違う兄弟
ここに来た経緯を思いだそうか。
今日は平日で、もちろん学生の俺達は学校という監獄に押し込められ、更には勉強などという強制労働もさせられていた。
そこで、順也に脱走を提案し、実行。
見事、成功した俺達は自由の素晴らしさを語っていた最中に、繁華街のど真ん中で、頭を鈍器で殴られたような衝撃にみまわれた。
不思議と痛みは無かったが、なぜか腹立たしさが沸き上がった。
そして、気づいたらこの様。
最悪、という言葉で当てはめるのに、この状況はぴったりだろう。
俺は自然に王様(多分)を睨み付けていた。
なんだこの状況は、早く元の場所に帰せ、という意思を伝えるために。
王様は髭をさすりながら、何かを思案している顔をしていた。
横の美女の方を向き、口を開く。
「あれが勇者か。まだ子供ではないか」
ふざけるなと、喉まで込み上げてきた言葉を飲み込む。
下手をしたら殺されるかもしれないからな。
「でも、魔術師は間違った計算をしていません。確かに、あれは勇者様です」
妃が、柔らかな笑みを浮かべて王様に言った。
俺はというと、こめかみに青筋を浮かべ、二人のやり取りを見守る事にする。
それと、人に向かってあれとはなんだ、あれとは。
「そうか……。まあ、よいな」
「ええ、あの子には膨大な魔力と神々しい光を感じますから」
そこで、思慮の足りない愚弟は口を開く。
「あのー、これはいったい……」
いや、もしかしたらこれはラッキーなのかもしれない。
殺されるのは弟だけかも。
とことん腐っているな、俺の考えは。
順也と俺は違う。
正義感に溢れ、勉強も運動も出来て、誰からも慕われる最高の弟。
正義感など欠片もなく、勉強も運動も出来ない、誰からも嫌われる最低の兄。
劣等感などは抱いていないさ。
世の中そういうものだろう?