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62.F級の僕は、幻惑の檻に閉じ込められそうになる


5月19日 火曜日7



エレンから教えてもらったMP自動回復のバンダナの素材は、以下の3種類だった。


1.エンプーサの鉤爪(かぎづめ)

2.ペルーダの毛皮

3.インプの核


それぞれ1個ずつあれば、十分だそうだ。

そして、それらの素材を落とすモンスター達の情報は、以下の通り。


◇ エンプーサ Lv62

人間の女性のような姿をしているが、手足には、巨大な鉤爪が生えている。背中には、コウモリのような翼が生えており、空中を滑るように移動する事が可能。幻惑の魔法が得意で、相手を幻惑で惑わせ食い殺す。


◇ ペルーダ Lv60

体はライオン、頭部と尾が蛇という異形のモンスター。毒の霧を吐き出し、冒されるとまたたく間に死に至る。また、火炎系の魔法も得意とする。


◇ インプ Lv46

背丈は人間の子供位で、黒い肌と赤い目を持つ低級悪魔。様々な魔法を使用可能。



「じゃあ、まずはエンプーサの出没する第62層で」


どうせ戦うのなら、強いのから倒せば、後が楽になる。


僕の言葉に、エレンが(うなず)いた。

いつも通り、エレンが僕の右手を取り、ノエミちゃんが、僕の左手にしがみついた。

そして、エレンが何かを呟いた瞬間、僕等は、神樹第62層に転移していた。


第62層は、白っぽい大理石のような素材が床、壁、天井にびっしり嵌め込まれていた。

僕は、エレンの衣とヴェノムの小剣を装備して、腰のベルトに神樹の雫を10本差し込んだ、

僕の準備が終わるのを確認したエレンが、僕に声を掛けてきた。


「じゃあ、連れて来る」


僕が頷くのを確認したエレンは、暗がりの向こうに消えて行った。


やがて、暗がりの向こうから、エンプーサが滑るように滑空しながら現れた。

僕は、ヴェノムの剣を構えて、すぐさまエンプーサに飛び掛かろうとして……


いきなり、周囲の情景が切り替わった。


月明かりに照らし出された静かな森の中。

夜風がそっと頬を撫ぜて行く。


転移させられた!?

エンプーサ、相手を転移させる能力を持っているとは聞いてなかったけど……


僕は、慎重に周囲を見回した。

どう見ても、先程のダンジョンの面影は無い。

そのまま、ゆっくり進むと、前方に小さな泉が見えて来た。

その傍に、白い何かが横たわっていた。


何だろう?


慎重に近付いていくと、それは、うつ伏せに倒れている一人の女性であった。

僕は、慌てて彼女の方に駆け寄った。

そして、その女性に声を掛けた。


「大丈夫ですか?」


僕の問い掛けに、彼女は、少し苦しそうな息をつきながら身を起こした。

彼女は、全裸であった。

自然に彼女の美しい胸の膨らみが、目に飛び込んできた。

僕は、慌てて目を反らした。

身を起こした彼女は、すぐに自分の姿に気付いたのか、慌てて手で胸元を隠した。


「す、すみません、どうされました?」


僕は、彼女から目を反らしながら、たずねてみた。


「あの……モンスターに襲われて……」


彼女は、怯えたような声で、そう答えた。


とにかく、彼女に何か着せないと……


僕は、エレンの衣を脱ごうとした。

その時、何かの歌声が聞こえて来た。

その歌声は、酷く耳障りで、僕の心をかき乱した。


ふいに、その声が、ノエミちゃんの歌声だと確信できた。


僕は、咄嗟に、後ろに飛び退いて、スキルを発動した。


「【看破】……」


途端に、周囲の情景が、砂のようにサラサラと崩れ出した。


気付くと、僕は、あのダンジョンで、エンプーサと対峙していた。

今や、ノエミちゃんの歌声は、はっきりと耳に届いてくる。

それは、最初に感じたのと真逆な、心の靄を全て洗い流してくれるような、美しい旋律であった。


恐らく、エンプーサに幻を見させられていた?


ノエミちゃんの歌声が届かなければ、あの時、もう少しで、僕はエレンの衣を脱ぎ、ヴェノムの剣も地面に置く所であった。


僕は、【看破】のスキルを発動したまま、エンプーサに飛び掛かった。


―――シュバッ!


「ギョエエエエエ!」


エンプーサは、悲鳴をあげながらも、足の鉤爪で、僕の身体を引き裂こうとした。

すんでの所でそれ避けた僕は、【威圧】のスキル発動を試みた。


「おい!」



―――ピロン!



