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絵が好きなお婆さん

作者: 愛洲

 美術室に少女が一人。

 画用紙に何かを描いている。しかし、描いているもののことなんてどうでもいい。その絵はどうせ床に散らばっている紙の一つになるだけだから。

 少女は誰よりも美を求めていた。

 前はよく美術館に行っていた。どれだけ絵を見ても、自分の求める美は無いと分かると、旅に出るようになった。自転車に乗ってせいぜい県内を走り回る。その日のうちには帰ってくる。周りの景色にも、自分の求める美は無いと分かると、少女は周りに美を探し出すのをやめた。

 それからは紙があったら、鉛筆で何かを書いていた。

 今描いているのもそんな何か、の一つ。

 こんなどうでもいい絵の中から一つ取り上げるなら、少女が比較的良いと考えている絵を挙げるのが、良心だろう。

 その絵は授業で使ったプリントの裏に書いてある。国語の授業中に書いたものだ。絵はいくつもの線で構成されている。直線、曲線、それらが組み合わさってできた絵。何を描いているのか。嬉しさを描いているのだ。

 どの線も嬉しそうだ。少女にはそう感じられた。

 少女の中学校生活はこんなものだった。

 中学3年、受験で忙しくなり、あれほど熱中していた美術からは徐々に離れていった。

 その後、高校大学を出て就職し、退職して、今では70代。忘れかけていた美術を再びすることもきっかけなったのは、暇つぶしだった。

 チラシの裏に丸や四角、さまざまな線を描いてみる。

 美を求め続けた学生時代を思い出した。

 老いた女は昔の絵を探した。何百枚と描かれた彼女の絵は多くは処分されていたが、数枚は残っていた。

 その絵は多くの駄作の一つであったが、今ではとてもとても美しい一つの絵であった。

 60年かけて少女はようやく美を見つけられた。

 それからは毎日、学生時代に戻ったように美を探すようになった。

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