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603.F級の僕は、曹悠然の奪還方法を相談する


6月24日 火曜日E4-15



オベロンが改めて“いい考え”について得意げに語り始めた。


「まず基本、(わらわ)は……」


話の途中でオベロンの姿がゆらゆら揺れながら、空中に溶け込むように見えなくなった。


「ティーナと原始人からのこの“献上品”を使用して、おぬし以外には見つからぬようにしておく」


どうやらティーナさんの依頼であのエキセントリックな人物、テオ(原始人)が作製してくれた戦闘服(“献上品”)の光学迷彩機能を使用したらしい。


「で、もしあの男がその場に中国娘を連れてきておれば、適当なタイミングで(わらわ)が娘に近付く(ゆえ)、おぬしは隙を見て(わらわ)に対して【置換】を使用すればよい。目出度(めでた)く中国娘を確保出来れば、後は障壁(シールド)で護るなりなんなりして、さっさとアレ(定理晶の贋作)の破壊に向かうのじゃ」


光学迷彩の機能を切ったのだろう。

話し終えたオベロンの姿が、ゆらめきながら空中から滲み出てきた。


ね?

簡単でしょ?

みたいな顔しているけれど……


「【置換】は対象を視認する必要があるんだ。もし視界を(ふさ)がれたらどうする?」

「視界を?」

「さっき、頼博文(ライポゥウェン)は僕達を雷撃の嵐で攻撃してきたんだ。一応障壁(シールド)で防御出来るけれど、あれを使われたら周囲が全く見えなくなるんだよ」


あの雷撃の嵐について、頼博文は壁に設置されている防御機構によるものって話していた。

しかし実はやっぱり孫浩然(ハオラン=スン)のアバターによる攻撃でしたって可能性は捨てきれないわけで。


「ああ、そう言えば(わらわ)がこの世界に来てやった時、そんな感じの状況であったな」


こいつがこの世界に“出現”したと思われるタイミングで、雷撃の嵐を薙ぎ払うように閃光が走った。


「もしかして、雷撃の嵐を消滅させたり出来るのか?」

「当り前じゃ! と言いたいところじゃが、この閉じて壊れた世界では無理じゃ」


まあ今のこいつ、単なるマスコット(役立たず)状態だし。


「じゃがしかし! おぬし、地球かイスディフイでゲートキーパーを斃して回っておったじゃろ?」

「なんで急にゲートキーパーの話が出てくるんだ?」

「第98層のゲートキーパー、シトリーも斃したのであろう?」


僕は自分の記憶を紐解(ひもと)いてみた。

確かにこいつの言葉通り、1週間ほど前、僕はティーナさんや関谷さんと一緒に、地球の富士第一98層でゲートキーパーのシトリーを斃した(第393話)けれど。


「それ、今、何か関係あるのか?」

「その時のドロップアイテムを確認してみよ」


シトリーのドロップアイテム?


僕はインベントリを呼び出した。

一覧を辿(たど)っていくと、そこにはシトリーのドロップアイテム『万雷の鞘』が表示されている。

僕はそっとその項目に触れてみた。

説明文が表示される。



万雷(ばんらい)(さや)

98層のゲートキーパー、シトリーの祝福を受けた鞘。

任意の武器を鞘に一度収める事で雷雲を起こし、雷を操る能力を付与する事が出来る。

効果持続中は武器の保持者は雷撃系統の攻撃に対し100%の耐性を得る。

効果の持続時間は1時間。

ただし20時間に1度しか効果は発現しない。



シトリーは交戦時、風属性のプラズマを大量にばら()いてきた。

だからドロップアイテムの性能にも、そうした背景が反映されているのかも。

それはともかくこのアイテム

今、この状況下ではなかなか役に立ちそうだ。


僕は『万雷の鞘』をインベントリから取り出した。


オベロンが声を掛けてきた。


「そうそう。それじゃ。それを使えばあの程度の雷撃の嵐、逆におぬしの思うがままに操作できるぞ」

「それにしてもお前……」


僕は『万雷の鞘』をズボンのベルトに差し込みながら、当然ながら心の中に浮かんだ疑問を口にしてみた。


「僕と契約するまで封印されていたくせに、シトリーのドロップアイテムが『万雷の鞘』だって、どうして知っていたんだ?」

「そ、それはじゃな……教えてもらったのじゃ!」

「教えてもらった? 誰に?」


まさか神樹内部にゲートキーパーを配置したエレシュキガル本人から聞いた……とか?