【威圧】が抵抗されました。



ダメか……

まあ、向こうの方がレベル高いし。


諦めた僕は、再びヴェノムの小剣でエンプーサに斬りかかった。


エンプーサは、用心深く僕との距離を測りながら、ヒラリヒラリとそれを躱していく。


くそ、やっぱり、格上と一人で戦うのは、キツイな。

今発動中の【看破】スキルは、10秒につき1ポイントずつMPを消費する。

長引けば、僕は、エンプーサの幻惑に対する抵抗手段を失ってしまうかもしれない。

せめてもう一人……そうか!


僕は、再びエンプーサに肉薄しながら、別のスキルを試してみる事にした。


「【影分身】……」


ふいに僕の影が盛り上がった。

そして、その【影】は、そのまま、エンプーサに突撃した。

不意を突かれた形になったエンプーサが、【影】に気を取られた隙を狙って、僕は、ヴェノムの小剣を突き出した。


―――ズシュ!


「ギョエエエエエ!」


エンプーサが悲鳴を上げる中、今度は、背後に回り込んだ【影】が、エンプーサに飛び掛かるのが見えた。


―――シュバッ!


風を切る音と共に、エンプーサの右の翼が、宙を舞った。

それは、地上に落下する前に、光の粒子となって消えていった。

片翼を失ったエンプーサは、地面に落下した。


「ギィエギェゲ!」


明らかに狼狽している様子のエンプーサに、僕と【影】が、同時に飛び掛かった。


―――シュババ!


「ギャアアアァァァ……」


エンプーサは、断末魔の木霊を残して、光の粒子へと変わっていった。



―――ピロン♪



エンプーサを倒しました。

経験値3,676,846,871,700を獲得しました。

Bランクの魔石が1個ドロップしました。

エンプーサの鉤爪が1個ドロップしました。



「お疲れ様」


僕は、【影】に声を掛けると、【影分身】と【威圧】のスキルを停止した。

【影】は、僕の言葉に答える事無く、出現した時と逆に、僕の足元から伸びる影の中に、溶けるように消えいった。


僕が、ドロップしたアイテムを拾い上げていると、ノエミちゃんが、近付いて来た。


「お疲れ様です」

「ありがとう。さっきは助かったよ。ノエミちゃんが歌ってくれなかったら、結構ヤバかったよ」

「お役に立ててなによりです」


ノエミちゃんが、嬉しそうな顔になった。


それにしても、さっきの戦いで、MPどれ位消費したのだろうか?


僕は、ステータスを確認してみた。



―――ピロン♪



Lv.58

名前 中村(なかむら)(たかし)

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+57)

知恵 1 (+57)

耐久 1 (+57)

魔防 0 (+57)

会心 0 (+57)

回避 0 (+57)

HP 10 (+570)

MP 0 (+5/57)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】【威圧】【影分身】

装備 ヴェノムの小剣 (攻撃+170)

   エレンの衣 (防御+500)

効果 物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)



MP残り5……

結構、ギリギリだったって事か。


【影】を呼び出せば、戦闘が格段に楽になる事は、今ので十二分に体感できた。

しかし、一戦するだけで、MPほぼ枯渇するようでは、連発するわけにはいかない。


僕は、いつの間にか戻ってきて、隣で僕のステータスを覗き込んでいるエレンに声を掛けてみた。


「エレンは、MP回復するポーションとか持ってないの?」

「持ってない」

「そっか……」

「MP、どれ位で回復する?」

「どれ位なんだろう?」


今まで、MPを消費するような戦い方をした経験が無い僕には、MPの自然回復率が、さっぱり分からなかった。


ノエミちゃんが、声を掛けてきた。


「回復率は、人それぞれです。大体、1分~10分ごとに、MP1ずつ回復するはずです。睡眠を取れば、その間は、回復率も上昇します。精霊にお願いして、タカシ様のMP回復率を上昇させましょうか?」

「じゃあ、お願いしようかな」


ノエミちゃんが、美しい声で歌い出した。

その旋律は、僕の心の中に、ゆっくりと染み渡って行く。

僕は、ノエミちゃんの歌声に耳を傾けながら、ステータスウインドウの中のMPの数字の変化を観察してみた。


+5、6、7,8……


大体、10秒に1ずつ上昇していく。

と言う事は、ノエミちゃんに歌って貰えば、少なくとも、回復率は6倍いや、60倍近くまで上昇する?


ノエミちゃんって、やっぱり凄いな……


しかし同時に、この回復率だと、戦闘中、ノエミちゃんにこの歌を歌って貰っても、【影】連発はやっぱり無理と言う事だ。


僕は、改めて、エレンに向き直った。


「次の敵と戦う前に、ちょっとお願いしたい事があるんだけど……」



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