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ルビーアイ princess momoka  作者: アゲハ
2章 カタストロフィ
30/308

30話 信頼関係

私は走った


ミヤの元に


そして振りかぶった手をパンッッッ!


そのまま彼の頬へ振った





周囲に響く音


カランと落ちる直刀


私はソレを拾い上げ、抱き抱えた




隣では目を丸くしたレイジが私を見ている


だが、私は彼に目もくれずミヤへと叫んだ




「アンタ…… 何やってんのよ!?」



「痛っってぇなぁ…… ったくよぉ…… つーか誰だよ、お前」



「私は桃花よ!」



「ふーーーん…… で?」



「この刀は貴方のパートナーなんでしょ!? ヒドい扱いしないで!」



「何言ってんの、お前? そりゃただの武器だろうが…… 意思でも持ってるって言うのか? どこのメルヘンだよ…… ヤレヤレだな、イカレてるぜ」




私の中に悲しみが渦巻く


刀から伝わってくる……


コレは……


この刀は…… ()()()()()




「アンタ馬鹿(バカ)なの!? この子は生きているじゃん! 私にも伝わってくるもん」



「君は…… 誰だ? 刀の心が解るのか?」




呆れた顔を向けるミヤの隣でレイジは呟き問い掛けた




「桃花だってば! 刀の心とか知らないし! ていうか貴方は師匠なんでしょ!? なんでこんな扱い方を許してるわけ!?」



「すまない…… いつかは解ると…… 解ってくれると思って居たんだ…… 俺の育て方が…… 間違ってるんだよな、やっぱり……」



「当たり前でしょ!」



「そんな事はどうでもいいし、俺をぶったのも無かった事にしてやるからよ…… まずは俺の刀返せ」




手を向けたミヤ


体を捻って拒否する私




「アンタにこの子は任せられない!」



「ふざけんなよ、お嬢…… 俺が俺の刀をどうしようと勝手だろうが」



「勝手かどうかをお前が判断すんな! この刀がアンタの相棒で…… でもアンタは道具としか見ていない! ソレが悲しくて悔しいって…… そう言ってるのよ、兼光が!」



「はは♪ お前、本当に頭は大丈夫か? 武器に魂なんてある訳ねぇって言ってんだろ」



「頭がどうかしてるのはアンタの方よ!」




ミヤが白い眼で睨む


私も睨み返す


こんな奴が主じゃ兼光が可哀想だ




「まぁ、その無礼も許してやるからよ…… とっとと返せ」



「ヤだ!」



「舐めるなよ、女…… いい加減にしろ」



「うるさい! バカ男!!」



彼が掴み掛かった


それでも体を振り耐える


胸元に伸びるミヤの手が兼光を掴み取り上げたが、私はその直後その手を叩いた




衝撃で彼の手から離れた刀が宙に放られる




クルクルと回転しながら……




また貴方が傷付くの……?




こんなに粗雑に扱われて尚、また地を転がるなんて……




そんな姿を見たくない




そう思った私は、心のまま叫んだ




「兼光! ダメェェェェ!!」




伸ばした私の手


いまだに廻り落ちる直刀







その瞬間、《時》が止まった






回転をしていた刀


ソレが…… 静止()まっていた






え?




何が起きているかも解らず、私は隣を見る


ミヤもまた止まって居た


だが、信じられないモノを見るかの様に《まばたき》をしている




時が…… 時間が止まった訳じゃ無い……




回転が《静止()》まったんだ……




()()()()()()()……




「そっか…… 桃花だったよね…… 呼んでごらん、兼光を」




背後で()()()がそう言った


促した私は何の事か解らず、レイジと、宙に浮く兼光を交互に見る


そして呟く様に、言葉を口にした




「あ…… えっと…… おいで、兼光……」




キィィィィン……


突然の耳鳴りに目を瞑る




そして何かが私に触れた気がした




目を開くと、私の手に刀が納まっている




()()




飛んできたの?


私の元に……?




