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289.F級の僕は、二日ぶりにアパートに戻る


6月10日水曜日3



二日ぶりに帰ってきたボロアパートの自分の部屋の中に、特に変化は無さそうであった。

充電器に繋ぎっぱなしだったスマホの画面を確認すると、午後8時12分と表示されていた。

僕は画面をタップしてスマホを立ち上げた。

チャットアプリに3件、関谷さんからの新着メッセージが届いている。



一件目、6月9日 12:28……


『押熊第一を6月12日の夕方5時半からで押さえたけど大丈夫そう?』



二件目、6月9日 20:03……


『こんばんは。今日は忙しいのかな?』



三件目、6月10日 17:11……



『なかなか既読つかないからちょっと心配になって。読んだら連絡下さい』



カースドラゴン騒ぎのせいで、ついついスマホをチェックし忘れてしまっていたけれど、大分心配をかけてしまったようだ。

今日が10日水曜日だから……

ゴルジェイさん、あの駐屯地からモエシアまでは馬で2日って言っていたっけ?

なら、トラブルに見舞われなければ、12日金曜日にはモエシアに到着して、クリスさんに迎えに来てもらえそうだ。

向こう(ネルガル)との時差は、約4時間。

日本の12日夕方5時半は、ネルガルでは12日お昼の1時半頃に当たる。

オロバスは普通の馬と違って、僕のMPが続く限り、休憩無しで走り続ける事が可能だ。

時間的には十分、モエシアに到着出来ているのでは無いだろうか?

多少到着が遅延したとしても、今の僕等には“ちゃんとした身分証(奴隷登録証)”やゴルジェイ(属州総督の息子)さんがくれた手形がある。

ターリ・ナハとララノアの二人に、2時間程度、向こう(ネルガル)で留守番して貰う分には、特に問題は発生しないだろう。



―――『連絡遅くなってごめん。ちょっと出掛けていました。12日金曜日午後5時半押熊第一、了解です』



意外な事に、送信するとすぐに既読になった。

そして、間髪入れずにスマホに着信が入った。

関谷さんからだ。


「もしもし」

『あ、中村君? 今、どこにいるの?』

「自分のアパートだよ」

『よかったぁ。連絡取れないから、もしかしてまた何かトラブルに巻き込まれているんじゃないかって、ちょっと心配していたんだ』


まあ実際、トラブルに巻き込まれてはいるわけだけど。

ただしここ地球では無く、イスディフイで。


「心配してくれてありがとう。実は今週、色々忙しくてね。金曜まではなかなか連絡つきにくくなると思うけど、気にしないで」

『うん分かった。私に出来る事あったら何でも手伝うから、遠慮なく言ってね』

「関谷さんに手伝ってもらわないといけないような事じゃ無いから安心して。また時間ある時にでもメッセージ入れとくよ」

「分かったわ」

「それじゃ」

「あ、中村君」


電話を切ろうとした僕を引き留めるような雰囲気の呼びかけ。


「何?」

「もしかして、今夜も忙しい?」

「ちょっとね」

「そっか……あ、無理しないでね」

「うん、それじゃ」


関谷さん、最後、どうして“今夜も忙しい?”とか聞いてきたんだろ?

まあ実際、忙しいけれど。

さて、気を取り直して、ティーナさんとも情報交換しておこう。


僕はインベントリから『ティーナの無線機』を取り出すと、右耳に装着した。


「ティーナ……」


すぐに返事があった。


『Takashi! 昨日はどうしていたの? もしかして、あっち(isdifui)に行きっぱなしだった?』

「まあそんなところ」

『それで、nergalから脱出の目途はついたの?』

「なんとかね……」


僕はゴルジェイさんの中隊と一緒にドラゴンの巣を訪れた顛末を、簡単に説明した。


「……まあそんなわけで、多分、金曜にはルーメルに戻れそうなんだ」

『良かったじゃない。でも、奴隷の女の子だっけ? Takashiって、相変わらず誰にでも優しさ振り()くのね』

「行きがかり上、そうなってしまっただけだよ」

『私としては、Takashiが新しい何かに目覚める事がないよう祈るばかりだわ』

「新しい何かって?」

『ご主人様の命令だったら何でも聞いちゃいますって女の子しか愛せなくなる、とか?』


ティーナさんの茶化した言い方に、僕は思わず噴き出した。


「そんなわけないでしょ。それよりそっちはどう? 何か変わった事あった?」

『特に何も。強いて言えば、チベットでも、Midwayでも、北極海でも、monster達の活動性が著しく低下して、(ほとん)ど休眠状態になっているって事位かしら。これってきっと、St.(光の巫女) Noemi達が闘ってくれているから、よね?』


