63.F級の僕は、モンスターと死闘?を演じる
5月19日 火曜日8
僕は、エレンに聞いてみた。
「MP少しでも回復できるポーション落とすモンスターがいる階層に、連れて行ってもらえないかな?」
エレンは、少し考えた後、口を開いた。
「MP全快させるポーションなら、80層に行けば手に入る」
「80層か……」
僕のレベルは、58。
ここ62層のモンスター、エンプーサ戦も、そこそこきつかった。
例え、ノエミちゃんに、狂戦士みたいになるあの術掛けてもらっても、80層のモンスターに勝てる気はしない。
「全快しなくてもいいからさ。僕でも戦えそうなモンスターで、MP回復ポーションをドロップするのっていないかな?」
「それなら、この階層にいるドラゴンパピーを倒せば月の雫が手に入る」
「月の雫って?」
「MP回復できるポーション」
「どれ位回復できるの?」
「さぁ……?」
「えっ?」
なぜかエレンが、小首を傾げて固まってしまった。
月の雫っていうポーションを知っているのに、その回復量を知らない?
戸惑っていると、横からノエミちゃんが、説明してくれた。
「タカシ様。闇を統べる者は、その魔力の泉が尽きる事は無かった、と伝えられております。恐らく、この者は、MP回復ポーションの存在を知っていても、実際には使用した事は無く、それ故、回復量も知らないものと思われます」
僕は、エレンに聞いてみた。
「エレンって、MP回復ポーション、使った事無い?」
「そう。使う必要無いから」
「そうなんだ」
エレンのステータス分からないから、何とも言えないけれど、彼女のMPの数値の欄は、きっとおかしな事になっているのだろう。
僕は、改めて、ノエミちゃんに聞いてみた。
「ノエミちゃんは、月の雫、知ってる?」
「もちろんです。それは一般教養ですから」
ノエミちゃんが、なぜかエレンに勝ち誇ったような表情を向けながら、胸を張った。
「月の雫は、MP50回復させる事が可能です」
今の僕のMPは、57。
50回復させる事可能なら、殆どMP全快ポーションと言っても良い位だ。
「ですが……」
ノエミちゃんが、少し心配そうな顔になって言葉を続けた。
「ドラゴンパピーは、この階層でも最強クラスのモンスターです。パピーとは言え、ドラゴン種。その体躯は、5mを超え、強靭な鱗は、普通の武器ではなかなか傷付ける事が出来ません。加えて、強力なブレス攻撃も行ってくるので、今のタカシ様だと、厳しい戦いになるかと……」
「ノエミちゃんに、僕のステータス、少しだけ上昇させてもらうっていうのはどうかな?」
ノエミちゃんの使う、僕を“狂戦士”みたいにする精霊術。
体感的に、ステータスとか滅茶苦茶上昇させるけれども、切れた後、反動で長時間動けなくなる。
上昇量セーブしてもらったら、反動で動けなくなる時間も短くならないかな?
「……そうですね。ステータス、20%増し位で使ってみましょうか?」
「それだと、反動で動けなくなる時間も短く済むかな?」
「恐らく、10分もお休みになれば、回復するかと」
20%上昇で10分動けなくなるのか……
「ちなみに、今までで一番ステータス上昇させて貰った時って、僕のステータス、何%増しになってたの?」
「全力で支援させて頂いたのは、ロイヤルリザードマンの時ですから……100%増しになっていたかと」
「100%!」
つまり、あの時、僕は、レベル116位の強さになっていたって事か。
だから反動で、切れた直後に、ウォーキングヴァイン戦の時以上に、身動きできなくなっていたんだな……
「じゃあ、20%増しで頼むよ」
20%上昇させて貰えれば、単純計算で、レベル70程度の力が手に入る事になる。
僕一人でも、レベル62のドラゴンパピーと、ちゃんと戦えるんじゃ無いだろうか?
「ですが、危なくなりましたら、全力で支援させて下さい」
「うん、あくまでも危なくなったら、にしておいてね」
今夜の目的は、エレンが造ってくれるというMP自動回復のバンダナの素材集め。
その前に動けなくなったら、本末転倒だ。
それにしても、ドラゴンパピー、5mか……
結構、大きいな。
今、僕等がいる回廊が、ちょうど高さや幅が5mない位だから……って、あれ?