「やはりか……」




また後ろに立つレイジが呟く


私は刀を手にしたままゆっくりと向き直り、彼に視線を止めた




()()は……?」



「君の()()()()()んだ」



「この子が? 私の心に?」



「ああ」




理解が出来ない状況に私は視線を游がせる


その時視界に入ったミヤの顔には悔しさが(にじ)んでいた




「なぁ、ミヤ?」




レイジは彼に視線を移す




「何だよ、レイジさん……」



「コレが信頼関係だ…… 解ったろ?」



「解んねぇよ……」



「くっ…… この…… バカヤロォォが!!」




大きく掲げた拳


そして振り下ろしたソレは凄まじいスピードでミヤの顔にめり込む


ズボギュっと不快な音を鳴らし、ミヤの体は数メートル吹き飛び地上を数回バウンドして…… 動きを止めた




「カハッッッッ! ゲホッ…… いきなり何すんだよレイジさん!!」



「何も解ってないのか!? 本当に何もか!? 見せてくれただろうが! この子が…… 桃花が本当の信頼関係を!!」




レイジが歩く


進む先は殴られ飛んだミヤの元




辿り着くと彼の襟を掴んで無理矢理立たせ、そしてまた殴った


蹌踉(よろ)めくミヤを引き寄せ大きく揺さぶるレイジが()える




「兼光は道具じゃ無い! 彼には心がある! お前の様に、ヒトの様に心があるんだよ!」



「解んねぇよ…… 俺には聞こえた事が無いから……」



「それはミヤが最初から兼光を突き放し、道具だと思い込んで居たからだ! 兼光がもっと強くなれだと!? ふざけるな! 強くなるのはお前の心だ!!」



「レイジさん……」



「ミヤよぉ…… 甘ったれた事を言ってんじゃねぇぞ!! いつまでもガキじゃ居られ無いんだよ!」




ミヤは固く目を閉じる


そして下唇を強く噛んでいた


千切れたソコから流れる血


ポタリと、またポタリと落ちるソレは赤い涙の様にすら見える




そんなミヤの姿に少し、冷静さを取り戻したのだろうか


レイジの表情は少し緩み……




そして襟元を掴んだ彼へ優しく言った




「俺もな…… 昔は甘ったれた事を言ってた…… ソレを説き伏せてくれた女性が居る…… 甘っちょろい事を言うなってな」



「その女って…… レイジさんより強いのかよ……?」



「ああ…… 俺には逆立ちしても勝てないだろう」



「そんなに……」



「なぁ、ミヤ…… 大切な友が敵として向かってきた時、お前ならどうする?」



「俺は…… 倒すよ…… そして説得する……」




ミヤは答えた


真剣そのものだということは、表情を見ていても解る




だが、レイジは顔を伏せていた


そして笑っている




「なんか…… 俺…… また間違ってるか? レイジさん」



「ククク…… いや、間違ってるけど…… 間違ってない」



「どっちだよ…… それに何で笑うのさ……?」



「お前は本当に()()()()()()なと…… そう思っただけだよ」



「似ている? 俺とレイジさんが?」



「ああ♪」




そこでようやくミヤの襟元を掴んでいたレイジが手を離す


そして乱れた彼の襟を直し、ポンと肩に手を乗せた




「ミヤ…… 全く同じ言葉をその女性に言ったんだ、俺はね」



「……そして?」



「その友が罪人で処分対象ならそれでも説得するのか? そう言われたよ…… 説得が効かない相手でも説得するのか、とね♪ 相手も死に物狂いさ…… 俺が死んだら救える命も救えない…… だから倒すじゃ甘い…… 殺すか、殺されるかの2択だと」



「2択しか無いのか……? 他には無いのかよ……?」



「あるかも知れないが…… その時の俺はそれ以上の答えが見つからなかった…… あの方の言っている事がとても…… とても正しく思えたからな」



「何で……?」



「俺にはあったんだよ、あの日…… 確かに2択を…… その2択を迫られた状況だった…… ソレが選べない甘さがあったから彼女は死んだ」



「彼女って…… レイジさんがよく寝言で口にしてた《レシア》って人なのか?」




レイジはYesと答えなかった


ミヤの目を、顔を見ているだけ


ただ、とても悲しそうな表情を向けるレイジは言葉を交わさずともYes……


そう答えていた




多分、認めたくないのだ


《レシア》という女性の死を……




「なぁ…… ミヤは俺と同じ状況に陥った時、同じ結末を迎えるんじゃ無いぞ…… 俺がお前の修練に付き合って居るのはその為なんだ…… お前の未来はお前が勝ち取れ」



「俺が?」



「そうさ♪ 兼光の信頼を裏切ったお前は、その倍以上に信頼回復をしなければ成らない…… だが、俺は信じている…… ミヤなら出来る、そして俺を超えるとね」



「俺がレイジさんを超えられる訳ないだろ……」




そう言ったミヤは目を伏せた


私にアレだけ粋がっておいて、今度はネガティブってどゆこと!?




もう…… イライラするなぁ……




「ミヤだっけ? アンタねぇ、覚悟が足りないのよ」




突然発した私の言葉に彼は目を見開く


怒りでも無く悲しみでも無く、ただ…… 私を見ていた




「ねぇ、ミヤ…… 超えられる訳無いって最初から決め付けてない? 言葉にしてみなよ、俺はレイジさんを超えるってさ!」



「とはいえ……」



「はい、ネガティブ出ました! 無理を無理と言うのは容易いけどさ…… 無理でも《やる》と言葉にした人には可能性が生まれるんだよ! 取り敢えず言ってみたら?」




ミヤは私から視線を外し、レイジを見た


まだ少し覚悟の揺らぎが見える


でも、それでも…… 彼は言った




「俺は…… いつか…… 絶対にレイジさんを超えるよ」




レイジはとても嬉しそうな表情を浮かべている


弟子というよりも、成長した我が子を見ているような……


そんな優しげな眼差しだ




「楽しみにしてるよ、ミヤ」



「ああ…… 楽しみにしててくれよ……」


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