表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/694

18.F級の僕は、山賊の砦でエルフの少女に出会う

今夜は、二度目の投稿です


5月13日 水曜日2


今僕は、穏やかに流れる小川の(ほとり)に立っていた。

周囲に目をやると、まばらな木々の間から木漏れ日が差し込んできており、静かでなかなか良い雰囲気の場所だ。


「さて、どうしようかな?」


今日の最終目標は、宿屋『暴れる巨人亭』に辿(たど)り着いて、荷物を回収する事であった。

しかし、まずは、この森を抜け、ルーメルの街に向かわなければならない。

あの謎の女性は、ここがルーメルの街近くとは言っていた。

だけど、土地勘ゼロの僕には、向かうべき方向の見当が、全くつかなかった。


「仕方ない、とりあえず、川沿いを下ってみるか……」


川沿いを下っていけば、いつか人通りのある場所に出るんじゃないだろうか?

幸い、川沿いには、杣道だか獣道だか不明だが、踏み固められた地面が続いていた。

僕は、剣を構え、慎重にその道を進んで行った。

と、突如背後で唸り声がした。


――ウウウゥゥ……


振り返ると、灰褐色の大きな野犬のような生き物が、三匹身構えていた。

口元には鋭い牙が並んでおり、少なくとも、僕に襲い掛かる気満々に見えた。


モンスター?

それとも野生動物?

どちらにせよ、こいつら相手に、僕は勝てるのか?


初見のその野犬もどき達に対して、僕は内心ドキドキしながらも、斬りかかった。


―――ギャン!


幸い、そいつらはそんなに強くはなかったらしく、僕の剣の一振りで、次々に光の粒子となって消滅していった。


―――ピロン♪



ワイルッドッグを倒しました。

経験値800を獲得しました。

Fランクの魔石が1個ドロップしました。

犬の牙が1個ドロップしました。



―――ピロン♪

…………

……


都合3回、全く同じポップアップが立ち上がった。

獲得できた経験値や落とした魔石から推測するに、そんなに強いモンスターでは無かったらしい。


ホッと胸を撫でおろした僕は、さらに川沿いの道を下流へと進んでいった。

しばらく進むと、前方に、粗末な木の柵で囲まれた場所が見えてきた。

木柵で囲まれたその内側には、櫓のような構造物も見えている。

軍の駐屯地的な場所だろうか?

とにかく、ようやく人がいそうな場所に辿り着けたようだ。


僕が近付くと、櫓の上で人が動いているのが確認できた。

彼等の方も僕に気付いたらしく、こちらを指差して、何かを叫んでいる。

さらに近付くと、何かが飛んできた。


―――ヒュン!


僕の耳元を何かが風を切る音が掠めた。


「えっ?」


慌てて振り返った僕の視線の先に、地面に突き刺さっている矢があった。


こ、攻撃された!?


慌てて逃げようとすると、再び何かが飛んできた。

僕は、夢中で手に持った剣を振り回した。

すると、偶然、何本かを叩き落す事に成功した。



―――ピロン♪


いきなりポップアップが立ち上がった。



スキル【剣術】を取得しました。

剣を取り扱う能力が向上します。



「ええっ!?」


スキルが、勝手に取得された?

驚く僕を他所に、降り注ぐ矢の数が増えてきた。

しかし、なぜか、僕が剣を振り回すだけで、その全てが叩き落されていく。

先程取得した【剣術】スキルのお陰だろうか?


やがて、木柵に設けられた扉を押し開けて、数人の人々が、こちらに向かってきた。

皆、剣やら斧やら物騒な武器を手にしていた。


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


僕は、必死に、彼等に呼びかけた。

しかし、彼等は、一向に聞く耳を持たない感じで、襲い掛かってきた。


「死ねや!」


―――ガキンッ!


結構マッチョな巨漢が振り下ろしてきた斧を、僕は、なぜか楽々と弾き返すことが出来た。

マッチョな巨漢は、驚いたような顔をして後ろに飛びのいた。


「貴様、何者だ!?」

「え~と、何者と言うか、冒険者なんですが、ルーメルの……」


……街への行き方、教えてもらえないですか?


