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41.F級の僕は、改めてインベントリの価値を再認識する

本日、二度目の更新です。


5月16日 土曜日6



マテオさんは、斧を片手に、血相を変えて部屋に飛び込んできた。


「何があった!?」


呆気にとられる僕等の様子を、怪訝そうに眺めていたマテオさんは、部屋の中に積まれたヘルハウンドの牙18個と、キラーバットの翼28枚を目にすると、目を白黒させて固まってしまった。

僕は、マテオさんにおずおずと声をかけた。


「マテオさん?」


僕の声に、マテオさんが、はっと我に返った様子になった。


「あ? ああ、タカシか。何かあったのか? 今、アリアの悲鳴が聞こえたが。あと、この素材の山は……?」

「え~と、僕が……」


説明しようとした僕を遮るように、アリアが口を開いた。


「マテオさん、聞いてよ。タカシ、いつの間にか、インベントリ使えるようになってるのよ!」

「何だって!?」


マテオさんは、驚いたような顔で僕を見た。


僕がインベントリ使えるのは、何かまずかったのだろうか?


僕は、正直に聞いてみる事にした。


「すみません。インベントリって、もしかして、結構、珍しかったりします?」

「珍しいなんてもんじゃないぞ。相当高レベルの冒険者でも無けりゃ、使えない代物だ」

「そうなんですね……」


そう言えば、ノエミちゃんが、前にそんな話をしていたな。


僕は、チラッとノエミちゃんを見ながら、そんな事を思い出していた。

ノエミちゃんは、ただ黙って僕等の話を聞いている。

マテオさんが、たずねてきた。


「しかしタカシ、お前、インベントリ、まさか、元から使えてた、とか?」

「元からじゃ無いんですよ。その……貰ったんですよ、エレンに」

「エレン?」

「あ、あの僕を連れ去った魔族の女の子です。エレンって名前なんですよ」


僕等の会話を聞いていたアリアが、少し不機嫌になった。


「タカシ、もしかして、仲良くなっちゃった? あいつと?」

「あいつって、エレンの事? 別に仲良くなってないよ」

「だって、エレンって呼んでるし、インベントリの指輪も貰ったんでしょ?」


言われて、僕は自分の左手の中指に(はま)っている指輪の事を思い出した。


「まあ、そうだけど」


マテオさんが、インベントリの指輪について説明してくれた。


「タカシ、インベントリの指輪は、ミミックっていう宝箱タイプのモンスターのドロップアイテムだ」


知ってます。

今朝、戦いましたから。


「で、ミミックがまたいやらしい敵で、大体、レベル50はないと、まず勝てない」


そ、そうなんですね。

まあ、僕のレベルは、56だから、勝てて良かったです。


「しかも、ミミックを倒しても、指輪がドロップするのは、1万回に1回位の超低確率だ」


1万分の1……

すみません、1回倒しただけで、ドロップしちゃいました。


「だから、市場価格は、ウン十億ゴールド以上。他人に易々譲る代物じゃ無いんだよ」


えっ……

そんな貴重品だったんですね……


マテオさんが、真顔で僕にたずねてきた。


「タカシ、何かヘンな契約書とかにサインさせられなかったか?」

「別に何も……」


僕は、マテオさんの問い掛けに、引きつる笑顔でそう答えた。



少し落ち着いた所で、マテオさんが、再び口を開いた。


「そう言えば、エレンとかいうあの女に、モンスターと戦わされたって言ってたな?」

「はい」

「その結果が、アレか?」


マテオさんが指さす先には、僕が積み上げた素材の山があった。


「そうなんですよ」


正確には、これは、僕等の世界、地球のモンスター達のドロップ品だけど。


マテオさんは、ヘルハウンドの牙やキラーバットの翼を手に取って確かめながら、たずねてきた。


「もしかして、結構、レベル上がったのか?」

「えっ? どうしてですか?」

「こいつらは、レベル20前後のモンスター達のはず。お前、単独でこいつらを倒したのか?」

「まあ、エレンに手伝って貰って、なんとか……」

「そうか……」


マテオさんは、何かを考え込んでしまった。


そっか、ヘルハウンドもキラーバットもレベル20前後なのか。

N市笹山第十三ダンジョンに、僕が潜った時のレベルは、43だった。

道理で、戦った時、まるで手応(てごた)えを感じなかったわけだ。


僕は、改めて、素材の処分について、マテオさんとアリアに相談してみた。


「それで、この素材、売りたいんですけど……」

「ん? ああ、素材売るなら、ベレソアんところがお勧めだ。こっから近いしな」


マテオさんの視線を受けて、アリアが言葉を挟んだ。


「そうね。今から行ってみる?」

