18.F級の僕は、山賊の砦でエルフの少女に出会う
今夜は、二度目の投稿です
5月13日 水曜日2
今僕は、穏やかに流れる小川の辺に立っていた。
周囲に目をやると、まばらな木々の間から木漏れ日が差し込んできており、静かでなかなか良い雰囲気の場所だ。
「さて、どうしようかな?」
今日の最終目標は、宿屋『暴れる巨人亭』に辿り着いて、荷物を回収する事であった。
しかし、まずは、この森を抜け、ルーメルの街に向かわなければならない。
あの謎の女性は、ここがルーメルの街近くとは言っていた。
だけど、土地勘ゼロの僕には、向かうべき方向の見当が、全くつかなかった。
「仕方ない、とりあえず、川沿いを下ってみるか……」
川沿いを下っていけば、いつか人通りのある場所に出るんじゃないだろうか?
幸い、川沿いには、杣道だか獣道だか不明だが、踏み固められた地面が続いていた。
僕は、剣を構え、慎重にその道を進んで行った。
と、突如背後で唸り声がした。
――ウウウゥゥ……
振り返ると、灰褐色の大きな野犬のような生き物が、三匹身構えていた。
口元には鋭い牙が並んでおり、少なくとも、僕に襲い掛かる気満々に見えた。
モンスター?
それとも野生動物?
どちらにせよ、こいつら相手に、僕は勝てるのか?
初見のその野犬もどき達に対して、僕は内心ドキドキしながらも、斬りかかった。
―――ギャン!
幸い、そいつらはそんなに強くはなかったらしく、僕の剣の一振りで、次々に光の粒子となって消滅していった。
―――ピロン♪
ワイルッドッグを倒しました。
経験値800を獲得しました。
Fランクの魔石が1個ドロップしました。
犬の牙が1個ドロップしました。
―――ピロン♪
…………
……
都合3回、全く同じポップアップが立ち上がった。
獲得できた経験値や落とした魔石から推測するに、そんなに強いモンスターでは無かったらしい。
ホッと胸を撫でおろした僕は、さらに川沿いの道を下流へと進んでいった。
しばらく進むと、前方に、粗末な木の柵で囲まれた場所が見えてきた。
木柵で囲まれたその内側には、櫓のような構造物も見えている。
軍の駐屯地的な場所だろうか?
とにかく、ようやく人がいそうな場所に辿り着けたようだ。
僕が近付くと、櫓の上で人が動いているのが確認できた。
彼等の方も僕に気付いたらしく、こちらを指差して、何かを叫んでいる。
さらに近付くと、何かが飛んできた。
―――ヒュン!
僕の耳元を何かが風を切る音が掠めた。
「えっ?」
慌てて振り返った僕の視線の先に、地面に突き刺さっている矢があった。
こ、攻撃された!?
慌てて逃げようとすると、再び何かが飛んできた。
僕は、夢中で手に持った剣を振り回した。
すると、偶然、何本かを叩き落す事に成功した。
―――ピロン♪
いきなりポップアップが立ち上がった。
スキル【剣術】を取得しました。
剣を取り扱う能力が向上します。
「ええっ!?」
スキルが、勝手に取得された?
驚く僕を他所に、降り注ぐ矢の数が増えてきた。
しかし、なぜか、僕が剣を振り回すだけで、その全てが叩き落されていく。
先程取得した【剣術】スキルのお陰だろうか?
やがて、木柵に設けられた扉を押し開けて、数人の人々が、こちらに向かってきた。
皆、剣やら斧やら物騒な武器を手にしていた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
僕は、必死に、彼等に呼びかけた。
しかし、彼等は、一向に聞く耳を持たない感じで、襲い掛かってきた。
「死ねや!」
―――ガキンッ!
結構マッチョな巨漢が振り下ろしてきた斧を、僕は、なぜか楽々と弾き返すことが出来た。
マッチョな巨漢は、驚いたような顔をして後ろに飛びのいた。
「貴様、何者だ!?」
「え~と、何者と言うか、冒険者なんですが、ルーメルの……」
……街への行き方、教えてもらえないですか?
