6話 夢
私は久方ぶりに夢を見た
全てが真っ白な世界を私はパジャマ姿で立ち竦む
何も無い
見えている全てが純白だった
そして先が見え無い
右も、左も、後も全てがどこまでも続く…… 白
変な夢だな
率直にそう思った
私だけが居る
何か起こるのだろうか?
夢なんてモノはいつもそんな感じだ
深層心理
何か欲すればソレが現れる
空を飛びたいと願えば空を飛べる魔法の世界
ソレが、夢
特別、私は何も欲して居無い
だからいつの間にやら朝が来て、目覚まし時計がけたたましく私の睡眠を邪魔するのだろう
そう思って居たのだが……
やはり夢は夢
私の心の中をしっかりと映し出した
真っ白な世界、その目の前に大きなモニターが在った
在るというよりは、いつの間にか現れた感じ
どうせ何か欲しいモノとか映すんでしょ?
ブランド物のバッグとか……
いや、別に欲しくないか
んーーー……
食べ物とか?
テレビでやってた美味しいスイーツだな……
いや、今はそんなに食べたい気分じゃ無い
さて…… 何が映る事やら……
諦めにも似た思いを持った時だった
ブゥン……
そんな音を出し、モニターに浮かび上がったビジョン
ソレは……
《樹》だ
意外な事に驚きを隠せない
だが、驚くのはその背景だった
見慣れた学校だと直ぐに気付く
そしてソレは……
その場所は学校でタイミングを見て告白した、あの瞬間だった
「あ…… あのさ…… 桃花……」
モニターの中の彼が言う
「俺…… 俺な……」
心の中にブザーが鳴る
ヤメテ……
見たくない……
聞きたくない……
「ヤメテェェェ!!!!」
私が叫んだその瞬間、プツリと映像が切れた
何なのよ、コレは……
なんてヒドい夢なの……
私は顔に手を当てて、うずくまる
結果が見えているフラれ方などツラいだけだ
ブゥン……
また音が鳴るモニターにビクリと体が揺れた
恐る恐る顔を上げると、ソコにはまた、何かの映像が映し出される
見た事のある光景
ソレは、《公園》だった
まさか……
悪寒が背中を走る
考えていた事が、今正に…… 目の前へ映し出されていた
「ひな…… こ……」
彼女だった
私の顔を恐怖の表情で見る
「桃花…… その眼……」
彼女は言った
コレは何……?
何なのよ、コレは……
後悔……?
後悔なの!?
私の中の何かが後悔しているっていうの!?
ヤメテよ……
もう…… ヤメテ……
どうしてコウなったの……?
私が悪いの……?
《戻りたい》……
何も起きなかった
起こらなかった
伝えなかった
見せなかった
そんな瞬間に…… 戻りたい!
助けてよ……
誰か、助けて…… お願いよ……
私はモニターから目を背ける
だが、今までの映像からは予想もつかない優しい声が耳に届く
私は背けた顔のまま、目だけを見開いて居た
「選ばれたんわ桃花や…… アンタにあげたい物があるんよ」
私は顔を上げた
視界に広がる優しい笑顔
ソコには老婆が映って居た
忘れる事は無い、大好きな人
私の2人居る曾祖母ちゃんの1人
泉ばあちゃんの姿だった
「あげたい物?」
「そーや♪」
映像の中で会話が進む
コレは……
いや、コレも…… 私の記憶?
