8話 落下阻止
バタバタと体を打つ制服
異様な風圧を感じる肌
くるくる回る体は、さしずめ風のある宇宙空間にでも居るようだ
暴風を受けながら、それでも懸命に瞳を開け、私が見たモノ
私の目下には、丸く中心から放射線を描く何か……
そこから離れた所に肌色というよりは茶色
茶色というよりは明るい黄土色ともいえる物が広がる
遠くには長方形の集まりが沢山ある
そして視界の真ん中、見えているモノを二分した長い何かも見えた
何も解らない中で、私は1つだけ確信する
いまだに体打つ制服、暴風と地に足が着いていない状況…… コレは空から墜ちてる
だから理解した視界を二分した長い何かは…… 多分、川だ
衛星写真はニュースでも何度か見ている
アマゾン川のようにうねる大河
ということは丸い中心から放射線を描くモノは…… 山!?
長方形の集まりは町か集落の民家か!
さて、と…… 冷静な判断は終わりだ
コレって……
コレは夢じゃない!!
墜ちてる!
やっべーじゃん!?
死ぬじゃんマジでコレ!!!
「がぶげげぇぇぇ!!!」
私は思いっきり叫んだ
だが開いた口には強風が入り込み言葉にならない
「どぼずでばびーーどぼーーー!!?」
ヤバいぞ……
本気でマズい……
このままじゃ本気で地上に……
その前に目下の山!
そっちに墜ちる!!
てゆーか、山が私のお墓なんてどんな贅沢なのよ♪
……じゃなぁぁぁい!!
現実逃避すんな!!
生きる事優先でしょ!!
【こりゃ何だッピ?】
突然、頭の中に聞こえた声は《アカ》だ
【おお…… 空から墜ちてるッシャな?】
続いて話し掛けてきたのは《アオ》
【ニャっっふーー♪ 気っっ持ちいいニャー! スカイダイビング!? 初めてニャー♪】
コレは《シロ》
【有り…… 得ない…… パラシュート…… 着けて…… 無い】
最後の途切れ途切れだが鋭いツッコミは《クロ》
私の力、ラピス・ラズリを分けて生み出した4匹の生物だった
そしてソレらは、それぞれの方向へ特化させた事によりバトルスタイルを変化させる事に成功した
それこそが私の曾祖母、咲子ばあちゃんから受け継いだ力の進化、変化に対応する技を得意とした彼女の才能が世代を越えて私に息づく証明
《アカ》は鳥の姿をした力
見た目はセキセイインコで、放出を得意とする遠距離のラピス
《アオ》は蛇の姿をした力
変化を得意とした刀にも鞭にもなれる中距離のラピス
《シロ》は猫の姿をした力
私の周りに形作る手甲や脚甲、近距離を得意とする上、体内のバランスも取る役割を与えている
私のセンスを極限までコピーした、いわば分身とも呼べる存在
そして《クロ》はミドリ亀の姿をした力
守りを主として、防御壁やラピスの持つ回復の分野、ヒーリングを任せている
それぞれに色の名前を付けては居るが、なんせラピス・ラズリは紫色の能力
それぞれの体色は《紫色》だった
という説明はさておき……
墜ちるのどうにかしなきゃヤベェっす!!!
「がぶげげぇぇぇ! バガァァ!」
私はアカに助けを求める
【バカ!? 桃様まで何て事言うッピ!? ヒドいッピよ!!】
そんな事は言ってねぇ!
【ほら、バカだッシャ♪ 桃様も認めるバカだッシャな】
煽るなソコ!
アオだけに!
【ウッサいッピ! このアホ!!】
【アホじゃねぇッシャ! アオだッシャ!】
くっだらねぇ口喧嘩すんなし!
【ねぇ、桃様? 言葉じゃニャくても僕等は思いで会話出来るニャよ?】
そうか!
やっぱ頼りになる子だ♪
『皆助けて!! 墜ちてる墜ちてる! 山にぶつかる!!!』
【ウッサいアホ蛇革! バッグにする価値も無いッピ!】
【黙るッシャ! 焼き鳥バカ!】
『こんな時にケンカしてんじゃねぇ!!』
【ウヒャ!?】
【ウホッ!?】
『シロ! どうにかして!』
【了解ニャ♪ 先ずは空を飛べるアカとアオが桃様の肩に掴まるニャ!】
シロの指示で私は1羽と1匹を肩口に具現化した
即座にアカは2本足の鉤爪で右肩の制服を掴み、左側のアオは尻尾を脇の下から腕に絡ませ飛ぶ
が、多少減速を感じる程度に留まった
【落下速度に上昇が負けるかニャ…… 飛び上がるのが遅すぎニャね】
『どうすれば良い!?』
【そニャなぁ…… 先ずは山激突の回避ニャ♪ 方向変えるのは簡単ニャ! あっちの肌色の土地…… アレは砂漠っぽいから最悪斜めに落ちれば衝撃は少なめニャ♪】
『そうしよう! アカ、アオ頼むわ!』
【了解ッピ!】
【解ったッシャ!】
落下地点だった山から大きく砂漠に向けて移動する
その間にも上昇しようと試みてくれるアカとアオに感謝しつつ私は緊張がピークに達していた
だが今は私のセンスをフル稼働し、シロが指揮を取ってくれている
自分1人で解決出来たとは思えない
彼等には本当に感謝が尽きないね……
山への激突は完全に安心出来た時だった
先に言葉を発したのはクロ
【向こう…… 何か…… 見える】
私は言っていた方角に目を向ける
ソコには天までを繋ぐ1本の線が伸びていた
『アレ何!?』
【解らニャいけど…… あっちまで行って掴まったら助かるかニャ?】
『それより先に落ちそうだけど、向かうだけ向かってみよう!』
【了解ニャ♪ アカ、アオ! 方向調整頼むニャ!】
【オッケーッピ!】
【ういッシャ!】
高度はグングン落ちる
奇妙な力に引き寄せられているようにも感じた
いくら何でも空を飛べる子達に両肩から吊って貰っているのに……
何かが起きているのか……?
