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291.F級の僕は、尋問を試みる


6月10日水曜日5



戦いの帰趨(きすう)がはっきりした時点で、ターリ・ナハも僕等のもとに駆け寄ってきた。

結局、僕は獣人7人とダークエルフ3人、それにドワーフ2人の合計12人の襲撃者達を【影】達で拘束する事になった。

彼等の傷は、僕が彼等に飲ませた神樹の雫により全快していた。

しかし、魔法とスキルは、ララノアが封じ込め続けている。

そのララノアが、僕におずおずと話しかけて来た。


「あの……封力の魔法陣……設置しても……」

「封力の魔法陣?」

「捕虜を尋問……立たせて……魔法と……スキル封じて……」

「捕虜をその魔法陣の上に立たせておけば、魔法やスキルを封じられるって事?」

「そ……そう……です……MPも……消費……しないです……だから設置……」


聞いている限りでは、なかなか便利そうな魔法陣だ。

襲撃者達から事情を聞くにしても、途中で攻撃されては面倒だ。

僕の【影】は、物理的に相手の行動を封じられるけれど、魔法やスキルの発動は封じる事が出来ない。

かと言って、ララノアの魔力だけで彼等の魔法やスキルを封じ込め続けるわけにもいかないだろう。

“元”戦闘奴隷のララノアがこうした方法を提案して来ると言う事は、少なくともここ、帝国では一般的に用いられている手法なのかもしれない。


「じゃあ、封力の魔法陣の設置、頼むよ」

「は、はい! お任せ……下さい!」


ララノアが何かの詠唱を開始するのを横目で見ながら、僕は生き残った5人の人々(ヒューマン)に話しかけた。


「皆さん、体の方は、もう大丈夫ですか?」

「ああ、もうなんともない。君のお陰だ。感謝する」


僕の声掛けに、僕から最初に神樹の雫を受け取った男性が言葉を返してきた。

僕が拘束した襲撃者達に神樹の雫を飲ませて回っている間に、濡れタオルか何かで血を拭き取ったのであろうか?

見た目30代、金髪碧眼で整った容姿の彼の顔や着込んでいる銀色の鎧に、先程までの血の跡は見られない。


彼は、封力の魔法陣の準備をしているララノアの様子を、忌々し気に眺めながら言葉を続けた。


「こいつらを尋問する気か? 無駄な事を……」

「どうしてそう思うんですか?」

「こいつらは『解放者(リベルタティス)』だ。どうせ口は割らん」


解放者(リベルタティス)

確かゴルジェイさんが、人モドキ(シュードヒューマン)共のテロリスト集団って呼んでいたけれど……


「すみません。実は僕、一昨日にこの国に来たばかりなんですよ。なので、ちょっとこの国の事情に(うと)くて……」

「一昨日!?」


男性の目が大きく見開かれた。


「ここから一番近くの港町まで、馬を飛ばしても10日はかかるぞ? どうやってここまで来たのだ?」


帝国は、確かこのネルガル大陸を制覇している。

ならば、正規の手段での他国からの入国地点は港町になるはずで、それを踏まえた発言なのだろう。


「僕はルーメルの冒険者なのですが、ちょっと“不測の事態”に巻き込まれまして……」


僕は自分の話の補足に使おうと、ゴルジェイさんから貰った手形をその男性に見せた。

ところが、その手形を目にした男性の顔色が変わった。


「お、お前はヴォルコフ卿の手の者だったのか!?」

「ヴォルコフ卿?」


聞き覚えの無い名前に首を傾げていると、男性の後ろに立っていた年配の女性が、男性に声を掛けた。


「ボリス殿、この方は、一昨日に我が国に入国したばかりとおっしゃっていました。ゴルジェイ殿の手形を持っているからと言って、ヴォルコフ卿と面識があるとは限りませんよ」

「しかし……」

「まずはこの方ときちんとお話してみましょう。何より、この方が助けて下さらなければ、私達はここで全滅していたのですから」


そして彼女は、僕に丁寧にお辞儀をしながら話しかけて来た。


「改めて、お助け頂きました事、お礼を申し上げます。そしてお見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありませんでした。私はスサンナと申します。私達は帝都に向かう途中の貿易商会の商隊(キャラバン)です。今夜はこの地で野営をしようと準備をしていた所、そこのならず者共の襲撃を受けました」


スサンナさんが、“ならず者”だと指差した先には、僕の【影】達に拘束され、完成した封力の魔法陣の上に立たされている、襲撃者達12人の姿があった。

ちなみに、【影】12体を維持し続けるため、僕は先程から適時、女神の雫を飲み干している。


「あなた様はルーメルの冒険者だとおっしゃっていましたが、お名前と帝国を訪れる事になった“不測の事態”について、話して頂いても構わないでしょうか?」

「申し遅れましたが、僕の名前はタカシ。隣にいるのが、ターリ・ナハ。向こうで封力の魔法陣を設置してくれているのがララノアです。僕等は……」


スサンナだ、と自己紹介してくれた年配の女性の笑顔に(うなが)される形で、僕は今までの経緯について簡単に説明した。

僕の話を聞き終えたスサンナさんは、気の毒そうな顔になった。


「なるほど……それは災難でしたね」

「ですが、モエシアに辿り着ければ、知り合いと落ち合える予定になっていますので」

「モエシア……」


神樹の雫を最初に受け取った男性――ボリスさん――が再び険しい表情になった。


「君はモエシアでヴォルコフ卿と面会する予定はあるのか?」


なんだろ?

