39.F級の僕は、カイスとその取り巻き達に囲まれる
本日2回目の投稿です。
5月16日 土曜日4
カイスが目で合図すると、彼の仲間と思われる女性冒険者達が、僕の周囲を遠巻きに取り囲んだ。
「さて、言い訳を聞こうか?」
カイスが、明らかに見下したような視線を僕に向けて来た。
「急にビッグボアが飛び出してきたから、つい倒しちゃっただけだよ。横取りするつもりは無かったから、これ返すよ」
僕は、先程の女の子に、魔石とイノシシ肉を差し出した。
女の子は、僕からそれらをひったくると、カイスに声を掛けた。
「カイス、こいつ、やっちゃおうよ。生意気すぎるよ。ヘンなフード被ってるし」
彼女の発言に、周りからも同調するような声が上がった。
カイスが、大袈裟な仕草で、先程の女の子に語り掛けた。
「まあまあ、可愛い子猫ちゃん。こいつは、多分、君が、ルーメル最強の冒険者、このカイス様の大切な女の子だって事、知らなかっただけなのさ」
「カイス……」
女の子の目が、夢見る乙女のそれになっていた。
これ以上彼等と関りあいたくない僕は、ヘルハウンドやキラーバットを倒した時に手に入れた魔石の内、10個を女の子に差し出した。
「これはお詫びだよ。これで勘弁してくれないかな?」
「へ~、あなた、Eランクの魔石持ってるのね。一応、貰っといてあげるわ」
僕から魔石を受け取った女の子は、満更でも無い顔になった。
どうやら、彼女にとって、Eランクの魔石10個は、それなりに価値のある品だったようだ。
これでお詫びは済んだ、と判断した僕が、その場を離れようとすると、いきなりカイスに肩を掴まれた。
「待てよ。お前、これで終わりか? ちゃんと謝れよ」
仕方なく、僕は、その女の子に頭を下げた。
「ごめんね。これからは気を付けるよ」
しかし、その場を立ち去ろうとした僕の行く手を阻むように、カイスが立ち塞がった。
「おいおい、お詫びって言うのは、こうするんだよ」
カイスは、いきなり僕の頭を押さえて、地面に押し下げようとした。
僕は、反射的にカイスの手を振り払って、後ろに飛び退いた。
カイスは、少し意外そうな顔になったが、すぐに僕に掴みかかってきた。
「お前、人に謝る時は、まずその怪しいフード脱げよ!」
カイスは、僕が羽織っているエレンの衣の裾を掴むと、思いっきり引っ張ってきた。
どうやら、剥ぎ取るつもりのようだ。
そうはさせまい、と僕が必死に抵抗する中、周りの女の子が囃しだした。
「アハハ、だっせーローブ!」
「カイス、ひん剥いちゃえ!」
カイスは、周囲に笑顔を振りまくと、僕の顔のフードに手を掛けてきた。
僕は、咄嗟にカイスの手首を掴むと、投げ飛ばしてしまった。
カイスは、盛大に飛んでいき、近くの木に背中を打ちつけた。
「かはっ……」
そしてそのまま地面に倒れると、動かなくなってしまった。
僕は、その様子に、少し不安になった。
投げ飛ばしただけだし、死んではいないはず。
自分で、ルーメル最強の冒険者って言ってたし……
「カイス!?」
「きゃああ!?」
周囲の女の子達がパニックになる中、僕は、素早くその場を離れる事に成功した。
それから10分程、森の中を小走りで進むと、木々の向こうに広がる草原が見えてきた。
さらにその向こうに、ルーメルの街も遠望できた。
僕は、周囲に人影が無い事を確認して、インベントリを呼び出した。
そして、皮の鎧を取り出し、代わりに、エレンの衣とセンチピードの剣をインベントリに収納した。
皮の鎧に着替えた僕は、さらに歩く事10分程で、とうとうルーメルの街に辿り着く事に成功した。
三日ぶりのルーメルの街は、相変わらず異世界を感じさせる活気に溢れていた。
元気の良い獣人女性の呼び込みの声、すれ違うエルフの青年、道端で談笑するドワーフのおじさん達……
僕の住む地球とは、かけはなれた、だけど、確かに存在するその情景。
僕は、しばし感慨に浸った後、『暴れる巨人亭』へと向かった。
―――キィィ……
入り口の扉を開くと、1階受付周りを掃除しているノエミちゃんと目が合った。
「タカシ様!」
ノエミちゃんは、少し涙ぐんだ様子で、僕に駆け寄ってきた。