瞬間、ゾクリとした気配
いや、コレは視線!?
私は振り向いた
ソコには激突するハズだった山が聳える
随分落下した今の高度から見た山は、地球ではとても考えられないレベルの高い山だった
誰だ……?
何だ、今の見られている感覚は……
山の方角から感じた様な……
そう思ったが、今はそれどころじゃ無い
落下をどうにかしないと命に関わる
『どう!? シロ、何とかなりそう!?』
【落下速度と距離からすれば、あの地上から空に届く線まではやっぱり辿り着かないニャ…… 生きるの前提で別案あるけど…… やってみるニャ?】
『アンタのプランは信頼出来るからね♪ それやろう!』
【光栄ニャ♪ 行くニャよー!!】
シロは私達全てにリンクし、一気に指揮と説明を始めた
【桃様! アカの力を少し借りて、今の斜めに墜ちている先へラピス・バレット撃つニャ! ソレを全員のマーキングに決めるニャ♪ 弾は着弾が解る程度の大きさでオッケーニャ】
『あいよ!』
向けた指先、向かうは砂漠
ピンと伸ばした指はピストルの形
私は、私の落下地点であろう場所に向けて弾を放つ
ヒュンと音をたてた弾丸は凄まじいスピードで私達が墜ちる先に、小さな小さなクレーターを穿つ
【ばっちりニャ♪ アカとアオはあの窪み目掛けて飛ぶニャ! 極力減速も込みニャよ!!】
【あの窪みッピね!?】
【分かり易いッシャ♪】
『次はどうする!?』
【桃様は両手を隣り合わせに前に出して僕とクロを出すニャ♪ 後のタイミングは僕がニャんとかするニャよ!】
『了解! 頼んだわよ、シロ、クロ』
【お任せニャ♪】
【承…… 知……】
私は体の前に掌を突き出し、1匹の紫猫と1匹の紫亀を喚び出す
その直後、シロはクロを抱き抱えた
【行くニャよ、クロ! 離れんニャ!】
【離れるも何も…… 抱えている…… シロ次第……】
【うっせーニャ!】
【言葉遣い…… 桃様に…… 酷似……】
スーパー緊張感無ぇぇぇ……
一言言おうとも思ったがソレは止めた
シロの体毛が一気に逆立つ
そして足が……
特に後ろ足が大きく膨張した
【桃様! 地上に跳ぶから土台しっかり頼むニャ!!】
『解った!!』
強く前に突き出した両手
この落下速度よりも速く地上へ下りるとなると反動はかなりあるだろう
私は脱臼しないように肩に力を入れる準備も同時に行った
【行くニャ!!】
更に膨れ上がったシロの後ろ足
ソレを確認し、両腕と両肩に力を込める
彼等は私の掌を足場にして、一気に蹴り上げ地上へ向かった
強い反動で少し落下速度が落ちる
僅かではあるが、今の私には希望だ
そっか……
シロの奴、コレも見越していたのか!?
なんて頼りになる私の分身だろう
地上に空けた砂漠の窪み
ソコに蒼い光が迸った瞬間、ボバン!と音がし砂が舞う
素晴らしい……
自分達も間違いが起こらないように衝撃吸収とは♪
さすがは私のセンスの塊である分身体
私を客観的に見ている気分にもなる
私って凄くない!?
って自画自讃するのはココまでだ
先に到着した彼等が蒼い光を周囲に再度放つ
ソレが集まり、球体となり、そして……
コレは…… 円錐状!?
そうか!
私の能力眼は破壊と創造
その創造の力を用いた《変幻自在の盾》
クッションタイプのジェル障壁
円錐の先端を私に伸ばして私を包む
その中で一気に減速って事ね!
つまり、飛び込みなどで水に入水した時は一気に潜るけど、入った後は水の抵抗で減速する
しかも水抵抗の減速は体の負担が遥かに少ない
となると……
次に私が取るべき行動は1つだ
目を向けた先から、私に向けて伸びたジェル円錐先端
ソコに入水直前、私は体内にアカとアオを戻した
バチュ!!
体をネットリとしたジェルが覆う
それを見計らい、両手両足を大の字に広げた
水ならぬ、ジェル抵抗を過分にする為の行動
それにより思っていた以上に落下速度が落ち着いた私達は、少々の余裕を持って砂漠の地を踏んだ