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ルビーアイ princess momoka  作者: アゲハ
1章 始まりは後悔
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2話 決断と決別

道場に出向いてからする事は修練のみ


正拳突き、順突きに逆突き


中段前蹴りから上段回し蹴りへのコンビネーション


基本を主として応用に移る


私の相手は決まって《ひなこ》だ


というより、彼女以外は相手にならない






そしていつも通り真剣に(おこな)った今日の修練はあっという間に幕を下ろした






道場から出た時には22時を周り、もう外は真っ暗


特別大きくは無い町


輝いているのは近隣の家の灯りと星空位だ






私達は帰り道で公園のベンチに腰を下ろした






いつもの明るい時には感じない恐怖がある


それでもそんな恐れを抑えてくれるのは意外な光量を放つ3つの街灯だった




「ほい!」




そう言って渡してくれた缶ジュースをパシリと受け取る




「ありがと♪」




私は彼女に感謝を伝え、プルタブをプシュリと開けた



コクリと一飲み咽を潤す




「ねぇ桃花?」



「ん?」




私は彼女へ向くこと無く答える



ただ、その後に彼女が言った、




「なんでさ…… 本気出さないの?」




その言葉には驚いた





私は良くやっている方だと思う


()()()姿()が、だ




「本気? 何の事?」




私は彼女へ視線を掛けず、全くの平常心で聞き返した


勿論、言っている意味は解る




「やれやれ…… それで隠しているつもり?」



「だから何が?」



「あんたねぇ……」




ひなこはフゥと溜息を吐いた


それでも尚、私は彼女を見ず、夜空に目を向ける



怖くて彼女を見れなかった



裏切りと思われても仕方がない




「ねぇ桃花…… 貴方の本気…… それで隠してるつもりなの? って事よ」




解っている


改めて言われなくても理解はしているんだ





どういう訳か彼女にはバレている様子



何が原因だろう?



今後の為にも私は問うた




「なんでさ…… そんな事言うの?」




私が『バレてたのね』と聞き返さなかったのは、万一にも余計な会話でボロを出したく無かったからだ


ギリギリまで彼女の情報を聞き出した上で、必要な分の言葉を与えようと思った




ただ、彼女とは小学生からの本当に長い付き合い




そんな陳腐な考えは即座に瓦解した





「ねぇ、バレてないと思ってたの? 桃花さ、私が大会でポイント取った時にホッとした顔するよ? 気付いて無かったっしょ? そんでね、アンタがポイント取った時はヤバいって顔するんだよね」




何て事だ


確かに気付いて無かった




大会は特に彼女へ勝たせてあげたいと願って出場している


それが彼女には不思議でならないのだろう




言うべきなのか


そうでは無いのか




泉ばあちゃんから受け取った言葉を反芻(はんすう)する




《人の理解を超える力は恐怖を呼び、やがて憧れと嫉妬を生む》




言うべきでは無い




だが、彼女は知ってしまった




逃げる事は……




許されるのだろうか?




私は彼女が友達で本当に良かったと心から思う




言うべきでは無いのに……




絶対にそのはずなのに……




私は彼女に、ひなこに、その心に…… 向き直る選択をした




後悔する事が解っていても、私は彼女に隠し事は出来なかった




もう、少なからずバレてしまったのだから……




「ねぇ、ひなこ……」



「何?」



「私ね、すんごい強いの……」



「言うねぇ♪」




彼女は軽く(あざわら)


だが別に構わない、そんな事は……




「私さ、超能力みたいな事…… 出来るんだ」



「ほう!」



「だからね、本気出すと…… どっちで勝ったのか解らないし…… そういう意味ではツマラナイ」



「どっちって?」



「私の実力か、願わずに発動した力か、よ……」



「ふーーーん…… じゃあさ、見せてよ?」




やれるものならやってみろ


そういう事だろう




この力を見せれば、多分、彼女は私から…… 離れる




でも、それでも……




私は幼なじみである彼女が好きで、これからもずっと一緒に居たいと思う




だから、()()()()()








