10話 門番B
「ホントに面白い子だな♪ 会えて嬉しいよ!」
私の問い掛けの答えは無い
ただ突然笑われただけだ
「ちょ…… ちょっと…… 私は名前を聞いてるのにヒドくないですか!?」
「ごめんごめん! 僕はジャッジメンター様じゃ無い♪」
「え!? じゃあ……」
「僕は《門番B》さ♪」
おいおい……
はぐらかし方が雑すぎませんかね……
何かのゲームに良くある名前の無い村人みたいじゃ無いか……
「は、はぁ…… まぁいいや…… とりあえず私は地球に戻りたいので、門を通りたいのですが……」
「ソレは無理だ」
ハッキリと彼は拒否した
さっきまでの柔和な表情からは想像も付かない真剣な顔を見せる
「えっと…… どうすれば通して貰えるんです?」
「この世界を救えば、かな」
彼は尚、表情を変えずにそう言った
「それにね、君はこの時代の人間じゃ無い…… もっと先の未来から召喚されたのさ…… だからココを通っても君を知る者は居無いし、君の知る地球じゃ無いよ」
「すみません…… 言っている意味が……」
「解らなくても良い…… ただ、コレだけは聞かせてくれ」
「何をです?」
「君は泉の曾孫か?」
何!?
なぜ泉ばあちゃんを知っているの!?
誰だ、コイツ……
何と答えれば良い?
いや、嘘は通じないかも知れない
彼は私に《未来から召喚された》と言っていた
誰かも解っていない今、この人がどんな未来か何かを見知りしている可能性すら有る
「えっと…… 泉の曾孫では無いです」
ココまでが限界だ
何を知っているのか極力聞き出さなければ交渉にならない
私の中に緊張が走る
だが、そんな私と違い彼は笑った
最初に会った時よりもクシャリと変える笑顔
真剣な眼差しを向けていた数秒前とは比べ物にならない
何て美しい男性なのだろう
そんな事さえ思ってしまう
「そっかそっか♪ 咲子の曾孫かぁ!」
やっぱりだ
お粗末な詮索などは無意味
この人は私の事を知っている……
でも、私だけが無理解な状況は今後の為にもならない
言うか言わないかは別として、問い掛けた
「あの…… なんで私が咲子の曾孫だと知ってるんですか……?」
「それは…… ふむ……」
彼は空を見上げる
言葉を選んで居るのだろうか?
「うん、それはね…… 神様が教えてくれたからだよ」
「神様? 加藤さんが?」
「え?」
明らかに変わった表情
私に見せた2つの顔、笑顔と真顔
それらに属さないモノ
コレは焦り…… だろうか
少々優位な立場に届いたようだ
「加藤さんを知ってるんですね」
「ん…… うん、まぁ……」
「どんな関係なんです?」
「それは言えないよ♪」
だよね……
この場合は何がベストなのかな?
負けるわけにはいかない
コレは交渉戦だ
今後の為にも優位に、そして上位にいる事で聞き出せる内容が大きく変わる可能性がある
親子では無いだろう
私の知る神様、加藤さんは日本人のはずだから国籍が違う
上司と部下?
それもあるだろうが、ならば隠す必要も無い
彼は門番だ
神様から命令を受けて門を守護しているなんて当然のはず
で、あるならば……
「師弟とか?」
隠す必要性を考えれば、これが妥当だ
上司と部下の関係性よりも蜜月なモノ
そしてソレならば隠す必要が理解出来る
あまり多くを話したくない
でも、何かを知っている
神との関係性を知られれば私に問い質される
それを隠す為に、言いたくない
私の問い掛けに彼の表情は固まった
当たったらしい
まぁ、そんな詮索をしてもどうという事は無い
先ずは優位性を確立するのが最善で、不必要な物事は別段欲していない
彼が言いたくない事を、言わずに許す方が……
まぁ言葉は悪いが、恩を売る事が出来る為だ
「とりあえず色々解りました♪」
「そ、そうかい…… こりゃ怒られるかな……」
「神様にですか?」
「うん…… まぁ…… そうかな…… ハハハ……」
「大丈夫ですよ♪ 言いませんから」
うん、私の思い通りに事が運んでいる
コレもまた、恩売りだ
「助かるよ…… そして…… さすがは勘の良い咲子の曾孫だよ…… 感服した」
「改めて聞きますけど…… 咲子ばあちゃんを知ってるんですね?」
「うん」
今までのやり取りと違い、歯切れの良い言葉に私は驚いた
「へぇ…… それは隠さなくて良いんですか?」
「というよりも、コレだけは隠したくない…… 咲子は僕が唯一愛した女性だからね」
どういう事だ?
聞きたい、コレだけは!
「あの……」
「お! 来たか♪」
私の質問に被せて彼が声を上げた
そして向けた顔は砂漠の先
つられた私もそちらに目を向ける
ソコには砂埃が舞っていた
視界に見えるのは砂の地平線と空
その空の半分までを遮光した砂埃
ソレがどんどん近付く
砂嵐でも襲ってきたのかと思ったが、そうでは無かった
砂の地上と砂埃の中央に何かが在る
というより、ソレが向かって来ていた
アレは…… 車?
向かって来ていたのは車に見える
よく解らないこんな世界に車があるとは……
私の疑問とはお構いなしに走り寄るソレ
随分近くまで来た頃、その車には一人の男性が乗車して居るのを目視する
そして目の前まで来た車はズザザザと音を立て、停車した
止まった車はRVタイプのオープンカー
そしてトラクターに付いていそうな大きな溝のあるタイヤが印象的な乗り物だった
コレは…… 《サンドバギー》だろうか?
タイヤといい、完全に砂漠仕様のチューニングがされている
面白い乗り物だ
という感動よりも、直後の驚きが勝る
サンドバギーから降りた人は男性で、何というか……
門番Bだった
いや、待て……
言葉がおかしい
私の隣にも門番Bが居る
コレは…… 双子!?
そうか、隣の門番さんが《B》を名乗ったということは、彼は門番《A》なのだろう




