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402.F級の僕は、“エレシュキガル”と思しき何者かからの接触を受ける


6月17日 水曜日16



【異世界転移】で戻って来た時、シードルさんの屋敷の中で割り当てられた僕の部屋の中には誰の姿も無かった。

僕は朝から盛りだくさんで少々疲れた心と体を休めたくて、ベッドの上に寝転がった。

少し落ち着いて来ると、ターリ・ナハやララノア、それにアルラトゥが参加してくれている捜索隊と、その捜索対象であるアリアとクリスさんへと自然に想いが馳せて行った。

僕はもう何度目かになるか分からないけれど、インベントリから『二人の想い(右)』を取り出して自分の右耳に装着した。

そしてそのイヤリングに右手を添えながら、行方の分からなくなっている二人に対して念話を送ってみた。


『アリア……クリスさん……』


しばらく心の耳を澄ませてみたけれど、やはり返事は返って……


『勇者よ……』


!?


僕は思わず跳ね起きた。

今、確かに誰かの念話が返って来た!


急に跳ね上がった心拍数を落ち着けようと深呼吸しながら、僕は念話で語り掛けた。


『アリア?』


少しの間を置いて、再度念話が返って来た。


『アリアとクリスは私が預かっている。彼女達に会いたければ、モエシアに来るが良い』


……アリアの声では無い。

もちろん、クリスさんの声でも無い。

だけどどこかで聞いた事のあるような女性の声だ。


『お前は何者だ? どうやって僕に念話を届けている?』

『私が何者かは既に知っているはずだ。念話に関してはもちろん、アリアの持っていた『二人の想い(左)』を使っている』


既に知っている?

僕は自身の記憶の中を探ってみた。

アルラトゥ……では無い。

500年前のあの世界で聞いた魔王エレシュキガルの(第160話)でも無い。

他に、こんな事をしそうなのは……


『州都モエシアを滅ぼした“エレシュキガル”か?』


口にしてから改めて思い起こすと、州都モエシアが滅ぼされた直後、天空に現れた“エレシュキガル”を名乗る幻影(第306話)と声が似ているような気がする。

そして相手が、本当ならアリアが持っているはずの『二人の想い(左)』を使って念話を送ってきているという事は、やはり本当にこいつがアリアとクリスさんを拉致した?


しかし答えは帰って来ない。

僕は質問を変えてみた。


『何が目的だ?』

『目的?』


相手が向こうでくくっと冷笑を漏らす雰囲気が伝わってきた。


『かつて簒奪者に加担し、真の創世神様を封印したという異世界の勇者と個人的に語り合いたいと思ったまでだ』

『それなら……』


……二人は関係ない、すぐに解放しろ!


そう言いかけて、僕は猛烈な違和感に襲われた。


簒奪者に加担?

真の創世神様を封印??


僕は500年前のあの世界で、魔王エレシュキガルと対峙した時の事を思い出した。

あの時彼女は、自分こそがイスディフイの真の創世神であり、イシュタルによってその地位と世界そのものを簒奪された、と語っていた(第160話)

ただしあの当時の光の巫女ノルン様にとっては、そんな話は“初耳”のようだったし、なによりエレシュキガルが語った内容が全て真実とは限らないだろうけれど。


それはともかく、念話の相手は、少なくともエレシュキガルの語る“世界の真実”を念頭に話をしている事は確実のように感じられた。

それと同時に、なぜか僕の事も“勇者である”と断定しているようだ。


僕はかつてユーリヤさん達を襲撃して来た『解放者(リベルタティス)』達を捕え、尋問を試みた事があった。

あの時(第291話)、一人の男が僕に向かってこう叫んだ。



―――どうだ勇者よ? これが、お前が救った世界の真の姿だ! 光が闇を打ち払う? 打ち払われるべき闇は、お前等ヒューマン……



あの時、男の目は確かに僕を見据えていた。

つまりあの男もまた、僕の事を“勇者だ”と認識していた事になる。


今、念話を交わしている相手が“エレシュキガル”だとすれば、

そして“エレシュキガル”が、『解放者(リベルタティス)』を率いているのだとすれば、

解放者(リベルタティス)』という組織全体のコンセンサスとして、僕を勇者と見なしている?