今も神樹の間に留まって闘い(祈り)続けてくれているノエミちゃん、そして彼女を護り続けてくれているエレンの事が、僕の脳裏をよぎった。

ルーメルに戻れば、出来るだけ早く、もう一度アールヴに向かわなければいけない。

そしてどこまで誤解を解くことが出来るかは不明だけど、ノルン様やノエル様と話をしなければならない。


「うん。そう思う」

『彼女達にはいつかきちんと会って、ちゃんと感謝の気持ちを直接伝えることが出来る日が来ればいいんだけど』

「そうだね……」


今の所、僕だけが世界の壁を越えて行き来する事が出来る。

だけどいつか……

地球とイスディフイの人々が自由に行き来して交流できる……

もしそんな日がやってくるのなら……

僕もこの目で是非そんな世界を見てみたい。



ティーナさんとの会話を終了した僕は、最後に外の郵便受けを確認しに行く事にした。

扉を開けて2階の外廊下に出ようとした僕は……

その場で固まった。


「おい!」


外廊下の柵にもたれかかるようにして座り込んでいたのは、あのD級のヤンキー少女であった。

いつも通り? の野球帽に、ぼさぼさの黄色い髪、よれよれの赤いTシャツに黒のジーンズ。

ヤンキー少女は不機嫌そうな表情のまま立ち上がった。


「居留守使ってんじゃねぇよ!」


ワンテンポ遅れて彼女の存在を認識した僕は、とりあえずたずねてみた。


「え~と……なんでいるんだ?」

「なんでもくそもねぇよ。お前からステータスの上げ方教わる為に決まっているだろ?」

「教えようが無いし、例え知っていたとしても、お前みたいに失礼なストーカーに教えるわけ無いだろ?」


僕は彼女を押しのけながら、1階の集合ポストに向けて歩き出した。

ヤンキー少女が追いすがってきた。


「なあ、頼むから教えろ……て下さい!」


だから語尾を多少丁寧語に変えても僕の気持ちは変わらないから。


そのまま1階の集合ポストから郵便物を取り出した僕は、改めて彼女に宣言した。


「いいか? もう二度とここに来るな! 何度も言うけど迷惑なんだよ!」


スマホが今手元に無いのが恨めしい。

あれば速攻、警察と均衡調整課に電話するんだけど。


彼女はやや余裕の無さそうな顔で、とんでもない事を言い出した。


「教えてくれたら、ヤらせてやるから」

「はい?」

「だ・か・ら、女子高生(あたし)のカラダ、好きにしていいって言ってんだろ!」

「お前……大丈夫か?」

「頼むから、教えてくれよぉ……あたしは何としてでも強くならないといけないんだ!」


そう口にすると、ヤンキー少女の瞳から大粒の涙がポロポロ零れ落ちはじめた。

それはともかく、物凄~~くややこしい奴に目を付けられてしまったようだ。

彼女に比べれば、最初の頃のエレンやティーナさんの方が、よっぽど可愛く見える。


「なあ、正直なところ、お前のステータスをどうやったら上昇させられるかって話、僕には協力出来る事は何も無いんだよ」

「……じゃあ、次にお前がダンジョン潜る時、連れて行……って下さい!」

「当分潜らないから」

「嘘つけ! 今度押熊第一潜るんだろ?」


なんでこいつがそれ知っているんだ?

はっ!?

もしかして、均衡調整課のサイトのダンジョン予約、しらみつぶしに調べたのか?


「お前、それ完全にストーカー行為だからな? 付きまとい防止条例とか、軽犯罪法とか、色々引っ掛かるからな?」

「ちゃんとヤらせるし、荷物持ちでも何でもやるからよぉ……連れて行……って下さい!」

「お前はまず、その崩壊した倫理観から何とかしろ!」


僕はそのまま彼女を無視して、一足飛びに2階への階段を駆け上がった。

そして自分の部屋に駆け込むと、扉を閉めてカギを掛けた。


何だか最後に随分時間をロスしてしまった。

向こう(ネルガル)で二人が心配しているかもしれない。


僕は急いで【異世界転移】のスキルを発動した。



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― 新着の感想 ―
[一言] どう考えても、ヤンキー少女本人か大切な人の命が掛かったパターンなんだが。 主人公にイライラ。
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