5話 天使の寝顔
私のベッドで気持ち良く眠る妹達
イッちゃんの妹だが、私にとっても妹の様なものだ
本当に可愛い
私の後悔なんて忘れさせる天使の寝顔
いずれ…… いずれ、もしも私が世界を救う時ってヤツが本当に来るのであれば、私はこの妹達の為に戦いたいと思う
優しい寝顔、瞳を閉じる妹達
そういえばベッドを占領され、私はどこに寝れば良いのだろう……
床は流石にちょっと…… 嫌だ……
「まったくもう……」
私は呟く
そして、彼女達の寝顔に魅入る
優しく微笑みかけ、私は人差し指を立てた
指を向けた先は妹達の頬
「こんにゃろー♪」
そう言っては柔らかく突きまくる
「んぁ……」
「んぁ……」
寝ていた彼女達が私の指を払った
そしてゆっくり開いた2人の瞼
虚ろにゆらいだ視線が私に止まる
「あ…… もーちゃん? お帰りぃぃ……」
「お帰りぃぃ……」
もーちゃんというのは私の事だ
牛みたいで嫌だって以前言ったが、呼びやすいらしく直そうとはしない
「あ、ごめん! 起こしちゃったかな?」
「んーん…… 大丈夫だよぉぉ……」
そう言う彼女達は両手を広げた
「ん♪」
私は頷く
そして妹達を抱き締めた
今は夜だ
余計な話はしない
子供は本来寝ているはずの時間なのだから当たり前だ
睡眠時間が無くなってしまうのは姉としても申し訳なさを感じる
だから私は刺激を与えないよう、ゆっくりと2人の間に入り、3人で川の字に…… いや、私が真ん中なのだから《小》の字になったのが正しいかも知れない
私が横たわると即、両腕にしがみつく泉と咲子
実に可愛い
イッちゃんの妹にしておくのは勿体ないとさえ思う
そんな彼女達の1人、泉が唐突に言った
「ねぇ…… もーちゃん?」
「ん?」
「整ってる?」
整う?
何がだ?
「それってどういう事?」
「トールちゃんが言ってたの」
「トールちゃん? 友達か何か?」
私は訳が分からず聞き返す
だが、ソレを遮ったのは妹の咲子だ
「いずちゃん…… トールちゃんじゃ無いよ…… トルちゃんだよ」
「そうだっけか? ん…… 違うよ…… トルースちゃんだよ」
「ん? あ…… でもちょっと違う気がするよ? 何だっけなぁ?」
コンビ漫才の様な会話を続ける少女達
だが、先程まで寝てた彼女達からすれば表情は真剣に見える
「トルースちゃんって子がどうしたの?」
「うん、《整ったら明日だと思う》って言ってたよ」
やはり意味が解らない
「さっきまで寝てたのに悪いんだけどさ…… どういう事なの、それ?」
「昨日の夜にも会ったんだ♪」
「たまに会うよね♪」
「誰に?」
「トルースちゃん♪」
「トルースちゃん♪」
いや、言ってる意味が分かりません
「ふ、ふーーーん…… って…… ん!?」
今なんて言った?
夜に会うって言ったのか?
夜にどこで……
ココで?
私の事を知っている人?
「トルースちゃんって…… 誰……?」
まさか夜中に窓から眺めるストーカーじゃ無いだろうな……
そんなの怖すぎる……
嫌な汗が背中に滲む
ソレを彼女達は妙な言葉で払拭した
「トルースちゃんは、もーちゃんだよ♪」
「そそ! もーちゃんだよ♪」
「私がトルースちゃん?」
「うんうん! 夜に出て来るの♪」
「そそ! 出て来るの♪」
どういう事かさっぱりだ
私の中に別人格でも居るのだろうか?
いや、居無い訳では…… 無い
私の中には、私自身が分けた《4つの力》がある
それらが夜な夜な私を動かしているのだろうか
心配になった私は心の中に語り掛けた
『アンタら…… まさか……』
【違うッピ!】
【有り得んッシャ!】
【違…… う……】
【僕らじゃ無いニャ♪】
『……ホントね?』
【誓うニャ♪ そもそも僕らは桃様の意識に反応するニャ…… ニャから基本的に桃様が寝れば、僕らも同じく寝るって事ニャ♪】
細かく説明したのは《シロ》だ
私から彼等の説明は省くとしよう
いずれ話すときが来るだろうからその時にね
とりあえずは彼等が私に無用の嘘をつくとは思えない
少々の安心をして、私はまた妹達に話し掛けた
「えっと…… なんだ…… トルースちゃんってのは私の体を動かしてるの?」
「んーー…… もーちゃんだからもーちゃんだよ?」
「うん、もーちゃんだよね?」
やっぱり意味が解らない
「あ! 思い出したよ!」
唐突に声を上げたのは咲子
「名前は沢山あるけど、今はマイちゃんなんだよ♪」
「そだ! マイちゃんだ♪」
ドキリとした
トルースと云う名に心当たりは無かったが、マイには思い当たる節がある
そんな事は有り得ないのだが、妹達は実際会っている
雰囲気からすれば会話すらもしている
表に出て来ているのだろうか……
いや、まさかね……
「あのさ…… マイって……」
そう呟き、両隣に顔を向けた私
ソコには目を閉じ、寝息を立てる彼女達の寝顔があった
寝ちゃったか……
もう少しだけ聞きたい事があったんだけど……
でも起こすのは酷だ
私もまた、妹達を傍らに目を閉じた
私もなんだか妙に疲れた
今日は沢山の事があったから当然だ
イッちゃんにフラれた事もそうだし、何よりひなこの件
大切な友達を失った
人生ってキツい
本当にそう思う
でも、今は……
今だけは忘れられるモノなら忘れたい
両隣で眠る妹達に目を向ける
彼女達はムニャムニャと口を動かしていた
そして、寝言を言い始めた
「もーちゃゃゃん……」
好かれている姉というのは嬉しいものだ
それにこんなに可愛い妹達なら尚更ね
「もーちゃゃゃん…… いろんな事あってぇぇ…… でもぉぉ…… 泣かないでねぇ……」
「もーちゃゃゃん…… 大変だろぅけどぉぉ…… 頑張って来てねぇ……」
「え?」
何を言っているのだろう
というより、どんな夢を見ているのだろう?
妙な言い方だ
私の今日が見えているような
そして、私のこれからが見えているような
そう取れる言い回し
それに彼女達が言っていた《整う》とは何だろう?
いや、直接聞いた方が速いよね
考えても解るわけが無い
明日の朝にでも聞いてみようかな……
そして私は再び目を閉じた
《明日》、目覚める事の無い瞳を閉じた事を知ったのは、《明日》の事だった