表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/694

64.F級の僕は、少々、横着な戦いを試みる


5月19日 火曜日9



10頭目のドラゴンパピーが、光の粒子になって消え去った直後、僕から見て、ドラゴンパピーの向こう側にいたらしいエレンの姿が、目に飛び込んできた。

エレンは、僕と目が合うと、声を掛けてきた。


「お疲れ」

「ありがとう」


僕は、エレンに言葉を返しながら、10頭目のドラゴンパピー戦で抱いた違和感を思い返していた。

9頭目まではともかく、10頭目のドラゴンパピーは、逃げようと思えば、前方に移動出来たはず。

それが、ずうっと、僕を背中に乗せたまま、その場でもがき続けていたのは……?


「もしかして、エレン、僕が戦ってる間中、ずっとそこに立ってたの?」

「終わるの待ってた」


エレンは、以前、モンスターは、自分には襲い掛かって来ない、と話していた。

恐らく、ドラゴンパピーは、前方に移動したくても、エレンがそこに立っているせいで、動くに動けなくなっていたのだろう。

エレンには、多分、そのつもりは無かったのだろうけれど、どうやら、エレン自身が、車止めならぬ、ドラゴン止めとしての役割を果たしてくれていたらしい。


僕は、改めて、エレンにお礼を言った。


「本当に助かったよ。ありがとう」


エレンは、一瞬キョトンとしたが、すぐに僕にたずねてきた。


「レベル上がった?」

「上がったよ。今、レベル60」


僕の言葉を聞いたエレンは、目に見えて嬉しそうな顔になった。


10頭目のドラゴンパピーが落とした月の雫とBランクの魔石をインベントリに収納していると、ノエミちゃんも、僕に近付いて来た。


「タカシ様、お怪我は?」

「全然大丈夫だよ。もしかしたら、今までで一番楽な戦いだったかも」


実際、MP自動回復の素材集めが終わったら、改めて、ドラゴンパピー狩りに来るのも良いかもしれない。

月の雫も、もう少し手に入れておきたいし。


エレンが、口を開いた。


「じゃあ、次行く?」

「うん。次は、第60層のペルーダを倒しに行こう」

「分かった」



第60層は、床、壁、天井全てが、黒い大理石のような素材で出来たダンジョンだった。

僕は、インベントリから、月の雫5本と神樹の雫5本を取り出し、腰のベルトに差した。


「ペルーダは、強毒の霧を吐いてきます。タカシ様を守ってくれるよう、精霊達に呼びかけますね」


そう話すと、ノエミちゃんが、美しい声で歌い始めた。

僕の周りに銀色に渦巻く何かが集まり、僕を優しく包み込んだ。


これで、ペルーダの吐き出す毒の霧は無効化できるはず。


僕の準備が整ったのを確認したエレンが、声を掛けてきた。


「ペルーダ呼んでくる」

「うん。お願いするよ」


エレンが、暗がりの向こうへ去って程なくして、モンスターの咆哮が聞こえて来た。


「ウォォォ!」


頭部と尻尾がヘビ、身体がライオンという異形のモンスター、ペルーダが姿を現した。

ペルーダは、僕に気付くや否や、3m以上もある巨体を感じさせない軽い身のこなしで、僕に襲い掛かってきた。

僕は、それを寸での所で躱しながら、ヴェノムの小剣をペルーダの胴体に突き立てた。


「ガァァァァ!」


ペルーダは、怒りの形相で僕を睨むと、突如、僕に向かって、紫の霧を口から噴き出した。



―――ピロン!



ペルーダの毒霧により、【強毒】を受けました。



強毒!?



―――ピロン!



【強毒】を浄化しました。



以前、第57層で戦ったデルピュネは、【毒】攻撃をしてきた。

【強毒】は、それの上位互換攻撃みたいなものかな?


いずれにせよ、今日は、その威力を“体感”せずに済みそうだ。


僕は、ペルーダから距離を取った。

そして、ペルーダが、再び僕に飛び掛かってくるタイミングを計って、スキルを発動した。


「【影分身】……」


僕の足元の影が盛り上がった。

出現した【影】は、ちょうど僕に飛び掛かってきたペルーダを、真下から攻撃する形になった。


―――ドスッ!


「ガァァァァ!」


ペルーダは、不意打ちになったその攻撃を腹にまともに食らい、苦悶の絶叫を上げながら、仰け反った。

僕は、続けてスキルを発動した。


「【影分身】……」


僕の影の中から、またもう1体、【影】が出現した。

【影】は、そのままペルーダに飛び掛かり、その胴体に小剣を突き立てた。


「ガァァァァ!?」


ペルーダからすれば、いきなり現れたもう1体の【影】に気を取られた隙に、最初に呼び出した【影】が、ペルーダの身体を再び斬り裂いた。

ペルーダが、絶叫して、大きく身を(よじ)った。


僕は、さらに2体、【影】を呼び出した。

総勢4体の【影】が、ペルーダに四方から襲い掛かった。

僕のMPは、これで1秒間に4ずつ消費される事になるはずだ。


【影】だけで、モンスターを倒したら、どうなるんだろう?


