44.F級の僕は、武器防具を新調する
いつもお読みいただきまして、あちがとうございます。
5月16日 土曜日9
僕等が、『暴れる巨人亭』に戻って来た時、ノエミちゃんは、ちょうどマテオさんとのんびりお茶を楽しんでいる所であった。
僕等に気が付いたマテオさんが、声を掛けてきた。
「おう、タカシにアリアか。どうだ? 素材は売れたか?」
僕等は、素材を売った後、カイスと公開訓練をして、彼を投げ飛ばしてしまった話をした。
マテオさんは、僕等の話を聞き終えると、愉快そうな顔になった。
どうやら、マテオさんも、カイスには、あんまり良い印象を持っていなさそうであった。
「そうか! カイスの奴、真っ赤になって怒ってたか」
はっはっは、とひとしきり笑った後、マテオさんが、たずねてきた。
「しかし、どういう経緯でカイスと公開訓練する事になったんだ?」
「実は、アールヴ行きの依頼を巡って、ちょっと揉めまして……」
僕は、チラッとノエミちゃんに視線を向けた後、事の顛末を語って聞かせた。
ノエミちゃんの顔が、みるみる笑顔になった。
「タカシ様、それでは……」
「うん、明朝出発予定だからさ。ノエミちゃんを送ってあげられるよ」
「良かった……本当にありがとうございます」
ノエミちゃんは、少し涙ぐみながら、そっと僕に寄り添ってきた。
僕等の方に視線を向けているアリアの顔が、心なしか不機嫌に見えるけど、気のせいだろう。
マテオさんが、笑顔で、僕等に話しかけてきた。
「よし! それじゃあ、今夜は、ノエミの送別会だな! 良いモン食わせてやるよ」
「私も手伝います」
「いやいや、ノエミが送別されるのに、その料理、自分で作ってどうするんだ?」
ひとしきり皆で歓談した後、僕等は、一旦、それぞれの部屋に戻る事にした。
部屋に戻った僕は、改めて、明日からの予定を考えた。
順調にいけば、4日でアールヴ神樹王国に着くと聞いているから……
来週の水曜あたりには、到着できるという計算になる。
まあ、旅の間、皆が寝静まった頃見計らって、毎晩【異世界転移】のスキルで、自分のアパートの部屋を確認しに行こうかな。
スマホに着信やら、郵便ポストに手紙やら届いていたら、それをチェックして、何も無ければ、またこっちに戻ってきて……
ベッドに寝転がり、そんな事を考えていると、扉がノックされた。
―――コンコン
「タカシ、いる?」
「アリア?」
扉を開けるとアリアが立っていた。
「明日からしばらく遠出するでしょ? だから、ちょっと買い物に行こうと思うんだけど、一緒に行かない?」
そっか。
しばらく馬車旅だ。
当然、色々買っておいた方が良いよね。
ついでに、アンデッドセンチピードとミミック倒した時手に入った魔石も売りに行こうかな。
「いいよ、ちょっと待ってて」
僕等が、外に出ると、大分日は西に傾いていた。
「アリア、先に魔石売りに行っても良いかな?」
「魔石、持ってるの?」
「うん。それで、魔石って、やっぱり、冒険者ギルドでしか買い取ってもらえないの?」
「そんな事無いよ。結構、あちこちで買ってもらえるよ。素材売りに行ったベレソアさんのトコロとか」
「えっ? そうなの」
最初にこの世界に来た時、魔石を冒険者ギルドで買い取ってもらったし、地球では、均衡調整課でしか合法的に買い取ってもらえない。
そのため、僕は、魔石は、買い取りしてくれる場所が決まっているものだと思い込んでいた。
ベレソアさんの所で買い取ってもらえるなら、さっき行った時、売れば良かったな……
そんな事を考えていると、アリアが、僕の手を引いた。
「じゃあ、とりあえず、ベレソアさんのお店行こうよ。長旅で必要そうな道具、結構、色々置いてあるし」
結局、魔石は、合計55万ゴールドで売れた。
ベレソアさんの所で、ちょっとした小物を買った結果、今、手元に70万ゴールド弱残っている。
あとは、武器防具を買おう。
まさか、エレンの衣着て、センチピードの牙振り回して、皆の前で戦う訳にはいかないし。