私はベンチに座ったまま、彼女を見る


ひなこもまた、私を見ていた


手に持つ缶ジュースに目を向け、口元に運ぶ


そして、残りを一気に体内へ流し込んだ






中身の無い空き缶





ソレを約20メートル先、公園敷地内の街灯へと向けて投げる


方向は合っていたが、その街灯の遥か手前に落ちた空き缶は数回のバウンドの後、コロコロと転がった


出来れば街灯下が良かったのだが、照明の範囲内に在るため充分位置が解る






「こらこら! ポイ捨てはダメっしょ!」



「うん、そうだね……」



「解ってんなら何でそんな事すんのよ!」




彼女は私に向けていた顔をしかめる


そんな事はお構いなしに語り掛けた




「ひなこが…… 本気見せろって言ったからよ」



「お! 見せてくれんの?」



「うん、良いよ」




私はうっすら浮かべた笑みを返す


彼女は何が起きるのか楽しんでいる様子だ




「ひなこ…… あの空き缶取ってきてくれる?」



「ヤだよ! 自分の事は自分ですること!」



「見たいんでしょ? 力を……」



「ん…… んーーー…… やれやれ、解ったわよ!」




渋々とベンチ隣から立ち上がり投げた空き缶へ歩く彼女


静かな住宅街の一角にある公園


スタスタと足音が私の耳に届く


そして彼女が、私と空き缶との間を4分の3程度進んだ時に、私は言った




「ねぇ、ひなこ」




足を止め、彼女が振り向く




「なに?」




聞き返すひなこ


私は彼女に微笑み、言った




「私は…… ()()()()()よ」



「はぁ? 見りゃ解るでしょ?」




首を傾げ疑問を映す顔




「解ってるなら良いよ」



「だから何が!?」



「私が、ココに居る事よ」



「言ってる意味が解んないですけど!?」



「もう一回、空き缶見て」



「なによ、指示ばっかり…… はいはい、コレで良いの?」




彼女は私から顔を背け、空き缶の位置を確認する


そして私に向き直った




「はい、確認しました! 桃花様、次の御指示を下さいな!」



「ありがと♪ じゃあさ、私が本気でその空き缶拾いに行くから、私よりも速く拾ってね」



「アンタさ…… 何メートル先に私が居ると思ってんのよ!?」



「些細な距離じゃ無いよ」



「言ったね……? じゃ、合図は?」



「合図は要らない…… ひなこが走った直後に私が走るから」



「オッケー……」




両手を広げて肩をすくめる彼女



だが……



一気に振り向き空き缶へ走った



不意打ちのつもりだろう



距離が距離だ



直ぐさま空き缶に到着し、手を掛ける






その隣に、《私が居た》





「え?」




顔を上げた彼女


その手には何も無い





在るのは、私の手だ


空き缶が握られているのは……




「ど、どういう事……」




私は答えない


ただ、笑っていただけ




そしておもむろに空に向けて空き缶を投げた




放物線を描くソレ




私は落ちる先に右手の人差し指と中指を向けた





ピストルの様な形


そして力を向ける


紫色に輝く指先から何かが放たれた




放たれた先はどこでも良い




おおよそ空き缶というだけだ




コレは泉ばあちゃんから覚醒ルビーを受け継いだ際に私の感覚が形作り、初めて放ったルビーの弾丸



今や加藤さん…… いや、神様から返却して頂いた咲子ばあちゃんのラピスが相まって威力もスピードもあの時の比では無い



そして、私の弾丸はその進化を更に超えた



神の眼の弾丸(ラピス・バレット)



私のソレには《意志》がある




「よろしくね、《アカ》……」




私は呟く




【了解ッピ♪】




脳内で何かが応えた



圧倒的なスピードで放たれた紫色の弾が空き缶に当たらず飛び去る



次の瞬間、パン! っと(はじ)ける空き缶



確かに飛び去ったハズの弾丸は舞い戻り、空き缶の残骸を空に散らした



それだけでは無い



飛散した残骸を更に細かく撃ち、この世から完全に消去(デリート)した



ココは公園だ



子供達が怪我しては困る



そんな思いで放り投げた空き缶の全てを、その存在を消した



私は指先を空に向けたままの姿で止まっている



そんな私を見たまま、ひなこの時間も止まっていた






ゆっくりと手を下ろし彼女へ向き直る


そして微笑んだ




「信じられないかも知れないけど、コレが私の力よ」



「桃花……? 今の…… 何? 何なの…… 今のは…… それに…… その()()()()は……?」




彼女の顔には明らかにいつもの笑顔以外の感情が映る


理解が出来ない何か


そんなモノを見る眼差しだ


ひどく取り乱し言葉を詰まらせながら視線が激しく動く




「最初のさ…… 空き缶拾いの時は、私の力で筋力を増加した…… 空き缶撃ち抜いた方は、文字通り力を集中させて放った…… 弾丸をね」



「そ、それが…… 桃花の超能力……」



「そう…… だからね? 無理なの、本気は…… 私は常人じゃ無いから…… そして能力眼の発動時に目の色が変わるのよ」




私は彼女に笑い掛けている


ひなこは私と真逆の顔を浮かべていた


今度の表情は実に分かり易い





コレは、恐怖だ





そうだよね、そんな顔になるよね





「ゴメンね…… 今まで…… ありがとう」




私はさっきまでのベンチに戻った


そして荷物を肩に掛ける




「え!? 桃花…… ま、待って!!」




呆然と立ち尽くして居た彼女が私の背中に向けて叫ぶ



私は振り返らない



大切な親友だ



もう、そんな顔は見たくない




「待つ必要は無いよ…… 私の本気にさ、ひなこが気が付いてても別に良かった…… でも、ソレを私に言ってしまったら…… 私は貴方から逃げたく無いから…… だから、コレが結末よ」



「ちょ…… 待ってよ…… 話を…… 話を聞いて……」



「じゃあね、さようなら」



「待ってってば…… ねぇ桃花…… 桃花ぁぁぁ……」




彼女は私に歩み寄る


でも、その足取りは重い


震えだ






ガクガクと揺れる足


聞こえる足音がおぼつかない





でも、彼女に手を差し伸べる事は出来ない





決別の時だ





大切な





本当に大切な親友





別れとはこんなにシンプルなモノなのだろうか





歩き去る私の耳に、もう彼女の足音は聞こえなかった

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