どうもこのボリスと言う男性は、やたら“ヴォルコフ卿”に(こだわ)っているように感じられるけれど


「すみません、そもそも、ヴォルコフ卿ってどなたですか?」

「ヴォルコフ卿は、ここ属州モエシアの総督だ。そして君の持つ手形を発行したゴルジェイ殿の父君でもある人物だ」


ボリスさんが苦々し気な口調でそう答えた。


「もしかして、そのヴォルコフ卿とボリスさんとの間に何かありました?」

「それは……」

「すみません。たまたまヴォルコフ卿が支援してらっしゃる商会とウチとがライバル関係なんですよ」


ボリスさんの言葉に被せるように、スサンナさんが答えてくれた。

商売敵(しょうばいがたき)のスポンサーだから、“ヴォルコフ卿”に良い感情を持っていないって事だろうか?

若干、心の中に引っ掛かりを感じたものの、そろそろ襲撃者達の事情も聞いてみたい。


僕は、直径5m程の封力の魔法陣に近付いた。

そして魔法陣の上で、僕の【影】達に拘束されている襲撃者達に話しかけた。


「何が目的でこの人達を襲った? 君達は、『解放者(リベルタティス)』のメンバーなのか?」


拘束されている獣人の一人が僕に向かって唾を吐きかけて来た。


「アールヴの犬と話すつもりは無い」


“アールヴ”の犬?


そう言えば、逃げた魔族もそんな風に悪態をついていたような。

しかし、ここは“ヒューマン”の統一国家、“帝国”が治める地。

どうして僕を(ののし)るのに、“アールヴ”が出てくるのだろうか?


「“アールヴ”の犬とはどういう意味だ?」


しかし彼等はただ目をぎらつかせるだけで、言葉を返してこようとはしない。


と、僕の隣にボリスさんが立った。

右手には優美な剣を携えている。


「こいつらはテロリストの集団、『解放者(リベルタティス)』だ。人間(ヒューマン)を皆殺しにするのがこいつらの最終目標なのだそうだ。そんな奴らとまともな会話は成立せんよ」


そしてボリスさんが右手の剣を無造作に振った。

刹那、襲撃者達の内、一番手前にいた獣人2人とダークエルフ1人の首が宙を舞った。

彼等の残された胴体は、僕の【影】に拘束されたまま、切り口から血を噴き出している。


今のは、斬撃系のスキル!?


慌ててボリスさんを止めようとした僕の服の裾を、誰かが引いた。


「か、(かば)っては……ダメ……です。う、疑われる……から」


振り返るとそれはララノアだった。


しかし……


ボリスさんが再び剣を振ろうとした瞬間、僕はボリスさんの腕を掴んでいた。


「待って下さい!」

「何の真似だ?」


そう口にしながら振り返ったボリスさんの表情は、氷のように冷たかった。


「尋問がまだ終わってないです。それに、彼等が犯罪者ならば、勝手にここで殺すのでは無く、しかるべき部署で調べてもらうべきでは?」

「そんな必要は無い! こいつらは、俺達の仲間を10名殺した。帝国法に照らしても、首輪もつけていない人モドキ(シュードヒューマン)共を殺すのに、司直の手を(わずら)わせる必然性等存在しない!」

「タカシ様……」


スサンナさんが声を掛けて来た。

彼女の表情もやはり氷のように冷たかった。


「あなた様は私達の命の恩人ですが……部外者です。ここは私達に任せて頂けないでしょうか?」

「ハッハッハッハ!」


突如、襲撃者達の一人が笑い出した。


「どうだ勇者よ? これが、お前が救った世界の真の姿だ! 光が闇を打ち払う? 打ち払われるべき闇は、お前等ヒューマン……」


!?

この男は、一体何を……?


「黙れ!」


ボリスさんが叫んだ。

彼が再び剣を振った。

混乱する僕の目の前で、残りの9人の首も次々と宙を舞っていった。



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[気になる点] 以前からず~~と思っていましたが、主人公に敵意を持つモブ達やヤンキー少女に今回の話のモブ達……作者様は会話が通じないキャラばかり書いてますね。 如何に主人公が話しても一方通行、相手は…
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