「うん。案内してくれるかな?」


アリアにお礼を言いつつ、僕は、再びインベントリを呼び出した。

どうやら、呼び出したインベントリそのものは、他の人には認識できないらしい。

なので、インベントリの操作をしている人は、周りから見れば、虚空から何かを出し入れしてるように見えるそうだ。


僕が、素材の山をインベントリに仕舞おうとすると、アリアが口を開いた。


「待って!」

「どうしたの?」

「インベントリ使えるの、あんまり他の人に知られない方が良いかもよ?」

「どうして?」

「だって、マテオの話、聞いたでしょ? インベントリ使えるのは、レベル50以上の冒険者の内、強運の持ち主か、大金持ちだけだよ?」


そして、僕の耳元で囁いた。


「タカシは、他にも獲得経験値とか、ドロップ率とか、色々あるんだから、目立たないようにした方が良いって」


それは、一理ある。

街中で堂々とインベントリを開くのは、止めにしといた方が良いな……


僕は、改めてマテオさん、アリア、ノエミちゃんと相談した。

そして、僕のインベントリの件は、当分、僕等の間だけの話にしておいてもらえる事になった。


僕は、インベントリから、大きなリュックを取り出した。

そして、その中に、地球から持ち込んだ素材を全て詰め込んだ。

サンタクロースの袋のように膨れ上がったリュックを背負った僕は、アリアの案内で、ベレソア一般雑貨店へと向かった。


素材は、全部で10万ゴールドになった。

これで、僕の異世界イスディフイでの所持金は、20万ゴールドだ。

今までの感じだと、1円 = 1ゴールドっぽいから、僕は、結構大金を手にしている気分になった。


「良かったね、タカシ」

「ありがとう、アリア。今日は、お昼、御馳走するよ」

「ほんと?」


時刻は、ちょうどお昼時。

僕は、アリアの案内で、ちょっとオシャレなカフェのようなお店でお昼ご飯を食べる事になった。


店内は、お昼のランチを楽しむ人々で、結構混んでいた。

しかし、僕等は幸運な事に、待たずに席に案内してもらえた。

料理を注文して、店内を見回すと、概してお客さんの年齢層は若そうであった。

僕等の右隣の席には、冒険者然とした若い三人組が座っていた。

僕が、アリアと喋っていると、隣から気になる話が聞こえてきた。


「おい、聞いたか? アールヴ行きの依頼の話」

「ああ、聞いた聞いた。報酬200万ゴールドってやつだろ?」


アールヴ行き?

アールヴ神樹王国に行く依頼があるのだろうか?

まさか、ノエミちゃんが出してたりして……

僕は、アリアに小声で話しかけた。


「ねえ、アリア。アールヴ行きの依頼とか、今出てるの?」

「ん? ああ、あの話ね」


アリアにも、隣の冒険者達の話は聞こえていたらしく、彼女も声を潜めて返事した。


「あの話って?」

「なんでも、急ぎでアールヴ神樹王国に行かないと行けない商人がいて、200万ゴールドで、腕利きの冒険者急募してるらしいの」

「へ~。ここからアールヴって、途中、強いモンスターとか出るの?」

「街道沿い行くなら、大したモンスターは出ないんだけど、あの依頼は、ちょっと特殊でね……」

「特殊?」

「近道するために、途中、黒の森を突っ切る予定らしいの」

「もしかして、黒の森とやらが、強いモンスターが出るって事?」

「そうよ。黒の森突っ切れば、馬車で4日あればアールヴ神樹王国まで到着できるの。だけど、黒の森には、レベル40位の強力なモンスターが、うようよ生息してるからね。なかなか、人、集まらないんじゃないかな」

「そうなんだ……」


馬車で4日と言う事は、少なくとも、来週中には、アールヴ神樹王国に到着できるって事だな……

ちょうど来週、僕はノルマ免除で、地球でダンジョンに潜らなくても、誰からも怪しまれない。

大学の授業も、4日位なら、休んでも単位取得に、そんなに影響出ないんじゃないかな。

そう考えると、これって、ノエミちゃんをアールヴ神樹王国に連れてってあげる絶好のチャンスなんじゃ?

問題は、黒の森に出現する強力なモンスターだけど……

今の僕のレベルは、56。

レベル40程度のモンスターだったら、そんなに苦労しなくても倒せたりしないかな?


ちょうど、料理が運ばれてきた。

アリアと談笑しながら食事をしている最中も、心の奥底で、僕はこの依頼について考えていた。



次回は、明日更新します。

お読み頂きまして、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公、完全に狼少年だな・・・。どうでもいいようなところでも嘘つくし、線引きがわからない。
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