しかし、僕が最後まで言い終わるのを待たずに、襲撃者の一人が(わめ)いた。


「やっぱりルーメルの冒険者か。ここへ一人で乗り込んでくるたぁ、良い度胸だ」

「乗り込んで……?」

「おい、野郎ども、やっちまえ!」


マッチョな巨漢の一言で、襲撃者達が、一斉に襲い掛かってきた。

仕方なく、僕も剣を振り回して応戦した。

スキルのお陰か、今までと比較にならない位、スムーズに剣が振るえる。

僕は、瞬く間に、6人の襲撃者全員の武器を叩き落した。

武器を失った襲撃者達は、信じられないものを見る目をしていた。

僕は、剣を突き付けたまま、改めて、マッチョな巨漢にたずねてみた。


「え~と、なんで僕、攻撃されてるんですかね? ここって、なんか、立ち入り禁止的な場所ですか?」

「お前、あのエルフの娘を奪い返すために来たんじゃねぇのか?」

「エルフの娘?」

「そうだ、お前、ルーメルの冒険者なんだろ? それで、ギルドで、俺らの討伐依頼受けて来たんだろ?」


なんだか、話が激しく噛み合っていない気がする。

エルフの娘?

討伐依頼?

もしかして……?


「もしかして、あなたがたは、エルフの娘さんを(さら)った山賊ですか?」

「な、何をいまさら」


どうやら、僕は、山賊の砦みたいな所に来てしまったらしい。

どうしよう?


僕が考えていると、マッチョな巨漢が、口を開いた。


「なあ、あんた、相当レベルが高い冒険者なんだろ? エルフの娘は返すから、見逃してくれねぇか?」


見逃すも何も、僕は、何一つ状況を把握できてはいないのだが。

ただ、ここで彼等と揉めるのは、僕にとって全く望むところでは無い。

殺し合いなんかになったら、多分僕の方が失神してしまいそうだ。


僕の沈黙を、僕が迷っていると考えたらしいマッチョな巨漢が、さらに言葉を続けた。


「なあ、エルフの娘だけじゃねぇ。金も……金も払うからよ。100万ゴールドでどうだ?」

「100万ゴールド!?」

「そうだ。それで、手を打っちゃくれねぇか?」


なんだか、凄く美味しい話のような気がする。

相手が山賊って言う点だけが気になるけれど。


「分かりました。それで手を打ちましょう」

「ありがてぇ。それじゃ、こっちへ……」


マッチョな巨漢の案内で、僕は山賊の砦に足を踏み入れた。

木柵の中には、10人弱の男達がいた。

皆、一様に目つきが悪い。


「エルフの娘は、こっちです」


言われて、僕は、砦の奥の洞窟のような場所に案内された。

そのままついていくと、10m程進んだ突き当りに、鉄格子が見えてきた。

そして、その檻の中に、一人の少女が閉じ込められていた。

見た目10代半ば位であろうか?

薄汚れ、粗末な貫頭衣のような物を着せられてはいるが、信じられない位、彼女は美しかった。

エメラルドグリーンの髪、同じ色の瞳、ピンと立ったエルフ特有の耳、そして透き通るように白い肌。

僕が思わず彼女に見とれていると、彼女の方も、僕にチラリと視線を向けてきた。

しかし、その瞳には、何の感情も籠っていないように見えた。


後ろから、マッチョな巨漢が、カギを差し出してきた。


「これが、この檻のカギです。あっしらは、表で待ってますんで、後はお好きに……」


マッチョな巨漢は、なぜか卑猥な笑みを浮かべながら、洞窟から出て行った。

僕は、カギをカギ穴に差し込んだ。


―――ガチャッ


僕は、檻の扉を開いて、少女に声を掛けた。


「もう大丈夫だよ。さあ、出てきて」


その時……


―――ゴゴゴゴゴ……


いきなり、洞窟の入り口から、地響きのような音が響いてきた。

天井からパラパラと、土ぼこりが舞い落ちて来る。

僕は、咄嗟に、目の前の少女を(かば)おうとして、覆い被さった。

数秒後、静かになった時、周囲は、漆黒の闇に閉ざされていた。


もしかして、閉じ込められた?

自然現象か、或いは、あの山賊達の仕業か。

とにかく、明かり一つ無い洞窟の中に閉じ込められたのは、確かなように感じられた。


僕は、少女に声を掛けた。


「大丈夫?」


返事が無い。

しかし、僕の身体の下で彼女が動くのが感じられるところを見ると、生きてはいるようだ。


僕は、ゆっくりと身を起こして、周囲に目を凝らしてみた。

文字通りの闇の中。

自分の手の平を目の前に持ってきても何も見えない。


困ったな、せめて懐中電灯か何かでもあれば……


僕は、目を閉じて、【異世界転移】のスキルを発動した。


次の瞬間、僕は、自分の部屋に戻って来ていた。



お読みいただきまして、ありがとうございました。


次は、明日投稿予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