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112.F級の僕は、荷物持ちを続ける意味が無くなっている事に気付く


5月24日 日曜日3



席に戻ってきた時、既にテーブルの上には、注文した料理が並べられていた。


「お待たせ」


待っていてくれたらしい関谷さんが、僕に笑顔を向けて来た。


「お帰り。電話、もういいの?」

「うん。さあ食べよう」


関谷さんと他愛も無い話をしながら料理を口に運んでいた僕は、漠然と今後どうしようか考えていた。


今日の四方木さんの口振りからすると、僕が単独でダンジョンを攻略して、均衡調整課にノルマの魔石を提出しても、もはや何も突っ込まれたりはしなさそうだ。

なら、今後、報酬の魔石目当てに、誰かの荷物持ちとしてダンジョンに潜り続けるのは、なんだかとても馬鹿らしい気がする。

かといって、公式にはF級の僕の名前で、ダンジョン攻略の申請を出すのは、斎原さんや他の人々の目に止まった場合、かなり面倒な事になりそうなのもまた事実。


少し考えた僕は、関谷さんに話しかけた。


「関谷さん、ちょっと聞いてみたい事あるんだけど」

「どうしたの?」

「関谷さんって、いつもは週何回位、ダンジョン潜ってるの?」

「大体、週一かな」

「そっか。もし良かったら、僕と一緒にダンジョン潜る日って、作ってもらえたりしないかな?」


僕の言葉を聞いた関谷さんの表情がぱっと明るくなった。


「えっ? いいの?」

「いいも悪いも、僕からのお願いなんだけど」

「全然いいよ。なんなら、中村君がダンジョン潜る日、全部付き合わせてもらえれば、私の方が嬉しいというか……」


関谷さんは、そこでハッとした感じの表情で口を(つぐ)んで俯いた。

心なしか、彼女の頬が赤い。

彼女の予期しない反応に、少し僕もドギマギしつつ、話を続けた。


「それで、ダンジョン攻略の申請、関谷さんの名前で出して欲しいんだ」


僕の言葉を聞いた関谷さんが、何かを納得したような顔になった。


「つまり、もう荷物持ちとしてダンジョンに潜るのを辞めるって事ね?」

「ま、そういう事になるのかな」

「いいわよ。中村君が一緒だと心強いし、ね」

「ありがとう。それで、もう一つ相談なんだけど」

「何?」

「関谷さんの知り合いで、口が堅くて信用できる人で、僕の事知らない人いたら、何人か紹介して欲しいんだ」


僕は、自分の考えを関谷さんに説明した。


ダンジョンに潜る申請は、関谷さんの名前で出してもらう。

で、実際は、僕と関谷さんの二人でダンジョンに潜る。

ただし、申請時に関谷さん1名だけだと、周囲から不審がられる。

そこで、何人かの名前をいわば『名義借り』みたいにして貸してもらう。

協力してくれた人には、現金か魔石を報酬として提供する……


「それなら何人か心当たり有るわ。後で声掛けてみるね」

「ありがとう」

「でも、どうしてダンジョンに潜るの、私達二人だけなの? もしかして、中村君の強さ、あんまり皆に知られたくないから?」

「それもあるけど。最大の理由は、僕にとって一番信頼できるのが関谷さんだから、かな。他の人達は、どうか分からないでしょ?」

「そっか」


関谷さんは、目に見えて嬉しそうな顔になった。

元々柔らかい雰囲気の彼女が笑顔になると、その魅力が一気に倍加する感じだ。

あの佐藤が惚れるのも無理は無い。


それはともかく……


強さ以外にも、僕は、色々イレギュラーな存在だ。

ここ地球では、通常、モンスターを倒しても魔石以外はドロップしない。

ところが、僕が倒した場合に限っては、必ずと言って良い程、魔石以外にアイテム類がドロップする。

関谷さんには、その事をおいおい説明していくとして、大勢の人達にこの現象を知られるのは、やっぱり、最終的に均衡調整課やS級達のクランやらの事を考えると、好ましくは無いだろう。


僕がそんな事を考えながら料理を口に運んでいると、関谷さんが、少し探るような視線を向けて来た。


「ねえ……答えたくなかったらこの質問、無視して貰ってもいいんだけど、中村君って……本当は、何級?」


何級……?

なんて答えよう?

