表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/694

52.F級の僕は、光と闇の仲裁を試みる

ノエミちゃんの真っ直ぐな正義感が、僕の心をざわつかせる


5月17日 日曜日5



―――ブモォォォ……


ミノタウロスが、断末魔の雄叫びを上げながら、光の粒子となって消えて行った。



―――ピロン♪



ミノタウロスを倒しました。

経験値484,193,826,700を獲得しました。

Cランクの魔石が1個ドロップしました。

ミノタウロスの斧が1個ドロップしました。

レベルが上がりました。

ステータスが上昇しました。



レベルが、57から58に上がるまでに、僕は、ミノタウロス、メドゥーサ、デルピュネをそれぞれ5体ずつ倒していた。

そして、Cランクの魔石15個、ミノタウロスの斧4本、メドゥーサの彫像5個、そしてデルピュネの鱗5枚が手に入った。

ミノタウロスとは、あれから4回戦ったが、結局、スキル書がドロップしたのは、最初の戦いの後のみ。

スキル書のドロップに関しては、まだ謎が多い。


ドロップ品の内、ミノタウロスの斧は武器で、デルピュネの鱗は、素材だろう。

では、メドゥーサの彫像は、何だろう?


メドゥーサの彫像は、ちょうど手で握れるような太さの持ち手が付いていた。

そして、その上に、コケシの頭の如く、禍々しいメドゥーサの顔が乗っている。

素材的には、金属とも木製ともつかない不思議な手触りだ。

今までの経験上、装備状態で、ポップアップ画面の中のアイテム名やスキル名に触れれば、説明文が表示される。

持ち手が付いている所を見れば、装備品の一種かもしれない。


僕は、メドゥーサの彫像を握りしめたまま、自分のステータスを呼び出してみた。



―――ピロン♪



Lv.58

名前 中村(なかむら)(たかし)

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+57)

知恵 1 (+57)

耐久 1 (+57)

魔防 0 (+57)

会心 0 (+57)

回避 0 (+57)

HP 10 (+570)

MP 0 (+57)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】【威圧】

装備 センチピードの牙 (攻撃+150)

   エレンの衣 (防御+500)

効果 物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)



……メドゥーサの彫像は、無い。

という事は、装備品では無いのかな?


そんな事を考えていると、熱心に僕のステータスを覗き込むエレンとノエミちゃんの姿に気が付いた。


僕は、二人に聞いてみた。


「ねえ、このメドゥーサの彫像って、何だろう?」


エレンが、先に口を開いた。


「相手を麻……」


しかし、エレンが言い終わる前に、かぶせるようにノエミちゃんも口を開いた。


「それは、スクロールのような、使い捨てのアイテムです。1回使用すれば消滅しますが、戦闘中に使用すれば、耐性が無く、かつレベル50以下の敵を、60秒間、必ず麻痺させることが出来ます」

「そうなんだ、ありがとう」


僕は、ノエミちゃんに一応お礼を言ってから、チラッとエレンの方を見た。

発言を妨害された形になったエレンではあったが、その事を特に気にしているようには見えなかった。


エレンは、そうでもなさそうだけど、ノエミちゃんは、過剰な位、エレンに対して敵愾心(てきがいしん)を持っている。

そのためか、ノエミちゃんは、いつも、エレンは、この場に必要無いのだ、という事を、言葉と態度で懸命にアピールしてくる。

ノエミちゃんのエレンに対する態度は、なぜか僕の心を少しざわつかせた。


エレンが、本当に闇を統べる者、魔王エレシュキガルと関係しているかどうか、僕には分からない。

だけど、今、この場では、エレンは、僕やノエミちゃんに不利になるような行動は、全く取っていない。

それどころか、僕の要望を聞き、僕が倒せそうなモンスターを選んで、僕のレベル上げに協力してくれている。

もしかしたら、エレンが魔王と関係しているというのも、ノエミちゃんの思い込みか勘違いなんじゃないだろうか?


ふいに、僕が関谷さんと初めて会った時、佐藤が投げかけて来た言葉を思い出した。


『……詩織ちゃん。そいつは()っといていいよ……』


F級だから。

荷物運びだから。

その場にいない者として扱う。


そう言うのって、どうなんだろう?

