間章、一幕
更新遅れて申し訳ない。これからしばらく、ちょっとした伏線続きです。
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血に濡れた手を見る。今日は他国からの進軍を止める為に戦場へ出ていた。
転がる死体、血の水溜まりが出来ている地面、ほとんどが僕のせいだ。戦場で暴れて、殺して、それでも僕は苦しくない。
苦しくないのだ。この世に兄さんがいる限り、僕は人を殺しても無感情でいられる。この世界に来てから、僕の感情はなぜか増長していた。
執着、なのだろうか。兄さんに対する執着、それは僕にとってプラスに働いている。兄さんのおかげで僕は頑張れるんだ。
周りから、歓喜の雄叫びが聞こえてくる。彼らは僕に与えられた部下で、この戦に勝った事を喜んでいるのだ。
確かに彼らは優秀だけど、僕にとっては邪魔な存在。別に嫌い、疎ましい、という感情は無いが、彼らはいわば僕の監視役も担っている。手を抜かないか、逃げ出さないか、それを監視している。
そんな事をしなくても僕は逃げないのに。兄さんを迎えに行くまで、僕は逃げない。
戦場でそのような事を考えていると、向こう側から物凄い魔力を感じた。他を圧倒する、恐怖すら感じる魔力。
こんな感覚、はじめてだ。全身の毛穴から汗が吹き出し、手が小刻みにガタガタと震える。目は魔力の中心に釘付けになった。
──白い髪が目立つ青年。
この世界に来た影響で感覚が鋭くなった僕の瞳に映し出されたのは、人間では無かった。悪魔、悪鬼、そんな陳腐すぎる言葉では言い表せれないくらいに、彼は常軌を逸している。
体にまとわりつくような殺気……いや、あえて言葉にするなら、狂気。感じた事も無い威圧感が僕や部下達を襲う。
部下達も彼の異常には気づいたみたいで、青ざめた顔をしている。その中の一人が、ポツリと呟いた言葉に、僕は驚愕した。
「て、天夢……」
え? と、誰かが声を漏らす。そうだろう、僕だって何が何やら分からないのだから。
そして、呟いた一人は何かが弾けたように叫び始めた。
「天夢だァァァ!」
武器を捨て、逃げ出した。当然だ、天夢というのは世界最強の一族。戦場で会えば、命は無いと言われているくらい。逃げるのはセオリーなのだ。
その逃げ出した一人を皮切りに、次々と武器を捨てて逃げ出す者が続出。勝利の余韻に浸っていたこの場は、一気に恐慌状態に陥った。
その間にも、僕は青年から目を離せない。離せば、彼は襲いかかってくる、そんな予感があったのだ。
青年はニヤリと口元を歪め、愉悦の表情でこちらに向かって歩いてくる。ゆっくりとしているが、僕にはそれが早く見えた。
子供って可愛いですね。仕事して死にそうになっても疲れがブッ飛びます。