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19.F級の僕は、少女の首輪を外す

ブクマが25まで増えました。

感謝感激です。


5月13日 水曜日3


自分の部屋に戻った僕は、急いで懐中電灯を探した。


「あった!」


押し入れの隅から、仕舞い込んでいた懐中電灯を引っ張り出した僕は、再度【異世界転移】のスキルを発動した。

そして、転移した先の、漆黒の闇の中で、懐中電灯を点けてみた。

周囲が、明るく照らし出された。

やはり、洞窟の入り口付近が、数mに渡り崩れていた。

僕は、閉じ込められてしまっている現状を、再確認した。


どうしよう……

とにかく、ここから脱出する方法を考えないと。


僕が思案していると、あのエルフの少女が、不思議そうに僕の手の中の懐中電灯を見つめているのに気が付いた。

僕は、再び彼女に声を掛けてみた。


「怪我とかしてない?」


彼女は、ふるふると首を振ってから、自分の首を指差した。

そこには、銀色の首輪のような物が()められていた。

表面には、何かの文様が細かく刻み込まれている。


「これが、どうかしたの?」


言葉が喋れないのだろうか?

彼女は、身振り手振りで、一生懸命、何かを訴えかけてくるが、今一つ要領を得ない。

ただ、盛んに自分の首輪を指差している。


「僕の言葉、分かる?」


彼女は小さく頷いた。


「……もしかして、その首輪、外したいの?」


彼女は、今度は大きく頷いた。


僕は、彼女の首輪を改めて調べ直した。

継ぎ目の無い銀色の首輪。

試しに、引っ張ってみたが、僕の手の力だけでは、どうにもならなさそうだった。


剣でなんとかならないかな?


僕が、腰の剣を抜くと、少女は怯えたような表情になった。

僕は、彼女を安心させようと、笑顔で話しかけた。


「ちょっとこれで壊せるか、試してみるね」


僕は、剣の刃先で首輪をこすってみた。

しかし、首輪は相当硬い素材で造られているのか、傷一つ付かない。


う~ん……どうしよう。


しばらく考えた末に、僕は、少女に向き直った。


「ちょっとここで待っていてね。すぐ戻って来るから」


そして、僕は数mほど彼女から離れて、懐中電灯を消した。

再び、周囲は、漆黒の闇に閉ざされた。

これで、僕がこの場から消えても、少女には気付かれないはず。

僕は、【異世界転移】のスキルを発動し、自分の部屋へと転移した。


鎧を脱ぎ、服を着替えた僕は、急いで近所のホームセンターへ向かった。

僕の目当ての品は、DIYコーナーに並んでいた。

金切鋸(かなきりのこぎり)

細い鎖や金属パイプが切断できる優れものだ。


これで切れれば良いんだけど……


手頃な大きさの金切鋸を手に取り、会計を済ませて、アパートの自室に戻った僕は、再び皮の鎧と鉄の小剣を装備した。

再度、【異世界転移】のスキルを発動し、漆黒の闇に閉ざされた洞窟へと転移した。

懐中電灯を点けて戻って来た僕の胸の中に、少女が飛び込んできた。

身体が小刻みに震えている。

どうやら、真っ暗闇に一人で放置してしまったので、不安にさせてしまったようだ。


僕は、彼女の背中を撫ぜながら、出来るだけ優しい口調で、今から試したい事を説明した。

そして、彼女に懐中電灯を持ってもらったまま、買ってきた金切鋸を首輪に押し当てた。


―――ギリギリギリ……


1時間近く、僕は、ひたすら金切鋸を引き続けた。

そして、とうとう首輪を切断する事に成功した。

首輪が外れた事を確認した少女は、嬉しそうな顔になった。


「……ありがとう」


少女が声を発した事に、僕は驚いた。


「喋れたんだ」

「あなたのお陰です。捕まった時、あの首輪で、力を声ごと封印されていました」

「力?」


すると、彼女は、少し小さくアッと声を上げた。


「すみません、私の力の事、今は聞かないでもらえますか?」

「うん。分かった」


まあ、誰にでも言いたくない事の一つや二つ……

って、あんまりそんなこと考えてると、自分にブーメランだ。


彼女が、改めて、僕に向き直った。


「私は、ノエミと申します。あなたのお名前をお聞きしても良いですか?」

「僕は、タカシっていうんだ」

「タカシ様は、高名な冒険者様でいらっしゃいますか?」

「高名……じゃないよ。駆け出しの冒険者だよ。ほら、装備もこんなだし」


僕は、懐中電灯で自分を照らして見せた。


「ですが、先程は、何度か不可思議な転移スキルを使用なさっていましたよね? それに、そんな不思議な魔道具までお持ちですし」

「わわわっ!?」


異世界転移したのがバレてる?

