行く事になってしまった。


僕が案内されたのは、10畳程の広さの上品な内装の部屋だった。


「しばらくこちらでお休み下さい。晩餐の準備が整いましたら、またご案内いたします」


僕を案内してくれたメイド姿の女官は、そう話すと、一礼して部屋を出て行った。

一人になった僕は、改めて、部屋の中を見回した。

いくつかのタンスや机が置かれた部屋の真ん中には、セミダブル位の広いベッドが置かれていた。

そこに腰を下ろしてみると、とてもフカフカしている。

そのままベッドに寝そべった僕は、ちょっと現状について整理してみた。


とりあえず、目的地のアールヴ神樹王国、しかも、ノエミちゃんの本来居るべき王宮に到着した。

しかし、この旅路の中で、謎はより一層深まった。

そもそも、ノエミちゃんは、どういった経緯で、山賊の砦に捕らえられていたのか?

アク・イールは、本当に、ドルムさんやノエル様と繋がっていたのか?

王宮の地下牢には、アク・イールの娘と思われる獣人の少女が、今も捕らえられているのか?


僕の頭の中を、解けない問いがぐるぐる渦を巻き出した。

と、扉がノックされた。


―――コンコン


「はい。今開けます」


ベッドから起き上がった僕は、扉の方に向かった。

扉を開けると、そこには、見知った顔が立っていた。


「ノエミちゃん!?」


ノエミちゃんと同じ顔のその人物は、にっこり微笑んだ。

そして、ノエミちゃんと同じ声で、僕の言葉を否定した。


「ふふふ、私は、ノエミの姉のノエルです。姉と申しましても、双子ですから、お間違いになるのは、致し方ないかと」

「す、すみません」


どうやら、先程ベールを被って顔が見えなかったノエル王女様その人らしい。

僕は、先程の広間でのやり取りを思い出しながら、慌てて片膝をついた。


「どうぞ、お立ち下さい。勇者様」

「!」


僕は、驚いてノエル様の顔を見た。

もう、僕の話をノエミちゃんから聞いたのであろうか?


そんな僕に、ノエル様は、笑顔で話しかけてきた。


「こんな所で立ち話も何ですので、お部屋に入れて頂けないでしょうか?」

「どうぞ……」


この国の王女であるノエル様の突然の、しかも一人での訪問。

とにかく、僕は、招き入れた彼女に、部屋の中で一番立派そうな椅子に座るよう勧めた。

彼女が腰かけるのを待って、僕は、聞いてみた。


「それで……いきなりの御訪問、どのような御用件でしょうか?」


ノエル様は、小さく笑って返事した。


「勇者様、今、この部屋の中には、私と貴方様しかおりません。敬語は無用にございます」


そう言われても、相手は、この国の王女様……

あれ?

それを言うなら、ノエミちゃんも、この国では“聖下様”と尊称される光の巫女なわけだけど。


「お言葉ありがとうございます。それで、ノエル様は、なぜこちらに? それと、なぜ、僕の事を“勇者様”とお呼びなのですか?」

「ふふふ、私は、光の巫女たるノエミの姉でございます。残念ながら才足りず、私は、光の巫女とはなれませんでしたが、創世神様の啓示は、妹同様、受け取ることが出来ました」

「啓示、ですか?」

「はい。闇が再び世界を覆わんとしている。しかし案ずるな、異世界より再び勇者が、この地に降臨した、と」

「!」


それは以前、ノエミちゃんから聞かされたのと全く同じ言葉!


「……ですが、その啓示に出て来る勇者が、僕だと思われたのは、なぜですか? もしかして、ノエミちゃ……様から、何か聞かれました?」

「勇者様は、ノエミの事をちゃんづけで呼んでらっしゃるんですね?」

「いや、それは……」

「ふふふ、ご安心下さい。私は、イシリオンのように目くじら立てたりしませんので」


ノエル様は、若干おどけたような口振りでそう話した。


「むしろ、これからも、妹には、今まで通り、普通に接してあげて下さい」

「普通に……ですか?」

「妹は、この国、いえ、この世界で唯一無二の、光の巫女という宿命を負わされて生きてきました。勇者様のように、気軽に接して下さる方が、妹には、絶対に必要なのです」


そう話したノエル様の目は、妹を想う慈愛に満ちているように見えた。

その事に、僕は、逆に軽い違和感を抱いた。

事前に聞いていた、陰謀を巡らせて、ノエミちゃんを陥れようとしているお姉さんと、この目の前にいるノエル様とは、どうあっても結びつかない。


演技が上手?

それとも、ノエル様は、本当に、ノエミちゃんを巡る事件とは、無関係?


僕が、色々考えていると、ノエル様が、言葉を続けた。


「そうそう、なぜ、あなた様を勇者様だと思ったのか、でしたね?」

「あ、はい」

「ノエミからはまだ聞いてはおりませんが、あなた様が(まと)われてらっしゃるのは、まぎれもなく勇者のオーラです。それに、妹がタカシ“様”と呼ぶお方が、勇者様で無ければ、逆にどのようなお方か知りたい位です」


ノエル様もまた、ノエミちゃん同様、僕の事を“異世界から来た勇者”だと思っているようであった。


僕は、ノエル様の言葉に直接返事する事無く、話題の転換を図ってみた。


「ノエル様に少しお聞きしたい事があるのですが」

「何でしょうか?」

「ご承知かもしれませんが、僕は、ノエミちゃんとは、ルーメル近くの山賊の砦で出会いました。彼女が、本来いるべき、この王宮から、どうやって連れ出されたのか、詳細を御承知でしょうか?」


ノエミちゃんの推測では、ノエル様が、この件に関わっているはず。

ならば、その当事者たるノエル様は、どう答えるのであろうか?


ノエル様は、少し寂しそうな表情になった。

しかし、次に彼女が発した言葉は、僕を一気に緊張させた。


「勇者様、もしかして、妹は、私が関与している、と話してはおりませんでしたか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