皆から不審がられない程度の武器防具を揃えておかないと。
「アリア、今、僕の装備、皮の鎧だけだからさ。また、武器防具売っているお店に、案内してもらっていいかな?」
「いいわよ」
アリアの案内で向かったのは、ルーメルの街の入り口近くの鍛冶屋『ベイランドの炉』だった。
この世界に来て初めて買った皮の鎧と鉄の小剣も、ここで購入した。
店主は、頑固そうなドワーフのおじさん。
年齢不詳で、口数は、極めて少ない職人気質の鍛冶屋さんだ。
僕等が訪れた時、ベイランドさんは、屋外の鍛冶場で仕事をしていたが、すぐに店内に案内してくれた。
僕は、皮の鎧を下取りに出して、新しい武器防具が欲しい事を伝えた。
ベイランドさんは、僕をじろりと眺めた後、聞いてきた。
「どんなのが欲しいんだ?」
「え~と、武器は、剣系統で、防具は、軽くて動きやすければ。あ、予算70万ゴールド以内で探してます」
ベイランドさんは、店の奥に一度引っ込んだ後、二三分程で、再び戻って来た。
手には、一振りの剣と鎖帷子のような鎧を抱えていた。
ベイランドさんは、それをカウンターの上にドサっと置くと、試着してみるように、僕に促してきた。
出してもらった武器と防具を装備した僕は、早速、ステータスウインドウをポップアップして、確認してみた。
―――ピロン♪
Lv.56
名前 中村隆
性別 男性
年齢 20歳
筋力 1 (+55)
知恵 1 (+55)
耐久 1 (+55)
魔防 0 (+55)
会心 0 (+55)
回避 0 (+55)
HP 10 (+550)
MP 0 (+55)
使用可能な魔法 無し
スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】
装備 鋼鉄の剣 (攻撃+30)
銀の鎖帷子 (防御+30)
効果 魔法ダメージ5%軽減 (銀の鎖帷子)
鋼鉄の剣と銀の鎖帷子。
まあ、こういう感じの装備なら、そんなに人目を引かずに済むかな。
僕が、自分のステータスをチェックしていると、アリアが寄ってきて、小声でたずねてきた。
「で、結局、今レベルどれ位?」
なんて答えよう?
さすがに、レベル56です、とは正直に答えづらい。
下手すると、規格外すぎる成長率に、さしものアリアもひくかもしれない。
レベル20前後のモンスターのドロップ品を持ち込んだし、
レベル41のカイスを投げ飛ばしてしまったし、
で、黒の森に行くわけだから……
僕は、少し考えてから答えた。
「今、レベル35だよ」
「ええ~~~~~~!?」
アリアが、後ろにひっくり返りそうな位、仰け反った。
「どうした!?」
アリアの大声に、寡黙なベイランドさんまで驚いている。
「ごめんなさい、何でもないです」
アリアは、ベイランドさんに謝ると、僕にずいっと顔を近付けて来て、小声で問い質してきた。
「いくらなんでも、レベル上がり過ぎじゃない?」
「はは……」
僕は、苦笑いを浮かべた。
本当は、レベル56だなんて、口が裂けても言えなくなってしまった。
僕は、アリアに囁いた。
「今度からはさ、僕がモンスター弱らせて、アリアが止め刺すようにしようよ。そうすれば、アリアもすぐレベル上がるよ」
「ありがと。あ~あ、でも、こんなにあっという間にレベル逆転されるなんて、思ってもいなかったわ」
「レベルなんて、あまり当てにならないと思うよ。冒険については、絶対、アリアの方が詳しいし。これからもずっと傍にいて、色々教えてよ」
「ず、ずっと傍に?」
「うん、ずっと傍にって……あれ?」
なぜか、真っ赤になって俯いてしまったアリアに、僕も少し狼狽してしまった。
ふと目線を上げると、ベイランドさんが、なぜかお腹いっぱいな顔をしている。
「で、結局、それ、買うのかい? 買わないのかい?」
「あ、これ、両方とも買います」
皮の鎧を下取りに出して、67万ゴールド支払った僕は、新しい武器と防具を装備して、『ベイランドの炉』を後にした。
次回から、話が動きます