表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/694

45.F級の僕は、光と闇の出会いを目撃する

読者の方々に感謝しつつ、本日二回目の投稿です。


5月16日 土曜日10



僕とアリアが、『暴れる巨人亭』に帰ってくると、既にノエミちゃんの送別会の準備が大分進んでいた。

その夜は、他の宿泊客達も加わって、盛大な送別会が行われた。

マテオさんやノエミちゃん達が用意してくれた料理や飲み物は、とても美味しかった。

僕も、いつ以来か忘れる位、楽しいひと時を過ごす事が出来た。

ノエミちゃんが、『暴れる巨人亭』で働いたのは、結局、4日間だったけれど、その真面目な仕事ぶりや、元々の可愛さもあって、皆、彼女との別れを惜しんでいた。


宴は、結局、夜の9時前に、一応、お開きになった。

明日は、僕とアリア、ノエミちゃんの3人は、朝の7時に1階カウンター前に集合する事になっていた。

僕は、皆にお休みの挨拶をして、一足先に、自分の部屋に戻って行った。


一人になって、ベッドに横たわると、急に色んな想いが、頭の中を駆け巡った。


あの流星雨の夜、全人類にステータスが割り振られ、世界が変わった日以来、僕は孤独と共に生きて来た。

だけど、この世界には、僕が地球では得られなくなってしまった、こうした安らぎが確かな形で存在している。

僕の心の奥底で、不思議な感情が沸き上がってきた。


どうせ、地球じゃ一人ぼっち。

20年生活した地球よりも、1週間しか過ごしていないこの世界の方が、(むし)ろ仲の良い人々の数は、多くなってしまっている。

地球で、家族以外で仲が良いと言えるのって……

更科さん? は、単に、普通に接してくれるだけの知り合いだ。

関谷さん? は、どうなんだろ?

まあ、会えば普通に接してくれると思うけど、単にそれだけの知り合いだ。

それ以外……

去って行った元友達や、同級生達の顔が浮かんでは消えた。


レベル上がって、強くなって、それでもしかして、昔の知り合いが戻って来たとして、それって、僕は受け入れる事、出来るのだろうか?

それなら、いっそ、このままこの世界で……


―――ハァ……


そういわけには、やっぱりいかないよな。

家族もいるし、大学もあるし、ノルマもあるし。

結局、僕は、全てを捨て去って、新しい生活を始めようなんて勇気は、これっぽっちも無い小さな人間だ。


ちょっと自己嫌悪が出て来た時、扉がノックされた。


―――コンコン


誰だろう?

アリアかな?


僕が、扉を開けると、ノエミちゃんが立っていた。


「タカシ様、少しお話させて貰っても良いですか?」

「いいよ、入って」


まだ時間は9時過ぎ。

エレンが約束通りの時間に来るなら、まだ1時間近くある。

二人が鉢合わせって事は、起こらないんじゃないかな?


軽い気持ちで、僕は、ノエミちゃんを部屋の中に招き入れた。


「どうしたの?」


僕は、ベッドにちょこんと腰かけたノエミちゃんにたずねてみた。


「まずは、タカシ様に、改めてお礼を、と思いまして」


そして、ノエミちゃんは、深々と頭を下げて来た。


「あんなに嫌がってらっしゃったのに、お心変えて頂きまして、本当にありがとうございました」

「そんないいよ。ちょっと、僕もノエミちゃんの故郷、見てみたくなったし。なにより、報酬が凄く良いからね」


まさか、地球でのノルマが免除されて少し身軽になったから、と本当の事を話す事が出来ない僕は、心変わりの理由をそんな風に説明してみた。


「ふふふ。アールヴ神樹王国に到着しましたら、タカシ様に、必ずこの御恩は、返させて頂きますね」

「御恩って、僕は、ノエミちゃんに、大した事してあげてないよ?」

「私を山賊の砦から救い出して下さったではありませんか」

「あれは……でも、結局、(だま)されて閉じ込められて、(むし)ろ、ノエミちゃんのお陰で脱出できたという……」


僕は、苦笑した。


「タカシ様が、私を助け出して下さって、封印の首輪を破壊して下さったからこそ、私も力を取り戻せました」


いまさらながら、近所のホームセンターには、感謝だ。

まさか、金切鋸(かなきりのこぎり)の切れ味が、あそこまでとは思いもよらなかった。

もしかすると、【剣術】スキルのおかげで、刃物全般の“攻撃力”が上昇しているのかも、だけど。


僕が、そんな事を考えていると、ノエミちゃんが、真剣な面持ちで切り出した。


「タカシ様、不躾(ぶしつけ)なお願いとは、承知しております。ステータスを……お見せ頂けないでしょうか?」

「へっ?」


ノエミちゃん、君まで?