泉ばあちゃんは3階にある、自室へと私を連れて行った
ソファに腰を下ろし、隣に幼い私を座らせる
そして、言った
「いずれな…… 桃花の力が必要になる…… アンタが世界を救うんや…… 出来るかえ?」
「私? よく解んないけど…… それに私は何とかライダーになれないよ?」
「ならんでもええ♪ 世界を救う意思があるか、無いかやさ…… 今は解らんと思うけどなぁ」
私の視線が一度、足元に向く
子供ながらに思うことがあったのかも知れない
そんな細部までは覚えて居無いのに……
なんて鮮明な記憶なのだろう
足元に向けていた視線がまた泉ばあちゃんを映した
「うん♪ ばーちゃんがそうしろって言うなら…… する!」
「ばーちゃんは構わんよ…… 桃花がしたいよーにすれば良えて! 強制はしたくない…… 選ぶんは桃花や♪」
「大丈夫だよ♪ ルビーアイだね! あの物語みたいな感じだよね♪」
「あ…… ああ…… そうや♪」
泉ばあちゃんの書いた物語
私とイッちゃんに読み聞かせていた物
今は少し小さめにコピーして、私が作った御守りに入れている
内容は泉ばあちゃんと咲子ばあちゃんが世界を救ったという物語だ
でも、今の私は知っている
アレは物語では無い
泉ばあちゃん達の生涯を綴った《日記》の長い1ページ
実話だ
私達が世界を救う為に彼女達が残した《ラピスの遺産》なんだ
私はそれからも食い入る様にモニターを見続ける
イッちゃんや、ひなこの時とは比べ物にならない程の集中だった
「ありがとなぃ…… 桃花…… では、受け取っておくれ」
「何を?」
私は首を傾げた
彼女はその眼を見ながら、ゆっくりと瞼を閉じる
そして、泣いた
「ばーちゃん!?」
私の手が泉ばあちゃんの右手を取る
彼女は少し、微笑み……
そして、左手を上げた
ポトリとその掌に涙が落ちる
私はソレを見た
個体が乗っている
紅かった……
紅い種
【覚醒ルビーのシード】
それを体内から取り出した瞬間だった
泉ばあちゃんが、彼女の母から譲り受け、そして、今度は私に……
泉ばあちゃんからの継承の儀式が今、約10年の時を経て……
目の前で行われている
あの日を鮮明に……
こんなにもしっかりと私は憶えていたんだね……
「桃花や…… あの物語は…… 本物なんや」
うん、知っているよ
今の私は知っている
「本物?」
「そや…… 受け取ってくれるかえ?」
彼女は紅い種を、まだまだ小さな私の掌に優しく乗せた
「これ何?」
「コレはな、ばーちゃんが、ばーちゃんの母親から受け取ったルビーアイや」
うん、うろ覚えだけど……
こんな感じだったよね
「え? 物語の?」
「んだ…… だから、本物なんや」
「これで…… 世界を救うの?」
そうだよ、昔の私
「時が来たら、なぁ」
泉ばあちゃんは笑って居た
優しく笑って居た
そうよ……
泉ばあちゃんはいつも私とイッちゃんに期待していたんだ
受け取ろうよ、ねぇ…… 私
「わかった! ばーちゃんの心だね! 受け取る!!」
「ありがとなぃ♪」
こんなに……
こんなにも愛されていた
なんて素敵な笑顔だろう
そして、私は力を持った
泉ばあちゃんが覚醒ルビーアイの種を飲み込み易いようにと階下へ水を取りに行ってくれているにも関わらず、私は泉ばあちゃんの期待に応えようと必死に種を飲み込み……
そして物語であり、真実が記された日記の内容を思い出して……
私は、私の曾祖母である咲子ばあちゃんの力、圧縮したルビーの弾丸を具現化した
指先に集まる力の塊
ソレで泉ばあちゃんの部屋の窓を消滅させたんだっけな
窓を壊し、親に怒られると思った恐ろしさ
そして理解不能な力に怯え、私は泣いた
そんな私だったが泉ばあちゃんは微笑んで居た事は今でも忘れない
驚きもありながら、それでも何だか嬉しそうに……
そして彼女は言った
「今の怖さ…… 忘れてはならんよ? ええか、桃花…… 【人の理解を超える力は恐怖を呼ぶ…… それと共に憧れと嫉妬を持つ…… ひいてはココに居られなくなる…… 覚えとくんやで】……」
「憧れと…… 嫉妬……?」
「そーや…… 今は解らんでもええ…… でもな、今の怖さ…… 力…… ありえんやろ? 桃花…… お前は世界を救う者になったんや♪ 人には見せたらあかん……」
「人には? イッちゃんには?」
「樹にもまだや…… いずれ返しに来る…… その時までは待っておくれや……」
「待つ? 誰を?」
「神様や♪」
「神様? 本物の物語…… 加藤さんが返しに来るの?」
泉ばあちゃんはあの日の私の頭を優しく撫でた
「本当に桃花は頭がええのぉ♪ そう、加藤さんが返しに来る…… 世界を救う、最後の一欠片をなぁ♪」
「最後の一欠片…… ラピス…… ラズリ……」
「お前と樹は世界を救う…… この美しい世界…… 頼んだで♪」
「うん、頑張る♪」
「ありがとなぃ♪」
泉ばあちゃんはまた、優しく頭を撫でた