いとも尊き皇帝陛下
いとも尊き皇帝陛下、どうか戯言を聞いてください。
私は今、あなたの足元におります。足元から大地を揺るがし、その姿を拝んでおります。その大地には盤石の楽園がございます。さながらエデンか、あるいは緑園か。如何にも陛下に相応しい、恩寵の都、福音の都と言うべきものです。
さりとて仮初めの楽園に我々が住むことは叶いません。今も不肖めは楽園の下に、冷たい牢獄の中に囚われております。楽園の囚人ほど惨めなものはございません。囚われて動けぬ、目の前にある幸福に至ることも出来ず、ただほぞを噛むばかり。いわば地上は天空の世界、地下は辺獄の世界、その差は比べるべくもなく、唯陛下のご威光の下にあることだけが我が誇りなのです。
……何故、そのような目で見るのですか?陛下、確かにここは辺獄、黒く蠢く虫共や、逆賊共の喚き声、それに天より来たるパンに群れなすつまらぬ獣に満ちております。しかしながら、私はあなたを敬愛し、こうして理性を保ち、その栄光の帝国に跪いていると言うのに。貴方は私に何も下さらないと言うのですか。
いいえ、いいえ。確かに時に私が貴方であればと、愚かな思い上がりに心を焦がすことも御座います。しかし、貴方に与えられた恩寵の光は、私が見出したものなのです。
貴方は私に何も下さらない。貴方の侍らせた女子も腹心も下さらない。いや、いや、決して不満など御座いません。貴方こそ私、私の為にある麗しき幻なのです。
いとも尊き皇帝陛下、私の牢獄の外の光よ。どうか、貴方を見る、貴方を奉ずる私に福音をもたらして下さいますよう。