情報、餞別に魔石
思考、情報を取得しろ。紙に書いている情報は、ある貴族の護送。給料は法外に高く、ただ貴族を他国の国境まで護送するというものだ。うん、絶対に何か裏があるね。
しかし、この給料は捨てがたい。この仕事だけで俺の必要とする資金は余る程に手に入る。だがリスクが付きまとう危険な仕事。
……まあいいさ。危険な橋の一本や二本渡れずに、俺の目的は成就しない。俺はもう一年前の俺とは違う。
順也も、召喚した連中も、地球にいた奴等も、召喚されてからの一年間、全てが俺を変えた。憎悪、その二文字が俺の思考、主義、目的を植え付けたんだ。
後戻りをするつもりはない。ただ目的に向かって進むだけ。
必要な事ならなんだってしてやる。
「大丈夫。心配いらないさ。俺はやる。そして……多分、この仕事であんたともお別れだ」
アスガは真剣な表情のまま鋭い視線を俺に向ける。
「いいのだな、それで」
「ああ、決めたんだ。もう後戻りはしない」
このジジイ、分かっていたのか。俺が何をするつもりで、何の為に金を必要としているか。
そりゃそうだよな。アスガが裏社会を根っこから知っているし、情報網も広い。俺が立ち回っている事なんてお見通しか。
拳を握り込み、目を瞑る。
「今まで、世話になりましたね」
「ほっ、いつだって戻ればいい。この場所にな。ここは来る者は拒まない、誰だって」
好好爺の表情に戻り、アスガは愉快そうに笑った。本当に食えないジジイだ。
「じゃあ、仕事の開始まで三日あるな。……また来る」
「ちょっと待て」
アスガは俺を呼び止め、引き出しから何かを取り出し、俺に放った。
「なんだこれ?」
「ホホッ、餞別じゃよ。気張れ、生きてまたここに来い」
アスガが投げた代物は、宝石であった。魔力が感じられる事から、魔石と考えた方がいいだろう。
魔石とは魔力が宿った宝石の事で、使う者が魔力の絶対量が少なくても、魔石に宿った魔力で魔法が使えるというもの。それに、魔石自体に魔力回復能力があり、半永久的にその効果は持続する。本来は王族直属クラスの騎士でも一握りしか持てない代物だ。
値が張るのはもちろん、俺なんかが一生かかっても買えない金額、そして入手困難。裏ルートを使っても手に入らないものをなぜこのジジイが……?
まあいい。今は詮索よりジジイの好意に甘えるとしよう。これがある限り、俺はおそらく、一個中隊を三つつほど消滅出来る力を手に入れたわけだ。
それだけ魔石の効果は凄まじい。
本来は俺なんかに魔石をくれる真意を考えるところだろうが、俺は感情に流された。また、感情に流されたんだ。