「ご無事だったんですね?」
「うん、大丈夫だったよ。ただ、ちょっと戻ってくるのが遅くなっちゃって、ごめんね」
「いいえ……」
ノエミちゃんが、僕にそっと寄り添ってきた。
彼女の髪から仄かに香る良い匂いが、僕の鼻腔をくすぐった。
僕等の声を聞きつけたのであろう、奥から、マテオさんも顔を出した。
マテオさんは、僕に気付くと、目を大きく見開いた。
「タカシ!? 無事だったか!」
「はい、おかげさまで」
「で、何があったんだ? やっぱり、例の女がやってきたのか?」
マテオさんは、僕を1階隅の宿泊客向けの飲食スペースに案内しながら、たずねてきた。
「そうなんですよ。で、知らない場所に連れて行かれて……」
僕は、飲食スペースの椅子に座りながら、どう返事しようか考えた。
1日位なら、気絶してました、で良いかもしれないけれど、今回は、3日経っている。
ある程度は、本当の事を話さないといけないかな……
「……モンスターと戦わされたりしてました」
「モンスターと!? もしかして、地下闘技場かどこかに連れて行かれてたのか?」
「地下闘技場……ですか?」
「地下闘技場は、非合法な闘技場だ。モンスター同士や、モンスターと人間を戦わせて、その勝敗に客が金を賭ける、ギャンブルの類だ」
そんなのがあるんだ。
知らなかった……
「観客とかはいなかったと思うので、そういうのじゃ無かったと思うんですが」
「そうか、しかし、その女は、なんだってタカシのステータス見たり、モンスターと戦わせたりするんだ?」
「それは、僕が一番知りたい所なんですけど……」
それは、本当に僕の本音だ。
エレンは、モンスターと戦わせて、僕のレベルを上げて、どうしようというのだろうか?
アリアも僕に、早くレベル上げて私に楽をさせて、とか現金な話してたけど。
まさか、エレンが、アリアと同じ気持ちで、僕のレベルアップを願っている、とは思えないし。
って、そう言えば、アリアの姿が見えない。
「アリアは、元気ですか?」
「ん? ああ、アリアは、例のウサギ狩りに出掛けてるぜ」
少し考え込んでいたらしいマテオさんが、ハッとしたように答えてくれた。
「あいつ、一昨日、昨日と、酷く落ち込んで、部屋に引きこもってたんだよ。で、今朝からようやく少し復活したって訳さ。まあ、昼前には一度戻ってくると思うから、あいつにも声掛けてやってくれ」
「もちろんですよ」
そんなに心配してくれていたなんて、なんだかアリアには悪い事をした。
今夜、エレンと約束している以外、この週末、特に予定はない。
僕の世界には、明後日月曜日の朝までに戻れば良いし、それまでは、出来るだけ彼女がしたい事を手伝おう。
とりあえず、2階の自分の部屋で落ち着こうかな……
「マテオさん、ちょっと2階で休んでますね」
「おう、ゆっくり休んどけ。アリアが戻ってきたら、教えてやるよ」
僕は、マテオさんとノエミちゃんに別れを告げ、2階の僕の部屋に向かった。
部屋の様子は、僕がエレンに拉致される直前までと、そう変わりは無かった。
扉も、僕とエレンが転移した直後には、普通に開くようになったのであろう。
特に破壊されたり、新しくされたりはしてなさそうであった。
部屋のベッドに腰かけた僕は、インベントリを呼び出した。
「まずは、素材をどこかに売らないと……」
インベントリの『素材』欄に指で触れると、ヘルハウンドの牙18個とキラーバットの翼23個が収納されている事が、表示された。
「素材って、やっぱり、道具屋みたいな所で買ってくれるのかな?」
そんな事を考えていると、扉がノックされた。
―――コンコン
僕は、ポップアップしていたインベントリを消去して、扉の方に向かった。
「は~い」
扉を開けると、ノエミちゃんが立っていた。
しかし、その表情は少し固い。
「ノエミちゃん? どうしたの?」
「タカシ様。先ほどの話、もう少し詳しくお聞きしたい事が……」
なんだろ?
ともかく、こんな所で立ち話も変なので、僕は、ノエミちゃんを部屋の中に招き入れた。
主人公、週末は、異世界イスディフイをうろうろします。
次回は、明日投稿予定です。