活躍、酒場と闇
職務開始までの三日、俺は好きな事をしようと、酒場に来ていた。まずは世話になった人へ別れの挨拶をしなければいけない。もう俺はこの国を離れるのだから。
召喚されてから一年、色々な事があった。城を出たのは良いものの、金が無くて行き倒れた事、その時はアスガに助けてもらった。
それからこの世界について学び、魔法なんかを覚えた。俺は人より魔力が少ないらしい。ちなみに半年前、順也が強大すぎる魔力を操り、戦場を恐怖に包んだと聞き始めて、それからは順也の噂ばかりだ。黒い死神やら血染めの兵器なんてあだ名もある。
俺はというと、資金集めに人探し、生活に必死であった。だがそれも終わり。資金は充分貯まったし、探し求めていた人材も発見した。後はこの国から一時離れて行動を起こすだけ。
人だらけの酒場。客引きの声が響き、愉快そうな笑い声が支配していた。活気に満ち溢れている。下らない、誰かから奪って得ている幸せだと知っているのだろうか。ちなみに俺は知っているし、他人がどうなろうと知ったこっちゃない。
俺はカウンターに座りながら、目の前の人物に視線を向ける。
後ろでくくった綺麗な黒髪、顔つきはキリッとして綺麗な部類に入る。意思の強そうな目を持っており、時折見せる哀愁じみた雰囲気は妖艶ささえある。
この店を一人で切り盛りしているマスター。正しくは前マスターの奥さんだ。前マスターが亡くなってから、奥さん──リンナさんが酒場を経営している。
荒れていた時期もあったらしいが、今は客相手の商売が出来るくらいには回復した。
俺はリンナさんに向かって声をかける。
「久しぶり、リンナさん」
「ん? ああ、あんたかい。そうだね、二週間ぶりくらいかな?」
「そう。前の仕事が長引いて。こうして癒しを求めに来ているわけですよ」
「あんた何歳だよ……おやじみたいな事言うね」
こうしている時が今は一番安らぐ。ちょっと歪んでるのかもしれないな。
だって……リンナさんを見てると、同時に深い闇も見ているような感覚を覚えるから。