決別、敵。
序章終了です。今までのはプロローグでした。次からはきちんとコメディ要素も入れようと思います。
ダメだ、感情に流されちゃいけない。考えるんだ、思考を止めるな。考えて考えて……憎しみに支配された思考を……。
なぜだろうか、この世界に来てからというもの、おかしい。思考スピードは飛躍的に上がり、でも感情的になる。この世界は何か異常だ。
思考とは裏腹に、俺の口は勝手に動く。
「最初の提案は無しに……。勇者はこの通り、あなた方の取引を飲みます。ただ、俺は去る。必要ありませんよね、勇者を呼び出したあなた方にはただの人間など不必要。不必要な人間は邪魔にこそなるが、助けにはならない。だったら、俺は去るだけ」
感情とは恐ろしい。体をも、思考をも支配するのだから。
決まったんだ。俺の目的……。
「分かりました。では、こちらも……」
「ダメだ!」
王妃が話を進めようとした時、順也が鋭い声を上げた。
「兄さん、ダメだよ。僕には兄さんが……」
順也の表情は複雑だ。自分でも何を言っているか分からないような表情。今の俺と同じ状態だ。
「順也、もう俺を縛るなよ。解放してくれ、お前の呪縛から。こりごりだから、救いもいらない。自分の手で──」
「兄さん! 行かないで! 僕には兄さんが必要なんだ! 他に何もいらない。兄さんさえいてくれれば!」
俺は冷たく順也を見やり、視線はそのままに王妃と王様に向かって言葉を放つ。
「では、邪魔者はこれで」
「ええ……惜しいですが」
……? 最後の部分、王妃の言った言葉は小さすぎて聞き取れなかった。まあいい、これで俺は去るだけだ。
後ろを向き、出口に向かって歩く。後ろで何か順也が叫んでいた。
「嫌だ! 行かないで! 兄さん! 僕には兄さんしかいないのに!」
無視して歩く。
「頼むから僕のそばに居てよ! いつもみたいに僕のそばにいるだけで僕は……」
後に聞こえてくるのは嗚咽。だが俺は振り向かない。
出口の前に来た時、兵士が扉を開く。俺は出口をくぐり、外へ出た。部屋から聞こえてくるのは、順也の悲痛な叫び声。
「じゃあな、次に会う時は……敵だと思うけど」
思考は既に感情に支配された。これからの段取りをただ冷徹に考える。