15話 お食事処
「あれ!? 言葉が通じるの!?」
どういう事だ……
私はこの世界の言葉を理解しているのか!?
「ん? ああ! お前さん、他国の人間かい?」
いえ、他国では無く、他次元です……
無理だ!!
そんな事言えないじゃん!!
「ま、まぁ…… そんなトコ…… かな?」
「そうかいそうかい! 他国の人はよく同じ姿で落ち込むから大丈夫そうで良かったよ」
「同じ姿でって?」
私の様に別次元の人間が居るのか?
「いやね、この町は結構発展してるからよぉ…… 集落とかから来た人間は自分の住んでいた所とのギャップに落ち込むんだわ♪」
そういう事なのね……
「なるほど! あ、いや…… 私の落ち込みはチョット違ってて…… 言葉通じるんだなぁって思ったんですよ」
「ほう! 面白い事言うお嬢ちゃんだな? この世界は数年前に《ソウル・ワード》ってのが支給されてよぉ…… 言葉を変えれば《魂語》と《魂字》つってな、心で話して、心で書く♪ だから伝えたい様に話せるし、伝えたい様に書けるのさ」
凄い……
なんてコミュニケーションの取りやすい世界だ……
世界統一の言語と文字なんて翻訳機要らないじゃん♪
「言葉が通じるのは助かりますね♪」
「そうだな♪ でも昔は土地によって多少バラつきがあったんだよ、訛りも含めてな」
「え!? ソレを統一したんですか?」
「統一っていうか…… この世界のヒト全てがまんべんなくコミュニケーション取れるようにムーン様が創り上げたのさ♪ 皆が同じ言葉を話せる《種》を貰ったんだ」
ムーン様って誰だろう?
私はその疑問を問いかけた
「あの…… ムーン様って?」
「なんだ嬢ちゃん…… ムーン様を知らねぇのか? そりゃどこの田舎だよ…… ムーン様は現在の神様さ!」
神様!?
神様は私の曾祖母ちゃんの母親、その友達の加藤さんじゃないのか!?
どうする?
聞く……?
いや、ダメだ
私が無知なのは田舎から出て来たからだと思って居る
なのに細部だけは妙に物知りだと違和感を持つだろう
だから私は聞くことをせず、話を戻した
「凄いですね…… あの、もう一つ聞いても良いです?」
「おう、構わねぇぞ?」
「ありがとう♪ でね?」
私は内ポケットに手を入れる
そして取り出したのは千円札
ソレを男性に見せた
「コレってさ…… ココでも使えるの?」
「勿論さ! 千ゼニエンだな♪ 飯食うくらいはちょうど良いんじゃねぇか?」
千…… ゼニエン?
銭なのか円なのかハッキリしてほしいが、そんな事を異世界にツッコんでもどうしようも無い
「ま、まぁ良いや…… おじさ…… いや、お兄さん有難う♪」
おじさんと言おうとしたが、こんなに親切にしてくれた異界の良識人に失礼だと考え、私は慌ててお兄さんに言葉を変えた
「おうよ! 旅行なら楽しんでけな♪ このドムフェスは酒が有名な町だ! 少し引っ掛けながら飯食うのが粋ってもんだぜ」
「未成年だから飲まないけど…… うん、楽しんではみるよ♪」
そう彼に伝え、私は手を振りながらお食事処の暖簾をくぐった
店内に入ると沢山の客が席を埋め尽くす
町中にも沢山居たのに、店の中にも客が沢山居た
本当に人口密度の高いこの町はかなり裕福だと思える
空いているテーブルを見付け、私は座った
仕切りも付いており、隣席の客の姿は見えない
個室とまではいかないが、最低限の配慮がされているこの店は客が多くて当然といえるサービスが施された場所だった
テーブル横には注文表が立て掛けられており、手にしてパラパラと捲ってみる
確かに文字が読めた
コレも魂字と云うのだろうか?
上から下までのメニューが不思議なほど理解できる
カレー、ステーキ、ビビンバ、パエリア、パスタ各種他にも数多く名を連ねる
スープも沢山あって、味噌スープ、私の好きなオニオンスープ、ボルシチまであった……
スゴイな、こりゃ……
なんて多国籍料理の店なんだ
というより統一感が全く無い
「注文はお決まりですか?」
メニューに目を通していると綺麗なウェイトレスが伝票とペンを持って現れ、声を掛けてくれた
てか、なんて澄んだ声のウェイトレスさんなんだ……
お友達になりたい
じゃ、無い!!
「あ、えっと…… このステーキって?」
「ステーキは各種ご用意してます♪ 牛、豚、羊とか…… 後は狼や魔獣も!」
最初の方はよく聞くけど最後の方は何だ!?
狼って!?
つか、魔獣って食えるのか!?
これから大変な戦いやるなら、今の内に体力付くものって考えていたのだけど……
値段も怖いが、食材が尚怖い
「あ、やっぱりカレーとオニオンスープで……」
「カレーとオニオンスープですね♪ 少々お待ち下さい」
いつでも食べられそうな感じだったが、私は値段との兼ね合いも鑑み、安価でハズレの無いメニューを選択した
その直後、脳内に声が届いた
【カレーかぁ…… いつでも食べられるニャね……】
解ってんのよ、そんな事……
【せっかくの異世界ッピよ? 珍しいモン食べるべきッピ!】
黙りなさい……
私の最後、なけなしの三千円だぞ……
【貧乏ッシャな……】
じゃあ、お前たち働いてよ……
【貧乏…… だ】
お前も働け…… って、クロじゃ動き遅すぎて直ぐクビだね……
騒がしい4匹に私は心で叫んだ
『まぁ、なんにせよ腹減りをどうにか出来れば良いっしょや!』
【【はぁぁい……】】
実に残念そうな4匹
解ってよ……
1番食事を楽しみにしてたの私なのに……
それなのにカレーって……
いや、良いんだ!
最悪はもう1食分のお金を残したい
その為に安価な物を選んだんだから!
注文を頼んでからもお客は引っ切り無しに訪れる店
まだ陽は高いのにラフな町だ
昼間からお酒飲んでいる人の仕事を心配し、気にしてしまうのは無駄にお人好しな性分だと自覚していた
そして周りを見ないと待ち時間が実に長く感じる
スマートフォンでもあれば触ってられるのだが、そうもいかない
不所持って事もそうだが、持っていても電波などは飛んでいないだろう
てなわけで、水くらいは欲しいのに……
などと考えつつ、私はただ外を眺めながら料理が来るのを待っていた




