16話 最高機密
お食事処、店内の窓
ぼんやり眺める景色
集中していないと、こんなにも感覚が広がるのか?
所々から聞こえる客の声
会話がダイレクトに耳へ届く
いつもは外食の待ち時間にスマートフォンを使っていたから、何も無い世界だと本当に人らしく在る、そう思えた
そんな耳に届く会話の中
仕切り板を隔てた隣席の声に私の聴覚がフィルターを掛ける
姿の見えない隣席の声は女性…… 2人組かな?
彼女達の会話に《最後の戦い》というワードを捉えたからだった
「最後の戦いは多分…… もう直ぐですよ」
「そっかぁ…… アタイも出張んのかい? ダルいわぁ」
「そんな事言わないの! ミコちゃんはダイヤモンド所持者でしょう? ならコレは運命です」
「んな事いったってさぁ…… アタイだって仕事あるんだよ?」
「毎日毎日お酒飲む仕事ですか?」
「う…… ソレも大切な……」
「己の本分を忘れるのはどうかと思いますよ」
「でもさぁ……」
「2度同じ事を言わせないでね、ミコト……」
「あの…… 怒気含ませてフルネームは止めて…… ムゥちゃん」
「なら、やるべき事をなさい」
「はぁぁい……」
「だらりと長い応答はいけません…… はい、とハッキリ言う事」
「はい……」
ズボラな人とテキパキした人の会話だったか……
酒好きズボラっぽいのは《ミコト》
テキパキした、そして妙に上司風の女性は《ムゥ》というらしい
最後の戦いって言葉の先が聞けるかと思ってたのにな
少し残念な気持ちを持った時だった
私が求めていた内容に付随しそうな会話が始まり、また耳と感覚を凝らした
「ノア様とムーン様が最後の戦い…… その準備を最終段階まで進めています」
ノア、ムーンって……
いや、ムーン!?
さっきは気が付かなかったけど、思い出した!
泉ばあちゃんの日記に載っていた前神様と現神様、加藤さんの前世の名だ!
「へぇ?」
「天啓という、確立された物事よりも曖昧な意味を含ませて民に広げ終わってますからね」
「つまり…… どゆこと?」
「間もなく現れるのでしょう」
「誰が?」
「プリンセス……」
「王女様って事? 誰それ?」
「名前までは解りません…… 最高機密ですから」
「ふーーーーん……」
「まぁ、なんにせよ他次元…… というより、ノア様が守護なさっている星かも知れませんが…… その星の者なのでしょう」
「異星人って事? だったらムーン様だって似たもんでしょ?」
「ええ、ムーン様の世界の住人でしょうね♪ 確率は低くない…… ムーン様の国の言葉を理解するのに都合の良い《種》を世界の人々に与えたのですから」
「それでか♪ でもアタイ達にとっても翻訳されたみたいで都合が良いけどな!」
なんて会話だ……
本当に凄い会話を聞いてしまった
コレは、この人達は神様に付き従う者達だ、絶対に……
会話の内容が濃すぎる
そして、その内容が最も興味深く私の覚悟を擁立した
【コレは…… 桃様の為だニャ……】
突然、意識に声を掛けたシロに私は頷く
そう、私だ……
私の為に《言葉と文字を統一》したんだ
私がこの世界で迷わないように……
私がこの世界でコミュニケーションを取れるように……
私が何の心配も無く戦えるようにしたんだ
日本のお金まで使えるように工夫までして……
『アンタら……』
私は心で語り掛ける
【大丈夫ニャ♪】
【ういッシャ♪】
【やる気出るッピな!】
【更に…… 覚悟…… 高まった】
『だね! とっとと食事済まして宮殿向かおうか♪』
【【あい♪】】
「まぁ、プリンセスが訪れたら私には多分解るでしょうし…… それに彼女の今後の戦い、その準備段階で行う役割も見当が付きます」
仕切り越しのムゥという女性が再び語り出す
「なんで解んのさ?」
疑問を口にしたミコト
私だってソウだ
その先を聞きたい
コレは大事な話だ
私の気持ちの整理をする為にも聞き逃すのは不利益
感覚を更に増した耳を私は傾ける
「それはね……」
「カレーとオニオンスープ、お待たせしました♪」
突然割り込んだウェイトレスに驚き、私は仰け反った
「あ…… あ、はい! えっと…… 有難う……」
「こちらはスプーンになりますが、フォークもご使用なさいます? それにお箸もご用意できますが?」
「あ、いえ、大丈夫です…… スプーンだけで……」
綺麗な声のお姉さんに癒されはするが、先ずは隣席の会話が聞きたい
私の今後に重要な会話なんだ
「お客様は当店初めてでございますか?」
「え…… はい、そうですけど……」
だから先ずは隣の話に聞き耳立てたいんだってば!
ウェイトレスに言いたい!
だが、ある意味盗聴みたいな行為をしたいと言えばドン引きされるだろうから言えない!!
「でしたらポイントカードがございますのでお作りしましょうか?」
「あ、あの……」
「当店のポイントカードは100ゼニエンで1スタンプ♪ 1スタンプは10ゼニエンと等価でお使い頂け、実質10%引きになりますし、カードは無料で作れます♪」
「うん、あの…… 後で作るから……」
「後でですね♪ 承知しました!」
良かった!
早くアッチ行って……
「そうだ! お食事後に直ぐ書けるよう、申込書とペンを持って参りますね♪」
アッチ行けぇぇぇ!!
でもカワイくて言えなぁぁぁい!!
「わ、解りました…… お願いします……」
「はい♪ 少々お待ち下さい!」
ニコリと笑うウェイトレスが踵を返し、厨房に戻って行った
それを見計らい、即座に隣席へと耳を傾ける
「と、こんな流れになると推測できます…… さて、この話はココまでにして、食事を楽しみましょう♪」
会話が終わってるぅぅぅ!!
ヒドいよウェイトレスさん……