僕は出来るだけ感情を押し殺しながら念話で問い掛けた。


『お前はなぜ僕の事を勇者と呼ぶ?』

『500年前の世界に召喚され、真の創世神様を封印した異世界人をこの世界の人間は勇者と呼んでいる。だから私もそれに(なら)ったまでだ』


どうやら念話の相手は、この世界ではごく少数しか知らないはずの僕自身の素性について、相当程度詳しく把握しているらしい事が推測された。


『アリアかクリスさんと話をさせろ』


再び冷笑が漏れる気配がした。


『話をしたければモエシアまで来るが良い』

『僕と話をしたいのなら、お前の方がここに来い』


しかしその会話を最後に、“エレシュキガル”と(おぼ)しき何者かからの念話は途切れてしまった。

その後数回、念話で呼びかけたけれど、“エレシュキガル”が応答する気配は無い。

アリアとクリスさんが今、どういう状況に置かれているのかは依然として不明なままだ。

しかし少なくとも“エレシュキガル”と思しき何者かが、『二人の想い(左)』を使って、僕に念話で接触して来た。

この事実は、今実際に二人の為に捜索隊を組織してくれているユーリヤさん達と、一刻も早く共有すべきだろう。


そう考えた僕は部屋を飛び出した。

そしてユーリヤさんの部屋に向かうために走り出したところで、後ろから呼び止められた。


「タカシ様、どうなさいましたか?」


振り返ると、シードルさんの屋敷の執事、ドナートさんが立っていた。


「すみません、ユーリヤさんに早急にお会いしたい用件がありまして」

「ユーリヤ様に……?」


ドナートさんが、右目部分に掛けている片眼鏡の位置を直しながら言葉を続けた。


「ユーリヤ様は駐屯軍を視察なさると(おっしゃ)られて、屋敷をお出になられました。タカシ様がユーリヤ様のもとに向かわれるのでしたら、(ただ)ちに馬車をご用意させて頂きますが」


どうやらユーリヤさんは、今は部屋にいないらしい。

少し迷ったけれど、僕は結局、馬車でユーリヤさんの所まで送ってもらう事にした。



20分後、僕は街の郊外の幕舎の中でユーリヤさんと面会していた。

息せき切ってやってきた僕の姿に、ユーリヤさんは少し驚いたような顔をしたけれど、すぐに優しい笑顔で椅子に腰掛けるよう勧めてくれた。

何かの作戦計画でも話し合っていたのであろうか?

ユーリヤさんの周囲には、アガフォン中尉を始めとする駐屯軍の幕僚達が多数控えていた。


ユーリヤさんは、僕が少し落ち着くのを待ってから声を掛けて来た。


「どうしました? 何か火急の用件でも?」


僕は周囲の幕僚達の様子にチラッと視線を向けながら頷いた。


「はい。折り入ってユーリヤさんだけに聞いて欲しい話があるのですが……」


現状、あの“エレシュキガル”と思しき相手の正体は不明だ。

しかも“エレシュキガル”と思しき相手は、かつて本物のエレシュキガルが語った“世界の真実”を知っているかのような口振りだった。

そんな話を不特定多数の人々の前で口にする事は、さすがに(はばか)られた。


ユーリヤさんが、周囲の幕僚達に声を掛けてくれた。


「どうやら英雄殿は、私に個人的な話が有るようです。皆、少し席を外して下さい」



幕僚達が幕舎を出て行ったのを見届けてから、僕は話を切り出した。


「実は、アリアとクリスさんを“預かっている”と話す相手から念話で接触されました」


僕はつい先程、『二人の想い』を介して“エレシュキガル”と思しき何者かから念話での接触が有った事、そして僕と話をしたいから州都モエシアに来るよう要求された事を簡単に説明した。


僕の話を聞いたユーリヤさんの目が鋭くなった。


「その相手は、なぜわざわざタカシ殿にモエシアまで来るよう要求してきたのでしょうか?」

「それは……」


恐らくだけど、それは僕が“500年前の世界で、魔王エレシュキガルを封印した勇者”である事と関係しているはず。

だけどそれを告げるという事は、同時に、僕自身の素性をユーリヤさんに明かす事になる。

かつてクリスさんは、僕が“勇者”という立場で過度にユーリヤさんに加担する事の危険性についてアドバイスしてくれていた。


どう答えるべきか?


少し迷った後、僕は口を開いた。



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