自己分析では、今の僕はA級下位。

しかし今後、このまま経験値を獲得し、レベルが上がり続けるなら、いつかS級達をも凌駕してしまう日が来るかもしれない。

今僕等が生きているこの地球では、一人一人に固定ステータスが割り振られている。

それは努力や経験で向上させる事が不可能な数値。

知る限り、僕だけがレベルを上げ、ステータスの数値を向上させ続ける事が出来る……


「今は、A級……かな?」

「A級!」


関谷さんの声が少し大きくなった。

自分の声に自分で驚いたらしい彼女は、慌てて口元を押さえて、周囲を見回した。

今はお昼を楽しむお客さんで満席の店内。

幸い、皆、自分達の話に夢中で、僕等に注意を向けて来る者はいない。


関谷さんが、声を潜めながらたずねてきた。


「A級だったら、最初からそう皆に伝えておけば、その……嫌な思いして、荷物持ちしなくても良かったんじゃ……」

「自分のステータスがA級に並ぶかなって感じたのは、つい最近の事なんだ。だから、関谷さんと初めて会った時とかは、全然A級じゃ無かったし」


あの頃は、ファイアーアントをエレンから貰ったスクロールで倒した直後で、D級並みのステータスだった。


僕の言葉を聞いた関谷さんの目が大きく見開かれた。


「つまり、中村君って、最初F級だったのに、突然A級になっちゃったって事?」


どうやら、関谷さん的にも、僕が経験値を獲得して、ステータスの数値を徐々に上昇させ得る存在だ、とまでは思いつかないようだ。


「ごめん。その辺の話は、余り触れてほしく無いというか……」


色々説明に困るし。


僕の困った顔を見た関谷さんが、慌てた感じで言葉を返してきた。


「私の方こそごめんね! 中村君には色々助けてもらったのに……」

「関谷さんが謝る話じゃ無いよ。料理、早く食べないと冷めちゃうよ?」


それからは再び他愛も無い話をしながら関谷さんとの食事を楽しんだ。

食後、ファミレスを出るあたりで、ポツポツ小雨が降り出していた。


「中村君、スクーターでしょ? 私の車で家まで送ろうか?」

「大丈夫だよ。それにせっかく送って貰っても、またスクーター取りに来ないといけないし」


関谷さんに別れの挨拶をした僕は、スクーターに跨り、小雨の中、自分のアパートへの道を急いだ。



なんとか本降りになる前に、僕はアパートに帰り着くことが出来た。

駐輪場にスクーターを停め、部屋に戻った僕は、少し濡れてしまった服を脱いで着替えると、万年床に寝転んだ。

仰向きの姿勢のまま、僕は、インベントリを呼び出した。

そして、手持ちの魔石を確認してみた。


神樹で倒したガーゴイルやレイス達が落としたAランクの魔石が、総計7個あるな……

Aランクの魔石って、いくら位で売れるんだろう?


僕は興味本位で、スマホの検索サイトで検索してみた。


『Aランク魔石 転売 価格』


さすがに、このランクの魔石になると、魔石転売サイトで価格を確認する事は出来なかった。

均衡調整課では、いくらで引き取ってもらえるんだろう?

均衡調整課のHPにアクセスして確認してみると……


「えっ!?」


なんと、1個16,000,000(1,600万)円で引き取ってもらえるようだ。

7個あるから、全部売れば……


112,000,000円!?


家、買えちゃうな……


因みに、Bランクの魔石は1個500,000(50万)円。

魔石の引き取り価格一つ見ても、A級ダンジョンを攻略してAランクの魔石を継続的に獲得出来るA級様やS級様と、B級以下には越えられない格差の壁が存在する事がよく分った。


どうしよう?

この魔石売って、そのお金で関谷さんの装備を整えてあげれば、彼女と一緒に、A級のダンジョン攻略出来たりしないかな?

その前に、この地球で買える装備って、どの位の性能なんだろう?

確か、均衡調整課には、魔石を使用して作製された装備品の販売店が併設されていたはず。


僕は起き上がると、再び外出する事にした。

外はすっかり本降りになっていた。

カッパを着込んだ僕は、土砂降りの雨の中、スクーターを走らせて、再びN市均衡調整課へと向かった。



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― 新着の感想 ―
ステータスの数値を向上させられない関谷さんを A級ダンジョンに連れて行こうとするとか大丈夫か主人公。
もうバレてるんやからAで登録したらええやん
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