視線、哀れみの浪人生
「ま、とりあえず離れてくれ。今後について話するから中に入ろ? あれだよ、近所の人が殺気浴びせてくれからね。主に隣の浪人生がめっちゃ睨んでくるから。痛いよ、視線が痛いよ」
隣の部屋から顔を出し、殺気を放ちながら見てくるボサボサ黒髪の青年──シムカに向かって、俺は微妙な表情で言う。
「そんな睨まなくてもいいじゃないっすかー。ほら、笑顔ですよ笑顔」
「てめえ……あのな、カグラちゃんとイチャイチャするなら中でやってくれませんかね!? こっちは騎士学校の勉強で忙しいの! 俺が必死に勉強してる間にお前は美少女と一発ヤるのか、ああ!?」
おいおい、下ネタかよ。やめてくれよ、そういうのあんまり好きじゃないんだよ。しかも一発ヤるのか? 俺は断ったじゃねえかぁぁぁぁ!
「あー、騎士学校受かるといいね。じゃあこれで」
「無視すんなよ! そんなに溜まってんのか!? 俺も溜まってるわァァァァァァ! 今から男の良い場所行きたいよォォォ!」
また下ネタじゃないか。勘弁してよ、こちとら取り込み中なんだよ。今後について話し合わなきゃいけないの。正直、スイッチ切り換えてシリアスでいこうとしてたんだよ。
「近所迷惑だから、カグラも呆れてるじゃん」
「わっちはもう少し静かな男がタイプじゃ。ぬしのような、な?」
俺は暗いだけですよ。明るさなんて順也と一緒に置いてきたからね。あ、ヤバい。シリアスになりそう。今はちょっと違うだろ。
その頃、シムカはというとぜーぜー息を切らしながら、ジトっとした湿っぽい目をこちらに向けていた。正直、殺気よりもきついっす。
「もう何でもいいや。……あはは、元気にヤりなさい」
そう言って、哀れみの視線を俺に送り、ドアを閉めた。
……おぉぉぉぉい! 違うだろ、なんか違うだろ! なんで!? あ、こんなラブコメみたいな事してるからだ! ダメだろ、ラブコメはどちらかというと順也だろ。事実、地球でもラブコメみたいな野郎だったし。
ダメだダメだ、方向転換しなければいけない。
「ま、入ろっか」
俺達は家の中に入った。