この少女は、あの真っ暗闇で、どうしてその事に気付けたのであろうか?

まさか、エルフの特殊能力か何かで、真っ暗闇でも見えるとか?


「視力、良いんだね?」

「視力……ですか? そうですね、私はエルフですので、普通のヒューマンの方々よりは、視力は良いとは思いますが……?」


少女は、首を傾げている。


「あ、つまり、真っ暗闇でも見えるんだな~と」

「光が無い所では、さすがに見えないですよ?」


あれ?

僕が異世界転移する場面を直接見たわけじゃ無いのだろうか?

それとも、自分では気付かないだけで、異世界転移する瞬間、僕は、滅茶苦茶光ってるとか?


「え~と、ノエミちゃんだっけ?」

「はい」

「ノエミちゃんは、どうして僕が転移したとか思ったのかな?」

「それは……その、なんとなく、です」

「なんとなく?」

「はい、その……すみません」


ノエミちゃんは、なぜか急にしどろもどろになってしまった。

元々、僕の方も、この話題を引っ張りたくは無かった。

なので、話題を変える事にした。


「ところで、ここからどうやって出ようか?」

「タカシ様のその転移スキルを使用して、脱出はご無理なんでしょうか?」


また、僕の【異世界転移】スキルの話に戻ってしまった。

僕は、しばらく考えた末に、返事した。


「……これ、実は、倉庫みたいな場所に、品物取りに行ったりできるだけなんだ。つまり、ここからどこか別の場所に移動できるわけじゃ無いんだ」

「亜空間魔法のようなものですか?」

「えっ? 亜空間魔法?」

「高レベルの冒険者の方々は、亜空間に物品を収納して、任意に出し入れ可能、とお聞きした事があります」

「そ、そうそう、そんなところ」

「ですが、亜空間魔法は、せいぜい物品の収納が出来るのみ。生身の人間が、そこに出入りできる等と言う話は、聞いた事がありませんが……」


ノエミちゃんが、怪訝そうな顔になった。


「……ごめんね、ノエミちゃん。その……この話は、この辺にしておいて貰えれば、ありがたいかな~なんてね」

「分かりました。そうですよね、誰にでも言いたくない事の一つや二つ、ありますよね……」


僕は、思わずノエミちゃんの顔をまじまじと見つめてしまった。

それって、僕がさっき思ったのとそっくりそのまま……


ノエミちゃんは、僕の視線に気付くと、少し微笑んだ。


「それでは、ここは、私に任せて下さい。その代わり、今から起こる事、誰にも話さない、と約束してくれますか?」

「うん、もちろんだよ」

「ふふふ、ありがとうございます。私もタカシ様のそのお力、誰にも話さないので安心して下さい」


聞きようによっては、僕のスキル【異世界転移】が、彼女の“秘密”の人質に取られた形になってしまった。


ノエミちゃんは、姿勢を正すと、何かを歌うように口ずさみ始めた。

同時に、僕等の周囲に金色に輝く何かが集まってきた。

と……


―――ゴゴゴゴゴゴ……


洞窟が、轟音と共に、揺れ始めた。


「ノエミちゃん、危ない!」


僕は、思わず、ノエミちゃんを腕の中に抱いて、(かば)おうとした。

ノエミちゃんは、僕に微笑みかけた。


「大丈夫ですよ、タカシ様。ほら」


彼女の指さす方向に視線を向けた僕は、信じられない光景を見た。

なんと、崩れていた洞窟の入り口の土砂や岩石が、フィルムの逆再生の如く、浮き上がり、崩壊する前の状態へと戻って行く。

やがて1分もしない内に、洞窟の入り口は完全に修復された。

外の明るい光が、洞窟内へと差し込んでくる。


「凄い……」


呆然と呟く僕に、ノエミちゃんが話しかけてきた。


「タカシ様、今の私の力に関しては、くれぐれも内密に……」

「うん約束するよ。その代わり、ノエミちゃんも、僕の事、あんまり詮索しないでね」

「勿論です」


とにかく、この洞窟から出られる。

僕とノエミちゃんは、洞窟の入り口に向かって歩き出した。



エルフの少女の不思議な力は、物語に深く関わる予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] もうローファンタジーじゃなく普通にファンタジー小説だと思います
[一言] 山賊砦跡…。 物欲センサーが鳴ります。100万ゴールドはどこだぁ! ちっろくな物も残っちゃいねぇ。
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