レッテル貼られてる側からすれば……


僕の心の中に暗い感情が沸き起こりそうになった時、ノエミちゃんに声を掛けられた。


「どうかされました?」


見ると、ノエミちゃんが、心配そうな顔で僕を見ていた。


「え? あ、どうもしないよ?」


僕は、精一杯の笑顔を作って答えた。


「そうですか……なにか、とても怖い顔をなさっていたので……」


どうも顔に出てしまっていたみたいだ。

気を付けないと。


「ごめんね。今夜の敵、ちょっと強かったからさ。少し気疲れしちゃってるのかも」

「タカシ様……」


ノエミちゃんは、エレンの方に向き直った。


「闇を統べる者よ、だから私は、もう少し下の階層で……」

「ノエミちゃん」


エレンに非難めいた言葉を掛けるノエミちゃんを制して、僕は、エレンに近付いた。

そして、エレンに笑顔でお礼を言った。


「今日もありがとう。エレンのおかげで、今日もまた少し強くなれたよ」


エレンは、一瞬キョトンとした表情になったが、すぐに少し微笑んだ。


「でも、まだ足りない」

「そうだね、これからも宜しく頼むよ」

「タカシ様!」


ノエミちゃんが、やや抗議するような声を上げた。


「闇を統べる者に心を許してはなりません」

「ノエミちゃん」


僕は、ノエミちゃんに静かに語り掛けた。


「僕は、110層まで登ってみせるよ」

「タカシ様……!」


ノエミちゃんの顔がみるみる笑顔に変わっていった。


「そのためには、エレンの協力も必要だ」

「そんな事はありません。私がいれば……」

「ノエミちゃん、この武器も防具も、エレンが用意してくれたんだ」


僕は、センチピードの牙とエレンの衣をノエミちゃんに見せながら話を続けた。


「それに、以前、文字通り、エレンのおかげで命を救われた。エレンがいなかったら、僕は、ノエミちゃんに会う前に死んでいたよ」


ファイアーアントを倒し、窮地を脱する事が出来たのは、エレンがくれたあのスクロールのおかげだ。


「だから、僕等がこの神樹を登りきって、110層に到達するまでは、皆で協力しよう」


ノエミちゃんは、複雑な表情のまま(うつむ)いた。

やがて、彼女は顔を上げた。


「……分かりました。ただし、条件があります」

「条件?」

「はい。まず、タカシ様は、いついかなる時も、この者と二人っきりでは行動しない事。そしてもう一つ」


ノエミちゃんは、エレンに厳しい視線を向けた。


「この者が、この世界に(あだ)成す存在である、とタカシ様にもお分かりになられた場合、必ずこの者を倒して下さる事」


僕は、エレンを見た。

エレンは、僕等の会話にあまり関心は無さそうであった。

僕は、半分おどけたような口調で話しかけた。


「エレン、君が悪さしたら、僕は、君と戦わないといけないらしいよ」

「私は、誰とも戦わない」

「とりあえず、これからは、僕のレベル上げ、ノエミちゃんもついてきて良いよね?」

「タカシのレベル上げを邪魔しないなら、私は別に構わない」


エレンの言葉に、ノエミちゃんが反応した。


「邪魔をしそうなのは、あなたの方です!」

「まあまあ」


僕は、ノエミちゃんを(なだ)めつつ、二人に話しかけた。


「とりあえず、これからも宜しくね」



話が一段落したところで、僕はインベントリを呼び出した。

そして、今回の戦利品をインベントリに収納しようとしたところで、エレンが口を開いた。


「センチピードの牙とデルピュネの鱗を1枚貸して」

「どうするの?」

「加工してくる」


もしかして、加工する事で、より強力な武器が創り出せるのかな?


僕は、エレンに武器と素材を手渡した。

そして、残りの戦利品を全て収納した後、インベントリの一覧をチェックしてみた。


Cランクの魔石が515個あるな。

売ったらいくら位になるかな?

地球だと、この前、関谷さんに貰ったCランクの魔石、1個32,000円で売れたから……


「1,648万円!?」

「何?」

「どうかしました?」


僕が、突然大声を出してしまったためか、二人が同時に驚いたような視線を向けて来た。


「あ、こっちの話。ごめんごめん」


僕等の世界に持って帰って売れば、(ひと)財産出来ちゃうな。

あ、でも、無理か……

F級が、Cランクの魔石、大量に均衡調整課に持ち込めば、事情聞かれる位じゃ済まない騒ぎに発展しそうだ。


Cランクの魔石、こっちだといくら位だろう?


僕は、ノエミちゃんに聞いてみた。


「Cランクの魔石って、いくら位で売れるか知ってる?」

「申し訳ございません。あまり魔石の売買に関しては、承知しておりませんので……」


ノエミちゃんが、申し訳なさそうな顔になった。


「あ、気にしないで。明日、ドルムさんにでも聞いてみるよ」


僕等の護衛対象のドルムさんは、貿易商だ。

もしかしたら、ついでに、いくつか買ってもらえるかもしれない。


「そろそろ帰ろうか?」


僕の言葉に、エレンとノエミちゃんが頷いた。

エレンが、僕の手を取り、ノエミちゃんが僕にしがみついた。

エレンが何か呟いた瞬間、僕等は、ゲンダの村の宿屋の一室に転移していた。



お読み頂きまして、ありがとうございます。

次回は、明日投稿予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[気になる点] 詳しく事情を聞けばいいのに、エレンは聞いちゃダメなんて言ってないじゃん。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