狸ジジイ、トラウマ一年後
召喚から一年後ですね。飛びすぎですね。
──召喚から一年後
「だからね、そうじゃないんだよ。俺が言ってるのは仕事はないかって事。誰が好き好んであんたみたいな悪党に金を借りますか」
俺は職業斡旋の店に来ていた。ここの建物は金属と木を使う、コンクリートは無いがあっちの世界と造りは一緒。
職業斡旋の店は小さな白い金属の建物で、外観から見ればさしずめ病院といったところか。正直な話、店の外にある看板が無ければ誰も職業斡旋とは気づかない。
中も白い内装、もう店主の趣味を疑いたくなるね。
俺が立って抗議している場所は入り口から歩いて数歩の場所にある受付。そこに、俺と対峙しているのがこの店の店主。
名前はアスガと言い、見た目は好好爺という印象を受ける、人の良さそうな老人。服装はこの世界でポピュラーな布製を基本とした地球とあまり変わらない服装。
好好爺のこのじいさん、その実体はとんでもない狸ジジイだ。俺も何回こいつに騙されて酷い目に合った事か。
アスガはホッホッと笑い、細い目を俺に向ける。
「悪党とは失礼な。ワシはただ、迷える子羊に道を与えているだけ。悪党ではなく紛れもない善人じゃよ」
言うに事欠いてこのくそったれジジイは……!
「じゃあ完璧な偽善者だよ、あんた。何回……何回俺が酷い目に合った!? 確かに一年前助けてくれた事には感謝してますよ! けどな、やっていいことと悪い事の分別くらいつけろ、狸ジジイ!」
俺は涙目になりながら俺とアスガの間にある木製のテーブルを叩く。ああそうさ、酷い目にあったね。トラウマだよね。騙されて魔物と敵対するわ、ただの護衛のはずが暗殺者に殺されそうになるわ、犯罪に加担した事数知れず。
思い出しただけで鳥肌が出て身震いして生の実感を得るよ。ありがとうって言いたいよ! こんな優しい狸ジジイに出会えた事を、心の底から神に感謝する!
……あんたは悪魔ですか!? ちなみに、ここの宗教はやはり国によって違うようだ、俺は無神論者だけど、今だけはなぜか神に怒りを感じるね!
ああ、でも金が無いからジジイに頼るしか無いんだよォォォォ!