「エレン、ちょっと聞いてみたいんだけど」
「何?」
「ドラゴンパピーって、ここに連れてこれる?」
「連れてこれる」
「ドラゴンパピーって、大きいよね? ここに連れて来た時って、方向転換とか出来るのかな?」
エレンは、少し考えた後、首を振った。
「多分、出来ない」
「じゃあさ……」
僕の言葉に頷いたエレンが、暗がりの向こうに消えて十数分後……
―――ズシン……ズシン……
「来た!」
地響きを立てながら、ドラゴンパピーが、ゆっくりとこちらに向かって来るのが見えた。
背中の翼を小さく折り畳み、窮屈そうな姿勢のまま、尻尾を振り立てている。
残念ながら、ドラゴンパピーの顔は、僕から見て巨体の向こう側にあるので、全く分からない。
つまり、ドラゴンパピーは、後退りしながら、こちらにやってきていた。
エレンが、僕のお願い通りに、上手く誘導してくれたようだ。
僕は、ノエミちゃんに話しかけた。
「ちょっと、このまま攻撃してみるよ。それで、ダメそうだったら、さっきの話通り、20%増しでお願い」
「分かりました。ですが、お気を付け下さい。ドラゴン種は、尻尾の一撃もなかなかのものでございます」
僕は、ヴェノムの小剣を構えると、静かにドラゴンパピーに近付いた。
そして、背中に飛び乗ると、ヴェノムの小剣を振り上げて、思いっきり、突き立てた。
―――ドスッ!
「ピギェ!?」
恐らく、予期していなかったのであろう、突然の僕の攻撃に、ドラゴンパピーが驚いたような声を上げた。
残念ながら、僕からは、怒りと驚愕の表情を浮かべているであろう、モンスターの顔は見えない。
ドラゴンパピーは、背中の僕を振り落とそうとするかのように、身を捩った。
しかし、回廊の狭さの為、文字通り、もがく事しか出来ないようだ。
加えて、ちょうど僕が飛び乗った場所も良かった。
ドラゴンパピーは、背中の僕を攻撃しようと、尻尾を振り回すも、それは、僕まで届かなかった。
翼を動かそうとしているようだけれども、それも回廊の天井をガリガリ空しく擦るだけ。
今や、僕は、ドラゴンパピーを一方的に攻撃できる状態になっていた。
僕は、再度ヴェノムの小剣をドラゴンパピーの背中に突き立て、その肉を抉った。
「ピギィィィイイイ!!」
激怒しているのであろう、ドラゴンパピーの咆哮が辺りの空気を震わせた。
同時に、その声に触発されたのか、一斉に、他のドラゴンパピー達が騒ぎ出した。
「ピギィィィ!」
「ピゲェェェェ!?」
「ピギャアアアア!」
そう、僕は、エレンに、複数のドラゴンパピーを、数珠繋ぎに連れてきて欲しい、と頼んでいたのだ。
ただし、全員後ろ向きで。
だから、今僕が攻撃しているこいつの目の前には、別のドラゴンパピーの尻尾があるはずだ。
どうあっても、前に進んでは逃げられない。
そこからは、簡単なお仕事が始まった。
ヴェノムの小剣を突き立てる。
ドラゴンパピーが、怒りの咆哮を上げる。
突き立てる。
咆哮。
たまに、【毒】や【麻痺】発動。
突き立てる。
…………
……
30数回ヴェノムの小剣を突き立て、肉を抉り、【麻痺】と【毒】がそれぞれ1回ずつ発動した。
そして、最後の一突き。
「ピギィィ……」
ドラゴンパピーは、哀愁漂う悲鳴を残しつつ、光の粒子へと姿を変えていった。
―――ピロン♪
ドラゴンパピーを倒しました。
経験値3,676,846,871,700を獲得しました。
Bランクの魔石が1個ドロップしました。
月の雫が1個ドロップしました。
「よし!」
僕は、ドラゴンパピーのドロップアイテムを拾い上げ、インベントリに放り込むと、直ちに、次の1頭に襲い掛かった。
―――ドスッ!
「ピギェ!?」
…………
……
2時間後、僕は、10頭のドラゴンパピーを屠り、同じ数のBランクの魔石と月の雫を手に入れる事に成功していた。
そして、僕は、レベル60に到達していた。