僕は、唐突なお願いに、ノエミちゃんの顔を思わず二度見してしまった。


「どなたにも決して、漏らしません。代わりに、私の力について、全てお話します」


ノエミちゃんが、再度頭を下げて来た。


「え~と、ノエミちゃん、僕のステータス、どうして見たいのかな?」

「少し、確認させて頂きたい事がございまして」

「ええっ!?」


理由まで一緒?

エレンも、僕のステータス見たがる理由を聞いた時、確認したいから、と答えていた。


「確認って、どんな事を?」

「確認できましたら、ご説明いたします」


まあ、ノエミちゃんは、エレンと違って、コミュ障じゃ無いだろうし、ちゃんと説明してくれるっていうのなら、見せても良いかな……


僕は、諦めて呟いた。


「ステータス……」



―――ピロン♪



軽快な効果音と共に、僕のステータスウインドウが、ポップアップした。

ノエミちゃんは、真剣な面持ちのまま僕のステータスを凝視した後、ふっと表情を(ほころ)ばせた。


「やはり……」

「やはり?」

「ありがとうございました。もうステータスを閉じて頂いて結構です」

「うん」


僕は、ステータスを消去すると、改めて、ノエミちゃんに問いかけた。


「それで、何が確認できたの?」

「タカシ様、あなた様は……」


言いかけて、途中でノエミちゃんの表情がいきなり強張(こわば)った。

彼女は、突如歌うように何かの詠唱を開始した。

同時に、今まで誰もいなかったはずの場所に、何者かが出現した。


「エレン!?」


突然現れたエレンの周囲に、金色に輝く何かが渦巻いていた。

いつもは、表情の変化に乏しいエレンの顔が、珍しく、大きく歪んだ。


「光の……巫女!?」

「闇を()べる者よ! 直ちに立ち去りなさい!」


ノエミちゃんが、毅然とした声でそう叫んだ。

金色に輝く何かが、まるでエレンを拘束するかの如く、彼女を締め上げて行く。

彼女は、ノエミちゃんと僕とを交互に見た後、呟いた。


「光の巫女もタカシを見付けた……それはともかく、ここでは、私を縛れない」


エレンが、何かを口ずさんだ。

瞬間、エレンを拘束するかに見えた金色に輝く何かが霧散した。


「ううっ……」


ノエミちゃんが、(うめ)きながらよろめいた。

僕は、慌てて彼女を抱きかかえた。

僕の腕の中で、ノエミちゃんが、苦しそうな声で(ささや)いた。


「お逃げ下さい、早く!」

「何が起こってるの?」

「かの者は、闇を統べる者。魔王エレシュキガルです!」

「えっ?」


状況の理解に頭が追い付かない僕は、素っ頓狂な声を上げてしまった。

エレンが、静かに話しかけてきた。


「私は、エレシュキガルではない」

「見え透いた嘘を!」

「嘘? 嘘をつく理由がない」

「ちょっと待って、二人とも!」


僕は、二人の会話に、思わず口を挟んでしまった。

そして、二人に問いかけた。


「魔王って何? 二人は、どうして戦うの?」

「魔王は、言葉通りの意味です。魔王エレシュキガルは……」

「私は、魔王では無いし、戦うつもりもない」


エレンが、先に口を開いたノエミちゃんの言葉にかぶせるように声を上げた。


「え~と……、ちょっと二人とも落ち着こうよ」

「タカシ様! 闇を統べる者の言葉に耳を貸してはいけません。あなた様は、この世界に(つか)わされた唯一の希望です!」

「私は落ち着いている。落ち着くのは、光の巫女の方」


状況は不明だが、どうやらこの二人、特にノエミちゃんにとっては、エレンは不倶戴天の仇敵みたいな位置づけ?

僕は、腕の中のノエミちゃんに、話しかけた。


「ノエミちゃん、エレンは戦わないって言ってる。まずは、ノエミちゃんの知ってる、その、魔王について教えてくれないかな?」


そして、エレンにも声を掛けた。


「エレンは、ちょっとその辺にでも座って、ノエミちゃんの話が終わるの、待ってもらっても良い?」

「それは……今夜の約束はどうするの?」

「約束って……今、こういう状況でしょ? それは、話し終わってから考えても良いんじゃないかな」


エレンは、小首を傾げたまま固まってしまった。

僕は、改めて、ノエミちゃんに、魔王について話してくれるようにお願いした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[気になる点] ステータスの改竄後の表記は地球限定でしょうか? 続々とステータス見せてとの依頼?ゆすり?とサクサクそれに応える主人公。 自身の身に危険を感じ無いのだろうか。どう感じているのか心理描写が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