それを検証するため、僕は、戦いの場から少し離れた場所に移動した。

そして、ステータスウインドウを呼び出し、MPの減り具合をチェックした。


結構なスピードで減少していくな……


計算上も、MPを補充しなければ、4体同時に維持できるのは、14秒程度。

僕は、そのままステータスウインドウのMPの項目を眺めながら、適時、月の雫を飲み干し、MPを補充し続けた。


ペルーダは、途中何度か火属性の魔法を使用した。

周囲を地獄の業火(ごうか)で焼き尽くすような強力な魔法の直撃を受けて、僕の【影】も何度か消滅させられた。

しかし、その度に僕は、すぐに【影分身】のスキルを発動した。

再生した【影】達は、ペルーダをひたすら切り刻み続けた。

僕が、5本目の月の雫を飲み終えた時、【影】の攻撃を受けたペルーダが、ついに断末魔の絶叫を上げた。


「ガアァァァ……」


そして、ゆっくりと、光の粒子になって消えていった。



―――ピロン♪



【影B】が、ペルーダを倒しました。

経験値817,077,082,600を獲得しました。

Bランクの魔石が1個ドロップしました。

ペルーダの毛皮が1個ドロップしました。



【影】だけでモンスターを倒す事は、十分可能なようだ。

ただし、“【影B】が、ペルーダを倒した”ってポップアップしているところを見ると、自分で倒すよりは、獲得経験値、減少しているのかもしれないけれど。

でも、これって、月の雫、大量に確保できれば、後は、【影】大量に呼び出して、月の雫ガブガブ飲んでるだけで、時間さえかければ、より安全にレベル上げ出来ちゃうって事だよね?


僕が、少々横着な事を考えていると、エレンとノエミちゃんが、近付いて来た。


「ご苦労様です」

「お疲れ」

「ありがとう」


二人に言葉を返しながら、僕は、ペルーダのドロップ品を拾い上げ、インベントリに収納した。


これで、残すところは、インプの核のみ。


「じゃあ、第46層に行こう」


…………

……


レベル60になった僕にとって、レベル46のインプは、最早相手にもならなかった。

インプは、その多彩な魔法を披露する間も無く、遭遇して3秒後には、光の粒子となって消え去っていた。

僕は、改めてインベントリを呼び出し、エンプーサの鉤爪(かぎづめ)、ペルーダの毛皮を取り出した。

そして、インプの核と合わせて、エレンに手渡した。


「これで素材は全部揃ったかな?」


エレンは、僕から手渡された品々を入念にチェックした後、微笑んだ。


「これで大丈夫。明日の晩には、出来上がる」

「じゃあ、今夜はこの辺にしとこう。夜も大分更けてきたはずだし」


さすがに、少々疲れて来た。

体感的にも、とっくに日付が変わってる気がする。

明日は、いよいよアールヴ神樹王国に到着だし、早く宿のベッドで寝たい。


「分かった」


いつものように、エレンが、僕の右手を握り、左腕に、ノエミちゃんがしがみついてきた。

が……


「ん? どうしたの?」


なぜか、エレンが、転移しようとしない。

かわりに、小首を傾げて固まっている。


「エレン?」


僕の言葉に、エレンが、困惑したような顔になった。


「タカシの部屋が無くなってる」

「えっ?」


部屋が無くなってる?

どういう事だろう?


ノエミちゃんの顔が険しくなった。


「転移先……私達が宿泊しているウストの村の宿屋に、何か異変でも生じているのでは?」


僕は、エレンの方を見た。

エレンは、どこか遠くを見つめているような表情で呟いた。


「これは……燃えてる?」

「!」


僕とノエミちゃんは、顔を見合わせた。


「エレン、とりあえず、ウストの村の宿屋近くで、人目に付かない場所があったら、そこに転移させて」


エレンは、頷いた。

一瞬の後、僕等は、どこかの建物の影に転移していた。

転移した直後の僕等の耳に、大勢の人々が叫ぶ声が聞こえて来た。

そして、夜空の一角が、赤々と照らし出されているのにも気が付いた。


「エレン、ここでノエミちゃんを守っていて。様子を確認してくる」

「タカシ様!」


僕は、ノエミちゃんの声に振り返る事無く、直ちに、建物の影から飛び出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
倒し方を工夫するのはいいね 実際影分身なんて出来るならガンガン使って後方から攻撃すると思う
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