前章、濁り、ジジイ
「んっ……」
目を開ける。視界にはシミ一つ無い白い天井が見えた。背中にはふわふわとした心地よい感触が広がり、俺はそのまま顔を横に倒した。
どうやら、俺は壁の白さにも負けないくらいに白いベッドの上で寝ているようだ。状況把握が出来ません。
まず、広場の噴水。そこで俺は激しい頭痛を覚え、倒れた。そこからの記憶が無い。気絶したのか、または若年性のアルツハイマーか。いや、アルツハイマーって何か分かんないけど。
予想するに、ここは病院だろう。壁は白いし、倒れた後に来る場所といったら病院しかない。だけど、疑問が沸いてくる。なぜ薬品の匂いがしないのか。ここが病院ならば薬品の一つや二つ置いてあるはずだ。だけど、なぜかここは無臭。
いや、もしかしたらこの世界は薬品が無く、魔法のような力で傷を治しているのかも。それだったら納得するが、もしそうじゃなかったら俺は拉致された事になる。
そんな事を考えていると、ベッドの反対側にある白いドアが開く。そこから現れたのは、これまた白一色の服を着た好好爺という風貌のジジイ。誰だよ。
当然、俺は目の前のジジイに向かって刺々しく口を開いた。
「あんた誰だよ」
まあ、妥当な質問だと思う。こいつが誰か分かれば、自然にこの場所がどこか分かるはずだ。
ジジイは顔を綻ばせ、ホッホッ、と明るく笑い俺に話しかける。
「ワシはアスガという者じゃ。お前さんは?」
「…………」
俺は嫌いな名前を言いたくないから、黙りを決め込んだ。
「だんまりか。まあ良い、その内聞き出すわい。今は休むことじゃな」
そう言って、部屋から出ようとするジジイ。
……いやいやいや、ちょっと待てよ! 何出ようとしてんの? 状況説明お願いしますよ!
「お、おい!」
俺はジジイを呼び止める声を上げた。突然声を出したせいか、声は裏返っている。
ジジイは疑問符を浮かべながら振り向く。
「なんじゃ?」
なんじゃ? 俺が言いたいわ。
「あのな、俺は混乱してる。だから状況説明」
少し自分でも偉そうかな、と後悔するが目の前のジジイは笑みを浮かべるだけだった。
「お前さんを助けたんじゃよ。行き倒れを放っておくわけにはいかんからな。それとも、迷惑じゃったか?」
え、まじで? 助けてくれたのか。こりゃ良い。
「いや、感謝するよ。あのままじゃ、死ぬ自信あったから」
「ホッホッ。そう言ってもらえると、こちらも嬉しい。しかしな……お前さん、何か訳ありじゃな?」
最後の一言に含みを持たせ、ジジイは言った。
「なぜそう思うんだ?」
「長く生きているとな、分かるんじゃよ。目を見れば、その者がどういう人間か。お前さんは、初めて見る目じゃな。色に例えると、濁りきった黒。綺麗な黒は見たことがある。しかし、お前さんのような、汚ならしい黒は見たことがない」
ジジイは一瞬、目を鋭くして言い放った。
「お前さん――何者じゃ?」
久しぶりにパチンコに行ってきた。負けた。やっぱり休日は大人しく家族サービスやっときゃ良かった。あ、興味無いですか。すみません。