しかし、僕が最後まで言い終わるのを待たずに、襲撃者の一人が喚いた。
「やっぱりルーメルの冒険者か。ここへ一人で乗り込んでくるたぁ、良い度胸だ」
「乗り込んで……?」
「おい、野郎ども、やっちまえ!」
マッチョな巨漢の一言で、襲撃者達が、一斉に襲い掛かってきた。
仕方なく、僕も剣を振り回して応戦した。
スキルのお陰か、今までと比較にならない位、スムーズに剣が振るえる。
僕は、瞬く間に、6人の襲撃者全員の武器を叩き落した。
武器を失った襲撃者達は、信じられないものを見る目をしていた。
僕は、剣を突き付けたまま、改めて、マッチョな巨漢にたずねてみた。
「え~と、なんで僕、攻撃されてるんですかね? ここって、なんか、立ち入り禁止的な場所ですか?」
「お前、あのエルフの娘を奪い返すために来たんじゃねぇのか?」
「エルフの娘?」
「そうだ、お前、ルーメルの冒険者なんだろ? それで、ギルドで、俺らの討伐依頼受けて来たんだろ?」
なんだか、話が激しく噛み合っていない気がする。
エルフの娘?
討伐依頼?
もしかして……?
「もしかして、あなたがたは、エルフの娘さんを攫った山賊ですか?」
「な、何をいまさら」
どうやら、僕は、山賊の砦みたいな所に来てしまったらしい。
どうしよう?
僕が考えていると、マッチョな巨漢が、口を開いた。
「なあ、あんた、相当レベルが高い冒険者なんだろ? エルフの娘は返すから、見逃してくれねぇか?」
見逃すも何も、僕は、何一つ状況を把握できてはいないのだが。
ただ、ここで彼等と揉めるのは、僕にとって全く望むところでは無い。
殺し合いなんかになったら、多分僕の方が失神してしまいそうだ。
僕の沈黙を、僕が迷っていると考えたらしいマッチョな巨漢が、さらに言葉を続けた。
「なあ、エルフの娘だけじゃねぇ。金も……金も払うからよ。100万ゴールドでどうだ?」
「100万ゴールド!?」
「そうだ。それで、手を打っちゃくれねぇか?」
なんだか、凄く美味しい話のような気がする。
相手が山賊って言う点だけが気になるけれど。
「分かりました。それで手を打ちましょう」
「ありがてぇ。それじゃ、こっちへ……」
マッチョな巨漢の案内で、僕は山賊の砦に足を踏み入れた。
木柵の中には、10人弱の男達がいた。
皆、一様に目つきが悪い。
「エルフの娘は、こっちです」
言われて、僕は、砦の奥の洞窟のような場所に案内された。
そのままついていくと、10m程進んだ突き当りに、鉄格子が見えてきた。
そして、その檻の中に、一人の少女が閉じ込められていた。
見た目10代半ば位であろうか?
薄汚れ、粗末な貫頭衣のような物を着せられてはいるが、信じられない位、彼女は美しかった。
エメラルドグリーンの髪、同じ色の瞳、ピンと立ったエルフ特有の耳、そして透き通るように白い肌。
僕が思わず彼女に見とれていると、彼女の方も、僕にチラリと視線を向けてきた。
しかし、その瞳には、何の感情も籠っていないように見えた。
後ろから、マッチョな巨漢が、カギを差し出してきた。
「これが、この檻のカギです。あっしらは、表で待ってますんで、後はお好きに……」
マッチョな巨漢は、なぜか卑猥な笑みを浮かべながら、洞窟から出て行った。
僕は、カギをカギ穴に差し込んだ。
―――ガチャッ
僕は、檻の扉を開いて、少女に声を掛けた。
「もう大丈夫だよ。さあ、出てきて」
その時……
―――ゴゴゴゴゴ……
いきなり、洞窟の入り口から、地響きのような音が響いてきた。
天井からパラパラと、土ぼこりが舞い落ちて来る。
僕は、咄嗟に、目の前の少女を庇おうとして、覆い被さった。
数秒後、静かになった時、周囲は、漆黒の闇に閉ざされていた。
もしかして、閉じ込められた?
自然現象か、或いは、あの山賊達の仕業か。
とにかく、明かり一つ無い洞窟の中に閉じ込められたのは、確かなように感じられた。
僕は、少女に声を掛けた。
「大丈夫?」
返事が無い。
しかし、僕の身体の下で彼女が動くのが感じられるところを見ると、生きてはいるようだ。
僕は、ゆっくりと身を起こして、周囲に目を凝らしてみた。
文字通りの闇の中。
自分の手の平を目の前に持ってきても何も見えない。
困ったな、せめて懐中電灯か何かでもあれば……
僕は、目を閉じて、【異世界転移】のスキルを発動した。
次の瞬間、僕は、自分の部屋に戻って来ていた。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
次は、明日投稿予定です