(わらわ)は精霊達の王たる凄い存在じゃぞ? じゃから他の精霊達が得た知識も我が物とする事が出来るのじゃ」


こいつ、前にもそんな事、言っていたな。

まあ、僕にはそれが本当かどうか、確かめるすべは無いけれど。


「あと、もう一つ気になる事がある」

「なんじゃ、(わらわ)の説明に納得いかぬとでもいうのか?」


僕は苦笑した。


「安心しろ。ドロップアイテムの話はこれで終わりだ。それより、頼博文についてだ」

「頼博文? ああ、あの拡声器を使っておぬしに取引を持ち掛けてきていた男の事じゃな? あやつがどうした?」

「実は強力なスキルを持っているらしいんだ」

「どんなスキルじゃ?」

「自分の特殊な“声”や自分が演奏する楽器の音色に、様々な効果を発揮する魔力を織り込めるとか……」

「ふむ……」


オベロンが束の間考える素振りを見せた後、言葉を返してきた。


「あの男の能力、どうやら拡声器のような機械を通せば、その効果は失われるか、最初から使用出来ないようじゃな」

「どうして分かるんだ?」

「男が拡声に使用しておったのは、魔力では無く電子の流れを利用した機械であった。前にも(第487話)教えてやったと思うが、魔力は電子の流れと相性が悪いのじゃ。それにもし、その点を改良した拡声器を用意出来ていたのなら、おぬし、とっくにあやつの術中に(おちい)っていたはずじゃ」


言われてみればその通りだ。


僕は一応、【看破】のスキルを発動してみた。

しかし周囲の情景に、特に変化は現れない。

という事は、スキルが封じられているとかそういう状況でも発生していない限り、今のところ、頼博文の“声”が僕に何らかの影響をもたらしている可能性は、排除出来そうだ。


オベロンが言葉を続けた。


「それはともかく、おぬし、『ムシュフシュの毒針』、持っておろう?」

「『ムシュフシュの毒針』?」

「そうじゃ。それと……」


オベロンが何かを探るような視線を虚空に向けながら言葉を続けた。


「そうじゃな……後は99層のゲートキーパー、グシオンがドロップした『夢見の腕輪』があれば、なんとかなりそうじゃ」


改めてインベントリに視線を向けた。

そしてすぐに、今、オベロンが口にした二つのアイテムが収納されている事が確認出来た。

僕はその一つに指を触れた。



【ムシュフシュの毒針】

刺す事で相手のレベルや耐性を無視して、一瞬で仮死状態に出来る。使用すると消滅する。覚醒するまでの時間は、対象のレベルや耐性に依存する。



これは確か……

10日以上前、ユーリヤさん達の偽装隊商(キャラバン)と一緒に、属州モエシアから属州リディアへと州境を越える少し手前で……


あの時(第324話)の事が、懐かしさと若干の切なさを以て思い起こされた。


突然現れたアルラトゥ(メル)が、僕達にレベル100のモンスター、ムシュフシュを3体押し付けてきて、

それを僕とユーリヤさんとで協力して斃して……


そして僕はメル(アルラトゥ)と出会ったのだ。


感傷に浸っていると、オベロンが不思議そうな雰囲気で声を掛けてきた。


「何を呆然としておる?」

「あ、いや……」


こいつにだけは、メル(アルラトゥ)との想い出を(けが)されたくはない。


適当に誤魔化しつつ、オベロンが口にしていたもう一つのアイテムの名称にも指で触れてみた。



【夢見の腕輪】

99層のゲートキーパー、グシオンの力が込められた腕輪。

装着して対象者に触れる事で、相手が開示していない秘密の一部を垣間見(かいまみ)る事が出来る。

効果は20時間に1度のみ。



グシオン……

あいつとの戦い(第394話)は、僕にとってはここ最近で一番の黒歴史だ。

なにしろ……

うん。

やめておこう。

回想してもメンタルが自爆するだけだし。


気を取り直した僕はインベントリから『ムシュフシュの毒針』と『夢見の腕輪』を取り出した。

そして改めてオベロンに問い掛けた。


「つまり出会いがしらに、いきなり頼博文をこの毒針で刺すって事だよな?」

「そうじゃ。おぬし自身があの男に接近するのが難しければ、(わらわ)がこっそり近付いて刺してやってもよいぞ?」


なるほど。

それはなかなかの名案に聞こえる。


「で、この『夢見の腕輪』はどう使うんだ?」

「それは保険じゃ」

「保険?」


オベロンが(うなず)いた。


「もしかするとあの男、中国娘をその場に連れてきておらぬかもしれぬであろう? その場合、毒針で仮死状態になったあやつの記憶を、その腕輪を使ってスッパ抜けば良い」



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